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改めて見ると笑夫さんはかなり窶《やつ》れていた。
「飲まず食わずで卵を?一体どれくらいの間? 」
「二ヶ月間かな。流石に参るよね。漸く孵ったと思ったらヤンチャな雛達の育児だろ?つくづく命削ってるよ」
「…………」
僕は二ヶ月と聞いて絶句した。
「いくらなんでも……休まないと。ハード過ぎますよ。奥さんに育児は任せれば良いのに……」
「奥さんはいないんだ。いや、いるんだけど卵を産んだら直ぐに他の雄を探しに行ってしまったよ。エミューの雌は卵を産んだら産みっぱなしなんだ。大変だけど仕方がない。僕が子供達を守り育てるしかないんだ」
「そんな……酷い……それで夫婦って言えるんでしょうか? 」
「君から見れば僕の奥さんは酷い雌かもしれない。事実、酷い……でも僕にも原因はあるんだ」
「どんな? 」
「余りにも卵を守ろうと熱が入り過ぎて、奥さんが近付いてくると攻撃しちゃうんだよね」
「・・・・・・」
流石にそれはやり過ぎだという感想を僕は胸の内に留めた。
「そういえば全部自分の子供ではないって言ってましたけど、他の雌のまで? 」
「そうだね。たまにいるんだよ。自分の旦那でも無いのに卵をこっそり置いてく雌が。ついでに孵してやってるのさ。仕方ないよ。僕は育児に命懸けてるから」
「ああ流石キング。心が広過ぎる」
僕は余りの動物の好さに感心半分、呆れ半分で目を丸くした。
「まあ、そんな訳で僕と心愛さんは似た者同士って事で意気投合したんだよ。お互いシングルのワンオペだからね。そういえば弁&銀がさっき来てタツノオトシゴに会ったって興奮気味に言ってたのは君の事だったんだね」
「弁と銀は卵を見付けられたんだろうか」
「うん、見付けたって凄い嬉しそうにしてたよ」
「それは良かった。二匹に拾われた卵は幸せですね。雄同士でも産めるようになればいいのに」
「ははは!雌同士だって産めるのは限られた種だけさ。別に産めなくたっていいんじゃないかな。産んで捨てるぐらいなら育てる方が立派でしょ?そういう意味では弁と銀は非常に生産性の高い行動を取ってる訳だし。それに仲の良いカップルは見てるだけで幸せな気分になるよ。僕の奥さんは…………」
笑夫さんの眉毛が八の字に下がったのを見て僕は慌てた。
話題を変えないと──
「笑夫さんと話していて僕は勇気を貰いました。笑夫さんも僕も同じですもんね。笑夫さんは身体の下で、僕はお腹の中で卵を孵してるだけです。笑夫さんは凄い!流石キングと呼ばれるだけの事はある」
「いやぁ。ただ温めるのと産むのでは違うよ。イクメンなら沢山いるよ。亭主関白のイメージが強いライオンも意外とイクメンだしねぇ。流石に出産まで担当するのはタツノオトシゴぐらいじゃないの? 」
笑夫さんが僕を褒めてくれてるのは伝わってきたし、フォレストで初めて出来た貴重な雄の友達という点では嬉しかった。
でも、「タツノオトシゴぐらいじゃない? 」と言われてしまうと、雄で出産という特殊な種である事に対する拭いきれないモヤモヤを、笑夫さんと同じと思う事で払拭しようとしていた僕の気持ちはまた揺らいでしまった。
「その、聞いてもいいですか? 」
「何? 」
僕は一瞬だけ躊躇い、勇気を出して訊ねた。
「ブチハイエナの花さんって御存知ですか? 」
「ああ、知ってるよ。彼女の事は。彼女の出産には是非立ち会いたいな。以前にブチハイエナの出産に立ち会った時には失神してしまってね。最後まで見届けてあげる事が出来なかったから」
