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第一章
血の味を知った者③
しおりを挟むピチョン、ピチョンーー、と、何処かで小刻みに水の滴る音がする。
私はあれから、一匹の獣によって奥まで引きずり込まれ、寒くて冷たい場所に寝転がされていた。
「…元凶…、」
女の人が吐き捨ててきたあの言葉、あれはどういう意味なのだろう。
私がこの家の崩壊を招いた元凶とか言ってたっけ…。
月城家に一体何があったというのか、そこから調べなければいけないようだけど…。
この状況だと、もう生きて残れる可能性の方が少ないのかもしれない。
「…グルルルルル…、」
ピチャ、ピチャ、と音がして。痛む肩をザリザリとした舌に舐められている中、獣の荒い呼吸を傍に感じ、視線を移動させると…。
浅ましく血を啜る黒豹がそこにいた。
この男は、どうしてしまったのだろう。
肩の肉は食らっていないものの、飢えを満たす為に血を啜るその姿を見て、疑問に思う。
久しぶりに会うのに以前のような余裕さも、偉そうな態度もしない。一言も話さないけれど、金色の目だけは私を真っ直ぐに捉えている。
けれど、それは対人というものではなく。獲物を捉えた獣のもので。
「はは、ははは…ッ、」
自分の置かれた状況に絶望するのは、これで何度目だろうかーー。
乾いた笑いが冷たい部屋の中に響き渡り、目の前にいた獣もビクリと反応する。
殺そうと思っていた対象には今まで与えられなかった愛や優しさを注がれ、調子を狂わされる毎日。
同様に殺そうと思っていた憎き獣のαである彼は飢えを凌ぐのに必死で、私の血を啜っているではないか。
何もしなくてももう少しで死んでしまいそうな彼に、笑いが止まらなかった。たとえ、血を貪られ自分が死にそうになっていたとしても、だ。
今までロウがこんな場所に捕らわれている事を知らずにこの家で生きていたと思うと、反吐が出る。
「……っ、んっ、」
「…」
まるで笑うのを終わらせるかのように、チュッと口を重ねられ、中までしっとりと舐められる。
ザリザリとした舌に付いた自分の血がそこで広がり、鉄の味を感じながら涙を零す。
キスと言われたらそうなのかもれない。
けれど、彼は私の頭から食べようとしている可能性だってある。
「うっ、…ぐすっ、」
笑いと同時に込み上げてきたものが外に放出された事で、自分の意思が強く主張を始める。
嫌だーー、
こんな場所で死にたくない。
まだ、私は誰にも復讐出来ていない。
こんな場所で終わってたまるものかーーーーッ!
「……私はアンタ達を殺すためだけに今まで生きてきたんだ。」
獣の太い首を両手で包み、グッと力を入れる。弱い力に負けるわけがないと過信しているのか、不思議と抵抗しない彼の隙を突いて。
「私を穢した、アンタをーー。」
「…」
「私を置いて行ったあの人を、」
「…グルル、」
「私を追い出したアイツらをーーー、この手で殺すために生きてきたんだ…ッ、」
ドサーーッ…
大きな声で叫んだ次の瞬間。私は身体に残っていた力の全てを振り絞り、上に覆い被さっていた彼を押し倒した。
バタバタッ…。
ガタッ…。
ダン、と背中を打ち付けた彼は私を睨み上げ、今すぐにでも押し返してきそうだ。
けれど、私は両手に力を入れて彼を殺しにかかった。
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