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第二章
狼の寵愛②
しおりを挟むルビーの呟きをもう少しハッキリと聞き取れていたなら、今後に起こる事を避けられたのかもしれない。
そう思わざるを得ない事態になるのを、俺は知る由もなかったんだ。
「……今日、やるの?」
「ルビーが良ければな、」
「…うん、分かった、」
空も暗く染まり、静寂に包まれた夜。俺の言葉に素直に頷く従順な彼女を信じ込んで、手を差し伸べたのがいけなかった。
ルビーの復讐を決行する事を誓ったその日、使用人の誰もが出歩かなくなった廊下を並んで歩いていた時、俺は彼女と手を繋いでいた。
ルビーが傍から居なくならないようにする為でもあったそれが自分に降り掛かる災難の原因となるなんて、誰も予想しないだろう?
「…ギンさん、」
「ん、どうした?」
地下室の階段の前でピタリと止まったルビーが不安そうな声で俺の名前を呼び、潤んだ瞳をこちらに向ける。
不安に感じる事があったのだろうと思い、彼女に合わせて屈んで返事をすると…。
暗い廊下で、桃色の唇がニィッと吊り上がった。
「……さようなら。」
冷たく静かな声で呟かれたのは、その口から一番聞きたくなかった言葉で。聞き取った時にはもう遅く、グイッと払い退けられるようにルビーの手が動き、絡んでいた指先は離れていく。
おかしいな、さっきまでは確かに繋いでいたのに…。
「…くっ、」
不意を突かれた事でグラりと傾いた体勢を整えようとした瞬間、着地点を狙った彼女の細い脚に引っ掛けられ、俺の身体は無様に地下室の前へと転がり落ちた。
受け身の体制を取ったおかげで頭を強打せず、致命傷は免れたが、多少の怪我を負った所為もあり地面から起き上がるのは困難で。
「…へぇ、死ななかったんだ。運がいい人」
残念そうに呟かれた言葉にも、ズキリと胸が痛む。
「…ルビー、」
俺は、冷たい瞳をこちらに向けながらトン、トンとゆっくり階段を降りてくる彼女に、こう聞いた。
「俺を、先に殺すつもりだったのか…?」
「…。さあ、」
答えは、かえってこない。
全身を強く打ち付けた為、身体にルビーを止める程の力は残っておらず。朦朧とする意識の中、涼しい表情で横を通り過ぎる彼女を視線で追う。
地下室には拷問に使う道具があり、それを上手く使えばルビーは容易く獣人を殺められる。
「ルビー…」
「…」
「…行かないで…くれ…」
必死で紡いだ言葉もルビーには届かず、彼女はスタスタと地下室の中へと進んでいく。
嗚呼、ルビー。
俺はお前を、守りたかった、だけ、なの、に……。
そこで俺の意識はパタリと無くなった。
月城 ギンside 終
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