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第2章
その17
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その次は意外に早く訪れた。
--翌朝--
俺は酷い頭痛と共に目が覚めた。
(やっぱり、飲み過ぎた)
口の中は粘ついていて、喉は乾ききっていた。
俺が水を飲もうと冷蔵庫を開け、ペットボトルを取り出し口をつけた瞬間---
---ピンポーン---
玄関のチャイムが鳴った。
時計を見ると、10時過ぎだった。
(誰だ?こんな朝から……)
俺はインターフォン越しに返事をした。
「はい、どちら様?」
---あ、おはよう!私、五月だけど---
麻生?
俺は慌てて玄関のドアを開けた。
そこには、今の俺とは正反対の、爽やかな笑顔を浮かべたメイが立っていた。
「うわっ、やっぱり二日酔い?何か目が血走ってるし」
「……悪い、麻生…声、少し抑えて…頭に響く……」
俺は頭を押さえて、懇願する。
「あ、ごめん…実は、この前持たせて貰った保存食の容器、持ってきたんだけど」
メイは紙袋を俺に差し出した。
「わざわざ、よかったのに……」
受け取りながら俺は返事をするが、気分が悪くて言葉が続かない。
そんな俺を見て、メイが俺を押しのけて家に入ってきた。
「麻生、何……」
「この前のお礼させてもらうね」
そう言うと、スーパーのレジ袋を掲げて見せて台所の方へと歩いて行った。
「はい、どうぞ!味は保証しないけどね。二日酔いには効くよ」
そう言って俺の前に、作ったばかりの味噌汁を出した。
「え?これ…」
「しじみのお味噌汁---二日酔いに良いって聞いたから」
メイは笑って『飲め』とジェスチャーをしている。
俺はその温かい味噌汁を、ゆっくりと飲んでいく。身体の中からじんわりと沁みてくる。
飲み干すと、ほうっと息をついた。
「どんな?」
心配そうにメイが聞いてきた。
「ん、美味かった。おかわりあるか?」
俺の返事に嬉しそうに頷いて、空になったお椀を持って台所へ入って行った。
しばらくすると、頭痛も治まりだいぶ気分も良くなっていた。
すると昨日の事が鮮明に思い出され、今更のようにメイの顔がまともに見れない。
(うわっ、どうしよう。今更、どう言い訳する?)
そんな俺の態度に気づいたのか、メイがそっと言った。
「朝倉君、昨日の事---私、気にしてないから。酔ってて誰かと間違ったんでしょ?」
彼女の言葉に驚いて見つめると、メイは視線を逸らしてしまった
(気にしてるだろうが……)
「ごめん……吉澤主任と好きな子の話をしてたから、つい……」
嘘ではない。相手が誰かは言わないけど。
「好きな子……いるんだ」
メイが呟く。
俺は気づかれないように、出来るだけ平静を装った。
「ああ、いるよ…… 一応俺だって健全な男ですから。ただ、片思いだけど」
その言葉にメイは、こちらを見た。
「何で?告白すればいいのに……朝倉君だったら、『OK』貰えるよ」
「ところが、彼女は俺の事が好きじゃないんだよな……だから無理」
俺が自棄気味に言うと、驚いた様にメイが言った
「彼氏がいる子とか?……まさか、人妻じゃないよね?」
「いや違うよ---本人は彼氏いないって言ってたけど」
「そうなんだ……朝倉君、大丈夫!他にもいい子はいるって!その子は見る目ないんだよ」
(いや……お前なんだけど)
言いたい気持ちを抑えて、俺はメイに微かに笑顔を向けた。
「ありがとうな。慰めてくれてさ---本当、昨日はごめん、出来れば忘れてくれ。もう2度とあんな事はしない。約束する」
俺は安心させるようにメイに言ったが、彼女は何故か一瞬、奇妙な表情を浮かべた。
「うん、大丈夫。気にしないから---朝倉君も早く、素敵な彼女できたらいいね」
お前、その言葉は残酷すぎる……
「……そうだな、早く踏ん切りつけないとな」
恐らくそんな日は来ないと思いながらも俺はそっと答えた。
メイは用事があるとかで、帰って行った。
俺は1人、家の中でメイの事を考えていた。
諦めなきゃと思う反面、心のどこかで期待している自分がいる。
昨日、彼女を抱きしめてしまった為に、もっと触れたいという欲望が頭をもたげている。
さっき、彼女に『もう2度とあんな事はしない』と言ったが自信がない。言ってるそばで、彼女の髪に触れたい、頬に触れたいと手をのばしそうになっていたのだから。
主任は『お前なら仕事とプライベート分けるだろう』と言ってくれていたが---すみません、主任。今の俺はメイに対して邪よこしまな思いしかありません。
とりあえず、今日はメイが帰ってくれて良かった。あのまま彼女がいたら、恐らく俺の理性は崩壊していたと思うから。
--翌朝--
俺は酷い頭痛と共に目が覚めた。
(やっぱり、飲み過ぎた)
口の中は粘ついていて、喉は乾ききっていた。
俺が水を飲もうと冷蔵庫を開け、ペットボトルを取り出し口をつけた瞬間---
---ピンポーン---
玄関のチャイムが鳴った。
時計を見ると、10時過ぎだった。
(誰だ?こんな朝から……)
俺はインターフォン越しに返事をした。
「はい、どちら様?」
---あ、おはよう!私、五月だけど---
麻生?
