真実の愛なんてクソ喰らえ

月宮雫

文字の大きさ
127 / 204
第二章

夢と現実の狭間①

しおりを挟む
じっくりと考えたら一人だけそういう立場の人が居た。

だが、私は彼が経営しているお店を全て把握していない為、それは確かではない。

店の名前はムーンライト…。

月という英語が入っていたとしても、そうと決めつけられるものは何も無い。




「…」

「…はっ!そうだわっ、」




少しの沈黙が美容院を包み込んだ後、突然何かを思い出したように美容師さんがスキニーパンツのポケットから紙を取り出した。

小さなメモ用紙にも見えるそれにドクン、ドクンと心臓が脈打ち、緊張感を抱く。

何、あれ…。

凄く嫌な予感がする。





「忘れるところだったわ~っ、実はその彼からとある言伝を預かってるの!」

「…、」





美容師さんが紡いだ言葉にビクリと身体が反応し、その先を聞きたくないというように、すぐさま逃げる体勢に入ろうとする。

もしも、“彼”が私の頭に思い浮かんだ人ならーー。

間違いなくそれは私を拘束する内容だ。

私は彼の籠から逃げ出した。

まだ逃げ出してから日も浅いのに、もうここまで手が伸びてきているとは…。






「あら?どうしたの?」

「い、いえ…少し気分が悪くて…」

「そうなの?少し休んでいく?」

「い、いえ大丈夫です…、あの、本当にありがとうございました」





まだ誰なのかを知ったわけではないのに、その先は聞くなと、本能が叫んでいた。

額にじっとりと変な汗が滲み、膝はケタケタと笑い始め、私の心の焦りを映し出す。

焦りを抱いている事に気づかれないよう、美容師さんの好意を受け取らずに背を向けた。




「んもうっ、伝言あるのにっ、」

「いや、いいんです…、」



プリプリと怒っている彼を余所に、私は心の中でかなり焦っていた。

早く、逃げないと…。

捕まってしまったらまた私は復讐を止められる。

このチャンスを逃したら、もう二度と私は外にも出られなくなる。





「すいませんっ、ありがとうございました…」




そういう思いで美容院から出ようと入口のドアノブを掴んだ時だった。


ガチャ、ガチャガチャ…。




「……え?」




ガチャガチャ…。

入ってきた時はすんなりと開いた鍵が何故か閉まっている。

鍵が掛かってるの…?

何度押しても扉は開かず、私はドアノブを掴みながら立ち尽くした。

どうして開かないの…?

さっきまでは開いてたはずなのに…、




「どうしたの?」

「あ、あの…すいません、扉が開かなくて…っ、」

「…あら、開かない?」




不思議に思ったのか、美容師さんに話し掛けられ、私は咄嗟に助けを求めた。

すると優しい声が返ってきて、扉のガラスにこちらに向かってくる美容師さんが映り込む。

この時私は、扉が開かないのは建付けの悪さや、歪みが原因なのかと思っていたんだ。

だから、ゆっくりと近づいてきていた足音に何も疑いを持たなかった。





「そうねぇ、誰かが悪戯しちゃったのかしら…?」

「……ッ、」






けれど、ドアのガラスに映りこんだ彼の笑みが少し不気味に思えて。ガラス越しに目が合った瞬間、ゾワリと悪寒が走ったのだ。





「なんってね…っ、」

「んぅーーっ!」




すぐ傍まで迫ってきていたものを感じ、反射的に振り返ると口元に素早くハンカチが当てられた。

最悪だ、最悪だ…!

早く逃げなきゃ…!

そう考えていた時にはもう遅く、私は鼻の奥に広がった薬品の匂いに気が遠くなっていた。






「ごめんなさいね、貴方を見かけたら逃がさないようにってギンから言われてるのよ…っ。」

「うぐっ、」

「ギンが迎えに来るまで上の部屋で大人しく寝ていてちょうだい…。」

「ゃ、ぁ…」






口紅が塗られた唇から全てを語られた後に、首の後ろをトンと叩かれて…。私はそのまま意識を失ってしまったのだった。

最後に聞いた名前に、自分の中で妙に納得する。

やっぱり私の勘は当たっていたんだ、と…。












「ごめんなさいね…、」



少女が眠った美容院の中、少し悲しげな表情をした男は携帯を片手にある者に連絡をする。




「…ルビーちゃん、捕まえたわよ。」

「よくやった、時雨しぐれ。ルビーに怪我は?」

「ないわよ…。けど、寝不足みたい。夢見も悪いのか、シャンプー中に寝ている時も凄く魘されてたわ…。」

「……そう、か。わかった…。
数日すれば俺も退院出来る。そしたらすぐに迎えに行くから、数日だけルビーを頼む…」

「はいはい、分かったわよ社長。
もう、こんなに可愛い子泣かせて…最低よ。」




報告を一通り終わると、酷く安心したような声が電話越しに聞こえて、美容師の時雨も呆れたように笑う。

電話相手は彼の上司であり、親友である獣人だった。

数日前に居なくなった少女がこの辺りに来ていると連絡を受けていた彼は、初めから嘘をついていたのだ。

本当は伝言なんて預かっていない。

獣人の話を出した時の彼女の反応を見たかっただけだった。

何故なら、その子が本物なのか確かめる必要があったから。

キョトンとすれば偽物で、逃げ出せば本物。そういう風に狼からも聞いている。



「ルビーちゃん、ギンが来るまで私がお世話してあげるからね……」



静まり返った美容院の中、気を失った少女の頬に手を滑らせ、彼は悲しげに笑いながら呟いた。

狼の獣人と再会するまで、残り一週間。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)

MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。 しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。 ​母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。  その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。 ​純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。 交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

わたしたちの庭

犬飼ハルノ
恋愛
『夜明けになるまで絶対に寝室の扉を開けないで』  未来の義母が告げたのは奇妙な夜の掟だった。  父に売られる形でブルーノ伯爵子息の婚約者になったフィリスの物語。  ヒロインのフィリスが自らの力と周囲の人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、しばらくは暗く重い展開です。  タグを途中から追加します。   他サイトでも公開中。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...