笑夫さんの寂しげな表情よりも、僕を動揺させたのは「彼女」という言葉だった。
「彼女って事は雌なんですか? 」
「雄だと思ってた?まあ、僕も正直始めはそう思ったけど」
「でも、股間に……」
「ああ、あれね。雄と変わらないから区別つかないよね。何の為に付いてるかは謎だけど──」
「はあ、雌だったんですね」
花さんと仲良くなりたかった訳じゃない。
でも雄で出産する動物にやっと巡り会えたと思ったのに。
「花さんて一見怖く見えるでしょ? 」
「あ、はい!実は優しいんですか? 」
「いや、本当に怖いんだよ」
「・・・・・・・」
「でも一本筋は通ってるし、心は熱いんだよね。甘えた事言うとビシッと吠えられちゃんだけど間違ってないっていうか。まあ、見た目通りカカア天下なのは確かだけど、わざと強がってる部分もあると思うよ。特に妊娠中はね」
「じゃあ、普段は割と穏やか? 」
「うーん。あんまり変わんないかな」
「・・・・・・・・」
「ブチハイエナの雌っていうのは色々背負ってるのさ。肩肘張ってないとやってられないんだろう。エミューの雄の育児の負担は確かに大きいけど、ブチハイエナの場合は出産のリスクが高過ぎるからね。僕が知る限り動物界最強の難産じゃないかな。僕はつくづくブチハイエナの雌に産まれなくて良かったって思うよ。ああ……」
「笑夫さん!! 」
笑夫さんの眉毛が八の字に下がったと思ったら、また巨体が傾いて僕は慌てた。
「ああ、大丈夫。ブチハイエナの出産シーンを思い出して目眩が……こんな事では花さんの出産も最後まで見届けてあげられないかもしれない」
「哺乳類の出産シーンは僕は見た事ないですけど……怖いですね」
「ああ、特にブチハイエナは凄まじい。グロさMAXだよ。前に立ち会った雌は死産な上に出産時の傷が原因で亡くなってしまったんだ」
「飲まず食わずで卵を?一体どれくらいの間? 」
「二ヶ月間かな。流石に参るよね。漸く孵ったと思ったらヤンチャな雛達の育児だろ?つくづく命削ってるよ」
「…………」
僕は二ヶ月と聞いて絶句した。
「いくらなんでも……休まないと。ハード過ぎますよ。奥さんに育児は任せれば良いのに……」
「奥さんはいないんだ。いや、いるんだけど卵を産んだら直ぐに他の雄を探しに行ってしまったよ。エミューの雌は卵を産んだら産みっぱなしなんだ。大変だけど仕方がない。僕が子供達を守り育てるしかないんだ」
「そんな……酷い……それで夫婦って言えるんでしょうか? 」
「君から見れば僕の奥さんは酷い雌かもしれない。事実、酷い……でも僕にも原因はあるんだ」
「どんな? 」
「余りにも卵を守ろうと熱が入り過ぎて、奥さんが近付いてくると攻撃しちゃうんだよね」
「・・・・・・」
流石にそれはやり過ぎだという感想を僕は胸の内に留めた。
「そういえば全部自分の子供ではないって言ってましたけど、他の雌のまで? 」
「そうだね。たまにいるんだよ。自分の旦那でも無いのに卵をこっそり置いてく雌が。ついでに孵してやってるのさ。仕方ないよ。僕は育児に命懸けてるから」
「ああ流石キング。心が広過ぎる」
僕は余りの動物の好さに感心半分、呆れ半分で目を丸くした。
「まあ、そんな訳で僕と心愛さんは似た者同士って事で意気投合したんだよ。お互いシングルのワンオペだからね。そういえば弁&銀がさっき来てタツノオトシゴに会ったって興奮気味に言ってたのは君の事だったんだね」
「弁と銀は卵を見付けられたんだろうか」
「うん、見付けたって凄い嬉しそうにしてたよ」
「それは良かった。二匹に拾われた卵は幸せですね。雄同士でも産めるようになればいいのに」
