1 / 16
Ep1 Santa Claus is coming to town
しおりを挟む
マシューは銀杏並木の美しいオーナメント通りの一角にある、煉瓦壁に蔦が描かれたクラシカルなカフェの扉を開けた。
黄金色の銀杏の絨毯が敷き詰められた町はすっかり秋の装いで、クリスマスの飾り付けでゴージャスに華やぐのを今か今かと待っている。
プラチナブロンドにブルーの瞳。
スラッと手足の長さが際立つ長身のお陰で見映えは決して悪くない。
店内にいる数名の女性達が会話を止め、一瞬だけ彼に視線を注いだ。
奥の席で女性がにこやかに手を振っている。
お日さまのように輝く赤毛のショート、ライトグリーンの瞳。
数ヶ月前から付き合い始めた恋人のクインだ。
マシューは店内を奥まで進み、彼女の前の椅子に腰掛けた。
「はいメニュー!今年は倍率低いって聞いた?チャンスじゃない? 」
「倍率が低いのは嬉しいけど、どうやったらオーディションに受かるかって最近そればっかり考えて頭が痛いよ。あ、モカで」
「今度で四回目だっけ? 」
マシューは年を経る度に自信を喪失していった。
サンタ役のオーディションに毎年落ちているからだ。
『君はサンタのイメージではない』
彼の曾祖父は伝説のサンタクロース。
世界中の子供達にプレゼントを届ける。
赤い帽子に赤い服。
トナカイのひくソリを走らせる白い髭のお爺さん。
大抵の人が抱くサンタのイメージ造形に一役買ったのが彼の曾祖父、ジョセフ・クローバーだ。
大人達から依頼を受け、家族のいない子供達には無償でプレゼントを届ける。
クローバー家は代々サンタ役に選ばれ優秀な記録を残してきた。
家に飾られたトロフィー、誇らしげな顔でパートナーのトナカイと並んで撮った写真。
成長して父がサンタと知った時から、自分も何時か必ずソリを走らせ子供達にプレゼントを届けると誓った。
夢を届ける事こそが彼の夢だった。
より多くの子供達にプレゼントを届ける為に曾祖父ジョセフが設立したクローバーカンパニーにはコネであっさり入社。
表向きは総合商社としての顔を持ち、クリスマスシーズンが近付くと変貌する。
勿論、此処の社員がサンタだなんて子供達にはナイショだ。
入社して希望すれば直ぐにサンタの役を貰えると思っていたら、そこはコネが効かずに何とオーディションがあった。
ソリの操縦だって、トナカイとのコミュニケーション能力だって自信があった。
それなのに──
「イメージに合わないってどういう事だよ。ダンスだってクリスマスソングだって上手くやって見せた。オーディションに受かってる奴等は皆、若い。端からイメージに合ってないじゃないか」
「お父さんに聞いてみればいいじゃない」
「親父はとっくに引退してる。今は悠々自適の旅行三昧。サンタだった事すら忘れてるよ。聞くのも癪だし」
テーブルに置かれたコーヒーカップにミルクを滴し、乱暴にかき混ぜた。
「待って、マシュー。オーディションの内容詳しく教えて」
クインもクローバーカンパニーの社員だ。
普段は輸出管理部で働き、クリスマスの日にはソリ誘導オペレーターとしてサンタをサポートする。
話しを聞き終えると、瞳に合わせた薄緑色のフレームのメガネを人差し指ですっと上げてからクインが言った。
「正直過ぎるわ。趣味はサーフィンなんて、全然サンタのイメージじゃない。せめてスノボかスキーって答えるべきよ」
「でも今更。毎年サーフィンって答えてるから、もう覚えられてるよ」
「聞かれたらサーフィンは飽きたって言えばいいだけでしょ! 」
「オーケー、そうする。後は? 」
「ダンスと歌ね。うちのお爺ちゃん見てるとダンスも歌もテンポがズレてるの。少し猫背で前屈みで足だけ必死に動かしてる感じ。ふんふんふーんって口ずさんでる歌と動きが噛み合ってないのよ。上手に踊ってはダメ。そういう風に出来る? 」
「分かった。お爺ちゃんの歌とダンス撮って送ってくんない?それ見て練習してみるよ。他には? 」
クインはこくりとコーヒーを一口飲んだ後、ソーサーに戻してから首を傾げた。
「今更だけど、ダンスと歌って必要なの?サンタは子供達に姿を見られちゃいけないのに何で? 」
「夜中にトイレで起きる子供がいるからだって。咄嗟の事態に対応できる表現力の審査だって聞かされてるけど」
「ふーん。ともかく、一番問題なのは見た目ね!! 」
「え?一応、俺イケメンって事になってる筈だけど、服のセンスがマズイって意味? 」
「だから……マシューがモテないのはそういうとこ!受かってる連中を思い出して」
「ああ!同じ部署だとチャックにマーリー。マーケティング部にはトム」
「共通点分からない? 」
「共通点?フライドポテトやフライドチキンが好き──とか? 」
