君の隣に

れん

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第2章

その24

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 メイとリョウは2人仲良く帰って行った。

 俺はその後ろ姿を呆然と見送っていた。

「どういう事?朝倉君!」

 物凄い勢いで雪村さんは俺に訊ねてきた。

「……そんなの…俺に聞かれても」

「まぁ、まぁ雪村---落ち着けって。とりあえず、社に戻って終業後に話しようぜ」

 吉澤主任は雪村さんを宥めながら、俺や他のメンバー全員に指示を出して帰る準備を始めた。

 その事に俺は感謝しながら、とりあえず今は何も考えないようにしようと仕事に集中した。

 


 仕事が終わった後、俺は吉澤主任と雪村さん2人に引っ張られて、会社の近くにある行きつけの居酒屋へとやって来た。

 奥の座敷を陣取ってメニューを注文し、酒と食べ物がやってきてから雪村さんが口火を切った。

「で?……何でメイちゃんとリョウが付き合ってる訳?朝倉君、あなた何してたのよ!」

 怒った様な呆れた様な口調で言い、雪村さんは俺を見ている。

 そんな事言われても……

 俺が答えないので、雪村さんはハァーと溜息をついた。

「どうせ、何も言ってないんでしょ?朝倉君、言わないと伝わらないよ?」

「……もう、手遅れですよ」

 俺は手にしていたビールを一気に飲み干した。

 そんな俺に、主任がぼそっと呟いた。

「---そうかな?手遅れでも言った方が良い事ってないか?お前、後悔しないのか?」

 その言葉に俺も雪村さんも、主任の方を見た。

「確かに言った後、気まづくなるかもしれないけど、もしそうなったらそうなったで、諦めもつくだろう?」

 確かにそうだけど……

「このまま、2人の仲の良い姿を友達として見続けるか?---それとも玉砕して清々するか?その時は俺達がやけ酒付き合ってやるよ……なぁ?雪村」

 主任はそう言うと雪村さんの方を見た。

「そうね……告白してみないとどうなるのか解らないんだから、言ってみれば?玉砕したら私達が奢ってあげる」

 玉砕前提なんですか?結局……

 俺は少し落ち込んだ。



 今日は2人が奢ってくれると言うので、有り難く奢って貰らう事にした

 少しだけ上機嫌で帰る途中、俺の携帯が鳴った。

 誰だ、今頃……

 表示された着信相手の名前を見ると---美樹だった。

「……お前、何時だと思ってんだ?」

「はぁ?電話に出ない兄貴が悪いんでしょ!今日、何回かけてると思ってんの?!」

 美樹……お前って、いつも元気だな…

「で、何の用なんだ?」

「あ、そうだ---兄貴!五月ちゃん、家に連れて来てよ」

「無理!」

 俺はすかさず答えた。今の状況でメイと一緒に帰れる訳ない。あいつだって、俺と行く理由も義理もないし。

「何で?お母さんに五月ちゃんの話をしたら、すっごく会いたがって、『大樹、連れて帰って来てくれないかしら』って言ってるんだよ」

「母さんに言っておけ---麻生も俺も仕事が忙しくて帰る暇なんてないって」

 俺の言葉に美樹は黙りこんでいる。

「……美樹?」

「---解った。お母さんにはそう伝えとく」

 不貞腐れた様な声で、美樹はボソボソと返事をすると電話を切った。

 俺はフッと溜め息をつくと携帯をしまい、家へ向かって歩き出す。

 何か疲れた……とりあえず、明日は休みだしゆっくり眠ろう……

 そんな俺の願いは、儚く消える事になる。
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