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アリシア編
52.言うしかないわね
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評議の間は広々とした石造りの部屋で、高い天井には華やかなシャンデリアが吊るされている。
床にはアイボリーホワイトの絨毯、中央には長テーブルと椅子。壁には有名な画家の絵が飾られ、重厚な雰囲気で満たされていた。
そんな評議の間で、アリシアとルーシエは王族を迎える。
ストレイア王レイナルド、第二王妃ヒルデ、第一王子ルトガー、第二王子シウリス、第三王子フリッツの五名を。
リーンはシウリスだけ。ラウはヒルデとルトガー、フリッツである。
王になるとミドルネームはなくなり、純粋なバルフォアを名乗る。したがって、レイナルドにミドルネームはない。
「わたくしを呼び出すなんて、いい身分ですこと!」
部屋に入るなり、ヒルデが苛立ちを隠そうともせずに嫌味をシウリスに向けた。
「ふんっ。勘違いも甚だしい女だ。害虫ほど自分の立場を理解できんと見える」
「んまっ!」
「シウリス、お前! 母上になんということを!」
第一王子のルトガーが眉を吊り上げたが、シウリスはまったく動じていない。
ヒルデは今にも血管が切れそうにシウリスを睨んでいたが。
(最初からこれだものね……)
アリシアは息を吐きたくなるのをぐっと堪えた。
「やめんか、シウリス。ヒルデ、ルトガーもだ」
レイナルド王が三人を諌めてくれる。フリッツだけがなにも言わずに、その場に佇んでいた。
今評議の間にいるのは、王族五人とアリシア、そしてルーシエだけだ。
王であるレイナルドが、威厳のある顔をシウリス向けた。
「して、シウリス。王族全員を呼び出すとは、何事だ」
「今から面白いことが始まる。黙って見ているといい」
シウリスは父親に対しても不遜な態度をとっていて、レイナルドは顔を顰めている。
「アリシア、お前から説明しろ」
「っは」
シウリスに指名を受けたアリシアは、最初に大事な約束を守らなければならなかった。
「まずは入室させたい者がおります。許可をいただけますでしょうか」
「いちいち許可はいらん。必要な人間は用意しろと言ったはずだ」
「っは」
アリシアはルーシエに視線を送ると、ルーシエは扉を開けて人を招き入れた。
入ってきたのはマックスと、事情を話したトラヴァスだ。
トラヴァスを見た瞬間、ヒルデは一瞬訝しい顔をしたが、すぐに平静を取り繕っている。
「シウリス様、お約束通り特権の行使をお願いいたします。彼トラヴァス、それにこの場にはいませんが、ロメオとルードンという元騎士の命の保障を」
「……なんですって」
三人の名前を聞いたヒルデが顔を歪めてボソリとつぶやく。
「どうした? 顔色が悪いようだが?」
「……なんでもないわ」
クックと笑うシウリスに、アリシアは先ほど作ったばかりの誓約書を見せた。彼らの命の保障だけでなく、この件に関して不当に地位を剥奪されることのないように、条項を加えている。
なにか言われてしまうだろうかと不安が過ぎったが、シウリスは一読した後、サラサラとサインを入れてくれた。
「いいだろう。その三名の者は、この俺の特権により命を保障する」
「ありがとうございます、シウリス様」
その紙をルーシエに渡すと、ルーシエはトラヴァスに確認を取る。間違いがないか丹念に調べたトラヴァスは、首肯した。
不貞の話は、ルナリア殺害の件とは直接関係がない。シウリスに言われていたのは、黒幕がヒルデであることを突き止めろというだけだ。
しかしアリシアには、すべてをストレイア王に報告する義務がある。それに誓約書まで書かせておいて、彼らの件を黙っていてはシウリスの不興を買いかねない。
「では聞かせろ。なぜ俺にこいつらの命の保障をさせた」
シウリスは冷徹な瞳を向けながらも、どこか期待した様子でアリシアに問いかけてくる。
(言うしかないわね)
アリシアは覚悟を決めた。ありのままを伝えるために、評議の間の人数は最小限に絞っているのだ。