「そうよ!それとビッグサイズのコークがいつもデスクの上にある! 」
黄金色の銀杏の絨毯が敷き詰められた町はすっかり秋の装いで、クリスマスの飾り付けでゴージャスに華やぐのを今か今かと待っている。
プラチナブロンドにブルーの瞳。
スラッと手足の長さが際立つ長身のお陰で見映えは決して悪くない。
店内にいる数名の女性達が会話を止め、一瞬だけ彼に視線を注いだ。
奥の席で女性がにこやかに手を振っている。
お日さまのように輝く赤毛のショート、ライトグリーンの瞳。
数ヶ月前から付き合い始めた恋人のクインだ。
マシューは店内を奥まで進み、彼女の前の椅子に腰掛けた。
「はいメニュー!今年は倍率低いって聞いた?チャンスじゃない? 」
「倍率が低いのは嬉しいけど、どうやったらオーディションに受かるかって最近そればっかり考えて頭が痛いよ。あ、モカで」
「今度で四回目だっけ? 」
マシューは年を経る度に自信を喪失していった。
サンタ役のオーディションに毎年落ちているからだ。
『君はサンタのイメージではない』
彼の曾祖父は伝説のサンタクロース。
世界中の子供達にプレゼントを届ける。
赤い帽子に赤い服。
トナカイのひくソリを走らせる白い髭のお爺さん。
大抵の人が抱くサンタのイメージ造形に一役買ったのが彼の曾祖父、ジョセフ・クローバーだ。
大人達から依頼を受け、家族のいない子供達には無償でプレゼントを届ける。
クローバー家は代々サンタ役に選ばれ優秀な記録を残してきた。
家に飾られたトロフィー、誇らしげな顔でパートナーのトナカイと並んで撮った写真。
成長して父がサンタと知った時から、自分も何時か必ずソリを走らせ子供達にプレゼントを届けると誓った。
夢を届ける事こそが彼の夢だった。
より多くの子供達にプレゼントを届ける為に曾祖父ジョセフが設立したクローバーカンパニーにはコネであっさり入社。
表向きは総合商社としての顔を持ち、クリスマスシーズンが近付くと変貌する。
勿論、此処の社員がサンタだなんて子供達にはナイショだ。
入社して希望すれば直ぐにサンタの役を貰えると思っていたら、そこはコネが効かずに何とオーディションがあった。
ソリの操縦だって、トナカイとのコミュニケーション能力だって自信があった。
それなのに──
「イメージに合わないってどういう事だよ。ダンスだってクリスマスソングだって上手くやって見せた。オーディションに受かってる奴等は皆、若い。端からイメージに合ってないじゃないか」
「お父さんに聞いてみればいいじゃない」
「親父はとっくに引退してる。今は悠々自適の旅行三昧。サンタだった事すら忘れてるよ。聞くのも癪だし」
テーブルに置かれたコーヒーカップにミルクを滴し、乱暴にかき混ぜた。
「待って、マシュー。オーディションの内容詳しく教えて」
クインもクローバーカンパニーの社員だ。
普段は輸出管理部で働き、クリスマスの日にはソリ誘導オペレーターとしてサンタをサポートする。
話しを聞き終えると、瞳に合わせた薄緑色のフレームのメガネを人差し指ですっと上げてからクインが言った。
「正直過ぎるわ。趣味はサーフィンなんて、全然サンタのイメージじゃない。せめてスノボかスキーって答えるべきよ」
「でも今更。毎年サーフィンって答えてるから、もう覚えられてるよ」
「聞かれたらサーフィンは飽きたって言えばいいだけでしょ! 」
「オーケー、そうする。後は? 」
「ダンスと歌ね。うちのお爺ちゃん見てるとダンスも歌もテンポがズレてるの。少し猫背で前屈みで足だけ必死に動かしてる感じ。ふんふんふーんって口ずさんでる歌と動きが噛み合ってないのよ。上手に踊ってはダメ。そういう風に出来る? 」
「分かった。お爺ちゃんの歌とダンス撮って送ってくんない?それ見て練習してみるよ。他には? 」
クインはこくりとコーヒーを一口飲んだ後、ソーサーに戻してから首を傾げた。
「今更だけど、ダンスと歌って必要なの?サンタは子供達に姿を見られちゃいけないのに何で? 」
「夜中にトイレで起きる子供がいるからだって。咄嗟の事態に対応できる表現力の審査だって聞かされてるけど」
「ふーん。ともかく、一番問題なのは見た目ね!! 」
「え?一応、俺イケメンって事になってる筈だけど、服のセンスがマズイって意味? 」
「だから……マシューがモテないのはそういうとこ!受かってる連中を思い出して」
「ああ!同じ部署だとチャックにマーリー。マーケティング部にはトム」
「共通点分からない? 」
「共通点?フライドポテトやフライドチキンが好き──とか? 」
「そうよ!それとビッグサイズのコークがいつもデスクの上にある! 」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる