【完結】あなた方は信用できません

玲羅

文字の大きさ
1 / 2

あなた方は信用できません

しおりを挟む
「ファシスディーテ・ラスナンド、貴様との婚約を破棄する」

 めでたい卒業パーティーの会場で、いきなり壇上に上がった第一王子が大声で叫んだ。第一王子に寄り添うはトレニア・ジプソフィル子爵令嬢。その後ろに控えるのは側近候補のペルティエ辺境伯の次男、オーギュスト・ペルティエと魔法師庁長官の長男、ブライアント・バウワー、ラスナンド侯爵家の長男、すなわちファシスディーテの弟、フーロックスの3名。

 いきなりの大声に、パーティーを楽しんでいた卒業生とその家族は、何事かと注目した。

「貴様は愛しのトレニアに嫌がらせをし、怪我まで負わせた。ここに貴様を断罪する」

「罪ですか?どのような?」

 落ち着き払ってファシスディーテが第一王子尋ねる。

「貴様は取り巻きを使いトレニアに暴言を浴びせ、さらには教科書を使えないように破き、トレニアを真冬の池に突き落とし、またある日には学園の大階段から突き落とした。まさに極悪非道と言わざるをえまい」

「暴言に暴力でしょうか?取り巻きとは?」

「貴様が侯爵家の権力で無理矢理集めた令嬢達であろう。しらばっくれおって」

 そこでパーティー会場の面々は顔を見合わせた。

 侯爵家の権力で無理矢理集めた?令嬢達を?ラスナンド嬢が?あり得ない!!と。

 さっき言われたような罪状はともかく、ジプソフィル嬢の取り巻きである下級貴族令嬢達にひどい嫌がらせをのは知っている。第一王子の寵愛を受けているのはジプソフィル嬢なのだから、さっさと身を引けと暴言を浴びせられたり、突き飛ばされたりはラスナンド嬢のクラスメイトだけでなく、学園の大部分が知っていた。教師達も幾度となくジプソフィル嬢に注意したのだが、第一王子にあることないこと告げ口され、ラスナンド嬢にも黙っていてほしいと懇願されたので、報告する事もなく黙っていた。

わたくしにはそのような取り巻きは居りません」

「貴様の性格の悪さに皆逃げ出したか」

 第一王子がせせら嗤う。

「それに先ほどの暴言ですが、どのような?」

「わっ、私はアル様々に相応しくないとか、礼儀知らずとか、言っていたじゃないですかぁ。怖いお顔で」

「可哀想に、ニア。心配しなくてもいいよ。ニアに意地悪をする悪人は罰してあげるからね」

「アル様……」

 ギュッとすがりついたジプソフィル嬢の腰を引き寄せ、第一王子が目尻を下げる。

「それに真冬の池への突き落としと、学園の大階段から突き落としですか?それはいつでございますか?」

「池の方は1月、大階段は3週間前だ」

「正確には?」

「いっ1月の23日と、3週間前の9日ですっ」

「間違いございませんか?」

「間違えていませんっ。ファシスディーテ様はわっ、私が嘘をついていると思っているんだわっ」

「なんという……。ここまで性格がねじ曲がっているとは」

 第一王子がわっと泣き出したジプソフィル嬢を抱き締める。後ろに並んだ3名も眉をひそめ、ファシスディーテを睨み付けた。

「1月の23日と、3週間前の9日でございますか?その日は王宮で王太子妃教育の日でございましたわ」

 胸元からメモ帳を取り出して、パラパラとスケジュールを確認したファシスディーテに教師達が頷いた。

「おっ、お前、今どこから……」

「これらの証言は王妃様と王太子妃教育の教師がしてくださると思いますわ」

「なっ、母上が……」

「確かその日はお茶会に招待されましたので。王宮にお問い合わせくださいませ」

「突き落とした件は不問としよう。限りなく疑わしいがな。では暴言の件はどうだ?」

「それなのですが、アルバート殿下に相応しくない、礼儀知らずでしたか。それはどこで?」

「教室の廊下ですっ」

「ジプソフィル嬢の在籍してらっしゃるCクラスの、でございますか?わたくしはCクラス棟には行っておりませんけれど」

「そうやってご自分の頭の良さをひけらかして、わっ、私をバカにしてるんだわっ」

「その様なつもりはございませんわ。ここでCクラスの皆さんに証言を求めても、権力でとか仰られそうですものね」

「認めるんだな?」

「暴言ですか?言っておりませんからねぇ。そう言っても嘘だと決めつけられるのでしょうけど。困りましたわね。お願いできますでしょうか?」

「何の事だ?」

 音もなく3人がファシスディーテ後に降り立った。

「お手を煩わせまして、申し訳ございません」

「「「陛下の命なれば」」」

「その者達は?」

「王家の影ですわ。わたくしは第一王子、アルバート殿下の婚約者候補筆頭。その言動は常に監視されております。アルバート殿下にも常に控えておりますわよ」

「王家の影……」

「影の皆さんは嘘はつけません。陛下の許可は得ております。証言をお願いします」

「1月23日、ラスナンド侯爵令嬢ファシスディーテ様は、王太子妃教育の為他の候補達と共に、王妃殿下のお茶会に招待されました。同日、影の一人がトレニア・ジプソフィル嬢が池に飛び込み、アルバート殿下にラスナンド嬢に突き落とされたと讒言ざんげんしたのを記録しています。また、3週間前の9日、同じく最終試験でラスナンド侯爵令嬢ファシスディーテ様は、王宮に伺候しこうしております。同日、大階段の3段目からジプソフィル嬢が大声をあげてから飛び降り、オーギュスト・ペルティエ様、ブライアント・バウワー様、フーロックス・ラスナンド様に泣きついたのを確認しました。その際もラスナンド嬢に突き落とされたと虚言でもって、貶めていたと記録しています」

