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Ep1 Santa Claus is coming to town
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マシューは銀杏並木の美しいオーナメント通りの一角にある、煉瓦壁に蔦が描かれたクラシカルなカフェの扉を開けた。
黄金色の銀杏の絨毯が敷き詰められた町はすっかり秋の装いで、クリスマスの飾り付けでゴージャスに華やぐのを今か今かと待っている。
プラチナブロンドにブルーの瞳。
スラッと手足の長さが際立つ長身のお陰で見映えは決して悪くない。
店内にいる数名の女性達が会話を止め、一瞬だけ彼に視線を注いだ。
奥の席で女性がにこやかに手を振っている。
お日さまのように輝く赤毛のショート、ライトグリーンの瞳。
数ヶ月前から付き合い始めた恋人のクインだ。
マシューは店内を奥まで進み、彼女の前の椅子に腰掛けた。
「はいメニュー!今年は倍率低いって聞いた?チャンスじゃない? 」
「倍率が低いのは嬉しいけど、どうやったらオーディションに受かるかって最近そればっかり考えて頭が痛いよ。あ、モカで」
「今度で四回目だっけ? 」
マシューは年を経る度に自信を喪失していった。
サンタ役のオーディションに毎年落ちているからだ。
『君はサンタのイメージではない』
彼の曾祖父は伝説のサンタクロース。
世界中の子供達にプレゼントを届ける。
赤い帽子に赤い服。
トナカイのひくソリを走らせる白い髭のお爺さん。
大抵の人が抱くサンタのイメージ造形に一役買ったのが彼の曾祖父、ジョセフ・クローバーだ。
大人達から依頼を受け、家族のいない子供達には無償でプレゼントを届ける。
クローバー家は代々サンタ役に選ばれ優秀な記録を残してきた。
家に飾られたトロフィー、誇らしげな顔でパートナーのトナカイと並んで撮った写真。
成長して父がサンタと知った時から、自分も何時か必ずソリを走らせ子供達にプレゼントを届けると誓った。
夢を届ける事こそが彼の夢だった。
より多くの子供達にプレゼントを届ける為に曾祖父ジョセフが設立したクローバーカンパニーにはコネであっさり入社。
表向きは総合商社としての顔を持ち、クリスマスシーズンが近付くと変貌する。
勿論、此処の社員がサンタだなんて子供達にはナイショだ。
入社して希望すれば直ぐにサンタの役を貰えると思っていたら、そこはコネが効かずに何とオーディションがあった。
ソリの操縦だって、トナカイとのコミュニケーション能力だって自信があった。
それなのに──
「イメージに合わないってどういう事だよ。ダンスだってクリスマスソングだって上手くやって見せた。オーディションに受かってる奴等は皆、若い。端からイメージに合ってないじゃないか」
「お父さんに聞いてみればいいじゃない」
「親父はとっくに引退してる。今は悠々自適の旅行三昧。サンタだった事すら忘れてるよ。聞くのも癪だし」
テーブルに置かれたコーヒーカップにミルクを滴し、乱暴にかき混ぜた。
「待って、マシュー。オーディションの内容詳しく教えて」
クインもクローバーカンパニーの社員だ。
普段は輸出管理部で働き、クリスマスの日にはソリ誘導オペレーターとしてサンタをサポートする。
話しを聞き終えると、瞳に合わせた薄緑色のフレームのメガネを人差し指ですっと上げてからクインが言った。
「正直過ぎるわ。趣味はサーフィンなんて、全然サンタのイメージじゃない。せめてスノボかスキーって答えるべきよ」
「でも今更。毎年サーフィンって答えてるから、もう覚えられてるよ」
「聞かれたらサーフィンは飽きたって言えばいいだけでしょ! 」
「オーケー、そうする。後は? 」
「ダンスと歌ね。うちのお爺ちゃん見てるとダンスも歌もテンポがズレてるの。少し猫背で前屈みで足だけ必死に動かしてる感じ。ふんふんふーんって口ずさんでる歌と動きが噛み合ってないのよ。上手に踊ってはダメ。そういう風に出来る? 」
「分かった。お爺ちゃんの歌とダンス撮って送ってくんない?それ見て練習してみるよ。他には? 」
クインはこくりとコーヒーを一口飲んだ後、ソーサーに戻してから首を傾げた。
「今更だけど、ダンスと歌って必要なの?サンタは子供達に姿を見られちゃいけないのに何で? 」
「夜中にトイレで起きる子供がいるからだって。咄嗟の事態に対応できる表現力の審査だって聞かされてるけど」
「ふーん。ともかく、一番問題なのは見た目ね!! 」
「え?一応、俺イケメンって事になってる筈だけど、服のセンスがマズイって意味? 」
「だから……マシューがモテないのはそういうとこ!受かってる連中を思い出して」