トラヴァスがヒルデの不貞の相手にされていたなど、知る者はいなくていい。
床にはアイボリーホワイトの絨毯、中央には長テーブルと椅子。壁には有名な画家の絵が飾られ、重厚な雰囲気で満たされていた。
そんな評議の間で、アリシアとルーシエは王族を迎える。
ストレイア王レイナルド、第二王妃ヒルデ、第一王子ルトガー、第二王子シウリス、第三王子フリッツの五名を。
リーンはシウリスだけ。ラウはヒルデとルトガー、フリッツである。
王になるとミドルネームはなくなり、純粋なバルフォアを名乗る。したがって、レイナルドにミドルネームはない。
「わたくしを呼び出すなんて、いい身分ですこと!」
部屋に入るなり、ヒルデが苛立ちを隠そうともせずに嫌味をシウリスに向けた。
「ふんっ。勘違いも甚だしい女だ。害虫ほど自分の立場を理解できんと見える」
「んまっ!」
「シウリス、お前! 母上になんということを!」
第一王子のルトガーが眉を吊り上げたが、シウリスはまったく動じていない。
ヒルデは今にも血管が切れそうにシウリスを睨んでいたが。
(最初からこれだものね……)
アリシアは息を吐きたくなるのをぐっと堪えた。
「やめんか、シウリス。ヒルデ、ルトガーもだ」
レイナルド王が三人を諌めてくれる。フリッツだけがなにも言わずに、その場に佇んでいた。
今評議の間にいるのは、王族五人とアリシア、そしてルーシエだけだ。
王であるレイナルドが、威厳のある顔をシウリス向けた。
「して、シウリス。王族全員を呼び出すとは、何事だ」
「今から面白いことが始まる。黙って見ているといい」
シウリスは父親に対しても不遜な態度をとっていて、レイナルドは顔を顰めている。
「アリシア、お前から説明しろ」
「っは」
シウリスに指名を受けたアリシアは、最初に大事な約束を守らなければならなかった。
「まずは入室させたい者がおります。許可をいただけますでしょうか」
「いちいち許可はいらん。必要な人間は用意しろと言ったはずだ」
「っは」
アリシアはルーシエに視線を送ると、ルーシエは扉を開けて人を招き入れた。
入ってきたのはマックスと、事情を話したトラヴァスだ。
トラヴァスを見た瞬間、ヒルデは一瞬訝しい顔をしたが、すぐに平静を取り繕っている。
「シウリス様、お約束通り特権の行使をお願いいたします。彼トラヴァス、それにこの場にはいませんが、ロメオとルードンという元騎士の命の保障を」
「……なんですって」
三人の名前を聞いたヒルデが顔を歪めてボソリとつぶやく。
「どうした? 顔色が悪いようだが?」
「……なんでもないわ」
クックと笑うシウリスに、アリシアは先ほど作ったばかりの誓約書を見せた。彼らの命の保障だけでなく、この件に関して不当に地位を剥奪されることのないように、条項を加えている。
なにか言われてしまうだろうかと不安が過ぎったが、シウリスは一読した後、サラサラとサインを入れてくれた。
「いいだろう。その三名の者は、この俺の特権により命を保障する」
「ありがとうございます、シウリス様」
その紙をルーシエに渡すと、ルーシエはトラヴァスに確認を取る。間違いがないか丹念に調べたトラヴァスは、首肯した。
不貞の話は、ルナリア殺害の件とは直接関係がない。シウリスに言われていたのは、黒幕がヒルデであることを突き止めろというだけだ。
しかしアリシアには、すべてをストレイア王に報告する義務がある。それに誓約書まで書かせておいて、彼らの件を黙っていてはシウリスの不興を買いかねない。
「では聞かせろ。なぜ俺にこいつらの命の保障をさせた」
シウリスは冷徹な瞳を向けながらも、どこか期待した様子でアリシアに問いかけてくる。
(言うしかないわね)
アリシアは覚悟を決めた。ありのままを伝えるために、評議の間の人数は最小限に絞っているのだ。
トラヴァスがヒルデの不貞の相手にされていたなど、知る者はいなくていい。
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