「記録……?」

 第一王子が腕の中のジプソフィル嬢を見る。ジプソフィル嬢は真っ青になってガタガタと震えていた。

「ニア、本当かい?」

「わっ、私は……」

「まさかイジメられたというのも?」

「国王陛下、王妃殿下のお越しにございます」

「アルバート!!お前は何をしておる!!」

「父上」

「陛下と言わんか、この大馬鹿者めが!!」

「しかし……」

「しかしではないわっ!!」

「ファシスディーテ、ごめんなさいね」

「王妃殿下、もったいのうございます。とはいえ、わたくしは第一王子殿下に婚約を破棄された身。これ以上は不敬に当たります」

「婚約破棄なんてさせないわ」

「元は嫌がる我が家に王命を出してでもと脅……仰せられ、こちらの意向を無視してまで婚約者候補筆頭に定められた身。これを期に辞退いたしたいと思います」

 脅された、って言いかけた?え?噂ではラスナンド侯爵家が権力を使ってねじ込んだと。

「辞退ですって?」

「それならば私が婚約者に立候補しても良いですか?ファシスディーテ嬢」

「まぁ、第二王子殿下」

「兄が済まなかった。最初から貴女の事を信じておりました。兄の婚約者候補だからと諦めておりましたが、先ほど兄の婚約者を辞退なさった。以前からお慕いしていました。どうぞ私の手を取ってください」

「第二王子殿下……」



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

妹の方が大切なら私は不要ですね!

うさこ
恋愛
人の身体を『直す』特殊なスキルを持つ私。 毒親のせいで私の余命はあと僅か。 自暴自棄になった私が出会ったのは、荒っぽい元婚約者。

そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?

ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。 「私は何もしておりません! 信じてください!」 婚約者を信じられなかった者の末路は……

婚約破棄されたので、あなたの国に関税50%かけます~最終的には9割越えの悪魔~

常野夏子
恋愛
隣国カリオストの第一王子であり婚約者であったアルヴェルトに、突如国益を理由に婚約破棄されるリュシエンナ。 彼女は怒り狂い、国をも揺るがす復讐の一手を打った。 『本日より、カリオスト王国の全ての輸入品に対し、関税を現行の5倍とする』

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

侯爵令嬢は限界です

まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」 何言ってんだこの馬鹿。 いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え… 「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」 はい無理でーす! 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。 ※物語の背景はふんわりです。 読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

「仕方ないから君で妥協する」なんて言う婚約者は、こちらの方から願い下げです。

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるマルティアは、父親同士が懇意にしている伯爵令息バルクルと婚約することになった。 幼少期の頃から二人には付き合いがあったが、マルティアは彼のことを快く思っていなかった。ある時からバルクルは高慢な性格になり、自身のことを見下す発言をするようになったからだ。 「まあ色々と思う所はあるが、仕方ないから君で妥協するとしよう」 「……はい?」 「僕に相応しい相手とは言い難いが、及第点くらいはあげても構わない。光栄に思うのだな」 婚約者となったバルクルからかけられた言葉に、マルティアは自身の婚約が良いものではないことを確信することになった。 彼女は婚約の破談を進言するとバルクルに啖呵を切り、彼の前から立ち去ることにした。 しばらくして、社交界にはある噂が流れ始める。それはマルティアが身勝手な理由で、バルクルとの婚約を破棄したというものだった。 父親と破談の話を進めようとしていたマルティアにとって、それは予想外のものであった。その噂の発端がバルクルであることを知り、彼女はさらに驚くことになる。 そんなマルティアに手を差し伸べたのは、ひょんなことから知り合った公爵家の令息ラウエルであった。 彼の介入により、マルティアの立場は逆転することになる。バルクルが行っていたことが、白日の元に晒されることになったのだ。

「婚約破棄してやった!」と元婚約者が友人に自慢していましたが、最愛の人と結婚するので、今さら婚約破棄を解消してほしいなんてもう遅い

時雨
恋愛
とある伯爵家の長女、シーア・ルフェーブルは、元婚約者のリュカが「シーア嬢を婚約破棄にしてやった!」と友人に自慢げに話しているのを聞いてしまう。しかし、実際のところ、我儘だし気に入らないことがあればすぐに手が出る婚約者にシーアが愛想を尽かして、婚約破棄をするよう仕向けたのだった。 その後リュカは自分の我儘さと傲慢さに首を締められ、婚約破棄を解消して欲しいと迫ってきたが、シーアは本当に自分を愛してくれる人を見つけ、結婚していた。 だから今更もう一度婚約して欲しいなんて、もう遅いのですっ!

処理中です...