「ああ!同じ部署だとチャックにマーリー。マーケティング部にはトム」
「共通点分からない? 」
「共通点?フライドポテトやフライドチキンが好き──とか? 」
「そうよ!それとビッグサイズのコークがいつもデスクの上にある! 」
黄金色の銀杏の絨毯が敷き詰められた町はすっかり秋の装いで、クリスマスの飾り付けでゴージャスに華やぐのを今か今かと待っている。
プラチナブロンドにブルーの瞳。
スラッと手足の長さが際立つ長身のお陰で見映えは決して悪くない。
店内にいる数名の女性達が会話を止め、一瞬だけ彼に視線を注いだ。
奥の席で女性がにこやかに手を振っている。
お日さまのように輝く赤毛のショート、ライトグリーンの瞳。
数ヶ月前から付き合い始めた恋人のクインだ。
マシューは店内を奥まで進み、彼女の前の椅子に腰掛けた。
「はいメニュー!今年は倍率低いって聞いた?チャンスじゃない? 」
「倍率が低いのは嬉しいけど、どうやったらオーディションに受かるかって最近そればっかり考えて頭が痛いよ。あ、モカで」
「今度で四回目だっけ? 」
マシューは年を経る度に自信を喪失していった。
サンタ役のオーディションに毎年落ちているからだ。
『君はサンタのイメージではない』
彼の曾祖父は伝説のサンタクロース。
世界中の子供達にプレゼントを届ける。
赤い帽子に赤い服。
トナカイのひくソリを走らせる白い髭のお爺さん。
大抵の人が抱くサンタのイメージ造形に一役買ったのが彼の曾祖父、ジョセフ・クローバーだ。
大人達から依頼を受け、家族のいない子供達には無償でプレゼントを届ける。
クローバー家は代々サンタ役に選ばれ優秀な記録を残してきた。
家に飾られたトロフィー、誇らしげな顔でパートナーのトナカイと並んで撮った写真。
成長して父がサンタと知った時から、自分も何時か必ずソリを走らせ子供達にプレゼントを届けると誓った。
夢を届ける事こそが彼の夢だった。
より多くの子供達にプレゼントを届ける為に曾祖父ジョセフが設立したクローバーカンパニーにはコネであっさり入社。
表向きは総合商社としての顔を持ち、クリスマスシーズンが近付くと変貌する。
勿論、此処の社員がサンタだなんて子供達にはナイショだ。
入社して希望すれば直ぐにサンタの役を貰えると思っていたら、そこはコネが効かずに何とオーディションがあった。
ソリの操縦だって、トナカイとのコミュニケーション能力だって自信があった。
それなのに──
「イメージに合わないってどういう事だよ。ダンスだってクリスマスソングだって上手くやって見せた。オーディションに受かってる奴等は皆、若い。端からイメージに合ってないじゃないか」
「お父さんに聞いてみればいいじゃない」
「親父はとっくに引退してる。今は悠々自適の旅行三昧。サンタだった事すら忘れてるよ。聞くのも癪だし」
テーブルに置かれたコーヒーカップにミルクを滴し、乱暴にかき混ぜた。
「待って、マシュー。オーディションの内容詳しく教えて」
クインもクローバーカンパニーの社員だ。
普段は輸出管理部で働き、クリスマスの日にはソリ誘導オペレーターとしてサンタをサポートする。
話しを聞き終えると、瞳に合わせた薄緑色のフレームのメガネを人差し指ですっと上げてからクインが言った。
「正直過ぎるわ。趣味はサーフィンなんて、全然サンタのイメージじゃない。せめてスノボかスキーって答えるべきよ」
「でも今更。毎年サーフィンって答えてるから、もう覚えられてるよ」
「聞かれたらサーフィンは飽きたって言えばいいだけでしょ! 」
「オーケー、そうする。後は? 」
「ダンスと歌ね。うちのお爺ちゃん見てるとダンスも歌もテンポがズレてるの。少し猫背で前屈みで足だけ必死に動かしてる感じ。ふんふんふーんって口ずさんでる歌と動きが噛み合ってないのよ。上手に踊ってはダメ。そういう風に出来る? 」
「分かった。お爺ちゃんの歌とダンス撮って送ってくんない?それ見て練習してみるよ。他には? 」
クインはこくりとコーヒーを一口飲んだ後、ソーサーに戻してから首を傾げた。
「今更だけど、ダンスと歌って必要なの?サンタは子供達に姿を見られちゃいけないのに何で? 」
「夜中にトイレで起きる子供がいるからだって。咄嗟の事態に対応できる表現力の審査だって聞かされてるけど」
「ふーん。ともかく、一番問題なのは見た目ね!! 」
「え?一応、俺イケメンって事になってる筈だけど、服のセンスがマズイって意味? 」
「だから……マシューがモテないのはそういうとこ!受かってる連中を思い出して」
「ああ!同じ部署だとチャックにマーリー。マーケティング部にはトム」
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