「ははは!雌同士だって産めるのは限られた種だけさ。別に産めなくたっていいんじゃないかな。産んで捨てるぐらいなら育てる方が立派でしょ?そういう意味では弁と銀は非常に生産性の高い行動を取ってる訳だし。それに仲の良いカップルは見てるだけで幸せな気分になるよ。僕の奥さんは…………」
笑夫さんの眉毛が八の字に下がったのを見て僕は慌てた。
話題を変えないと──
「笑夫さんと話していて僕は勇気を貰いました。笑夫さんも僕も同じですもんね。笑夫さんは身体の下で、僕はお腹の中で卵を孵してるだけです。笑夫さんは凄い!流石キングと呼ばれるだけの事はある」
「いやぁ。ただ温めるのと産むのでは違うよ。イクメンなら沢山いるよ。亭主関白のイメージが強いライオンも意外とイクメンだしねぇ。流石に出産まで担当するのはタツノオトシゴぐらいじゃないの? 」
笑夫さんが僕を褒めてくれてるのは伝わってきたし、フォレストで初めて出来た貴重な雄の友達という点では嬉しかった。
でも、「タツノオトシゴぐらいじゃない? 」と言われてしまうと、雄で出産という特殊な種である事に対する拭いきれないモヤモヤを、笑夫さんと同じと思う事で払拭しようとしていた僕の気持ちはまた揺らいでしまった。
「その、聞いてもいいですか? 」
「何? 」
僕は一瞬だけ躊躇い、勇気を出して訊ねた。
「ブチハイエナの花さんって御存知ですか? 」
「ああ、知ってるよ。彼女の事は。彼女の出産には是非立ち会いたいな。以前にブチハイエナの出産に立ち会った時には失神してしまってね。最後まで見届けてあげる事が出来なかったから」
笑夫さんの寂しげな表情よりも、僕を動揺させたのは「彼女」という言葉だった。
「彼女って事は雌なんですか? 」
「雄だと思ってた?まあ、僕も正直始めはそう思ったけど」
「でも、股間に……」
「ああ、あれね。雄と変わらないから区別つかないよね。何の為に付いてるかは謎だけど──」
「はあ、雌だったんですね」
花さんと仲良くなりたかった訳じゃない。
でも雄で出産する動物にやっと巡り会えたと思ったのに。
「花さんて一見怖く見えるでしょ? 」
「あ、はい!実は優しいんですか? 」
「いや、本当に怖いんだよ」
「・・・・・・・」
「でも一本筋は通ってるし、心は熱いんだよね。甘えた事言うとビシッと吠えられちゃんだけど間違ってないっていうか。まあ、見た目通りカカア天下なのは確かだけど、わざと強がってる部分もあると思うよ。特に妊娠中はね」
「じゃあ、普段は割と穏やか? 」
「うーん。あんまり変わんないかな」
「・・・・・・・・」
「ブチハイエナの雌っていうのは色々背負ってるのさ。肩肘張ってないとやってられないんだろう。エミューの雄の育児の負担は確かに大きいけど、ブチハイエナの場合は出産のリスクが高過ぎるからね。僕が知る限り動物界最強の難産じゃないかな。僕はつくづくブチハイエナの雌に産まれなくて良かったって思うよ。ああ……」
「笑夫さん!! 」
笑夫さんの眉毛が八の字に下がったと思ったら、また巨体が傾いて僕は慌てた。
「ああ、大丈夫。ブチハイエナの出産シーンを思い出して目眩が……こんな事では花さんの出産も最後まで見届けてあげられないかもしれない」
「哺乳類の出産シーンは僕は見た事ないですけど……怖いですね」
「ああ、特にブチハイエナは凄まじい。グロさMAXだよ。前に立ち会った雌は死産な上に出産時の傷が原因で亡くなってしまったんだ」
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