俺は慌てて玄関のドアを開けた。
そこには、今の俺とは正反対の、爽やかな笑顔を浮かべたメイが立っていた。
「うわっ、やっぱり二日酔い?何か目が血走ってるし」
「……悪い、麻生…声、少し抑えて…頭に響く……」
俺は頭を押さえて、懇願する。
「あ、ごめん…実は、この前持たせて貰った保存食の容器、持ってきたんだけど」
メイは紙袋を俺に差し出した。
「わざわざ、よかったのに……」
受け取りながら俺は返事をするが、気分が悪くて言葉が続かない。
そんな俺を見て、メイが俺を押しのけて家に入ってきた。
「麻生、何……」
「この前のお礼させてもらうね」
そう言うと、スーパーのレジ袋を掲げて見せて台所の方へと歩いて行った。
「はい、どうぞ!味は保証しないけどね。二日酔いには効くよ」
そう言って俺の前に、作ったばかりの味噌汁を出した。
「え?これ…」
「しじみのお味噌汁---二日酔いに良いって聞いたから」
メイは笑って『飲め』とジェスチャーをしている。
俺はその温かい味噌汁を、ゆっくりと飲んでいく。身体の中からじんわりと沁みてくる。
飲み干すと、ほうっと息をついた。
「どんな?」
心配そうにメイが聞いてきた。
「ん、美味かった。おかわりあるか?」
俺の返事に嬉しそうに頷いて、空になったお椀を持って台所へ入って行った。
しばらくすると、頭痛も治まりだいぶ気分も良くなっていた。
すると昨日の事が鮮明に思い出され、今更のようにメイの顔がまともに見れない。
(うわっ、どうしよう。今更、どう言い訳する?)
そんな俺の態度に気づいたのか、メイがそっと言った。
「朝倉君、昨日の事---私、気にしてないから。酔ってて誰かと間違ったんでしょ?」
彼女の言葉に驚いて見つめると、メイは視線を逸らしてしまった
(気にしてるだろうが……)
「ごめん……吉澤主任と好きな子の話をしてたから、つい……」
嘘ではない。相手が誰かは言わないけど。
「好きな子……いるんだ」
メイが呟く。
俺は気づかれないように、出来るだけ平静を装った。
「ああ、いるよ…… 一応俺だって健全な男ですから。ただ、片思いだけど」
その言葉にメイは、こちらを見た。
「何で?告白すればいいのに……朝倉君だったら、『OK』貰えるよ」
「ところが、彼女は俺の事が好きじゃないんだよな……だから無理」
俺が自棄気味に言うと、驚いた様にメイが言った
「彼氏がいる子とか?……まさか、人妻じゃないよね?」
「いや違うよ---本人は彼氏いないって言ってたけど」
「そうなんだ……朝倉君、大丈夫!他にもいい子はいるって!その子は見る目ないんだよ」
(いや……お前なんだけど)
言いたい気持ちを抑えて、俺はメイに微かに笑顔を向けた。
「ありがとうな。慰めてくれてさ---本当、昨日はごめん、出来れば忘れてくれ。もう2度とあんな事はしない。約束する」
俺は安心させるようにメイに言ったが、彼女は何故か一瞬、奇妙な表情を浮かべた。
「うん、大丈夫。気にしないから---朝倉君も早く、素敵な彼女できたらいいね」
お前、その言葉は残酷すぎる……
「……そうだな、早く踏ん切りつけないとな」
恐らくそんな日は来ないと思いながらも俺はそっと答えた。
メイは用事があるとかで、帰って行った。
俺は1人、家の中でメイの事を考えていた。
諦めなきゃと思う反面、心のどこかで期待している自分がいる。
昨日、彼女を抱きしめてしまった為に、もっと触れたいという欲望が頭をもたげている。
さっき、彼女に『もう2度とあんな事はしない』と言ったが自信がない。言ってるそばで、彼女の髪に触れたい、頬に触れたいと手をのばしそうになっていたのだから。
主任は『お前なら仕事とプライベート分けるだろう』と言ってくれていたが---すみません、主任。今の俺はメイに対して邪よこしまな思いしかありません。
とりあえず、今日はメイが帰ってくれて良かった。あのまま彼女がいたら、恐らく俺の理性は崩壊していたと思うから。
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