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副業?複業? 二つのジョブって

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ものすごく色々な事があった1日だったけど、
今はロアンヌさんと一緒に山の向こうにある
俺の家に帰る所なんだ。
実際のところ、帰れるかどうか不安なんだけど。

ロアンヌさんの足は、俺のスキルで
歩けるまで直ったけれど筋力が落ちているので、
リハビリを兼ねて一緒に着いてきてくれることになったんだ。

また山でワイルドウルフが襲ってきても
今度は草刈機だけじゃなくて盾と剣もあるから
なんとかなる気もするし、一人でもよかったんだけど。
嬉しそうに行きましょうって言われると
愛想笑いで返事するしかなかった。


途中はずっとロアンヌさんと話をしていて、
足の怪我をして冒険者を引退するまでは
カイルさんと二人で討伐依頼をこなしていたそうだ。
カイルさんはエルフ族で短弓と短剣使いで、
ロアンヌさんは鬼人族で双剣使いだそうだ。

カイルさんの弓は早引きという技があって、
一瞬で10本もの矢を放つことが出来るそうだ。
短剣はトドメをさす時に使う程度だったそうだ。

ロアンヌさんが怪我をして引退する時に
他の人とコンビを組めばいいのに、
一緒になってギルドの職員になったんだそうだ。
やっぱりいい人なんだなと思った。


そんな話をしていたら、
山の中腹くらいまで登ってきていて、
もう少しで着くかなと安心した途端、
またあの遠吠えが向かう先の方向から
聞こえてきた。

その時、一つだけ売らずに残していた
ワイルドウルフの魔石の力で
どのくらい飛び上がれるのか
試してみたいと思った。

 「ロアンヌさん、
  ワイルドウルフの魔石の力で
  どのくらい飛び上がれるのか
  確認したいんだけど、
  この魔石の力の使い方を
  教えて欲しいんだ。」

 「魔石の力を使うのね?
  そうね、ワイルドウルフの魔石は
  短距離ジャンプのスキルが使えるわ。

  ジャンプと念じれば飛び上がれるのだけど、
  使う者のMPを消費するから、
  飛び上がれる高さと距離は個人差があるわね。」

 「それって、ロアンヌさんと一緒に
  飛び上がることもできるのかな?」

 「あら、一緒に飛んでみたいの?
  手で触れていれば一緒に飛び上がれるわ。
  でも、カケル君に負担がかかるわよ?」

それでも早速飛び上がってみたいと言ったら、
ロアンヌさんが手を伸ばしてきてくれた。

その手の甲に重ねようとしたら、
ふふっと言いながら俺の手を握られてしまった。
少し柔らかな感じのする指の感触にドキドキしたのは内緒。


 (ジャンプ
  家の前まで行けるといいな。)

そう念じてみたら、体がふわっと浮く感じがして、
夕焼けに染まり始めた山道の景色が
スローモーションで流れていく感じになったんだ。
5m以上の高さを飛んでいる感じがして、
少しすくんだ足の下の方を、
5、6頭のワイルドウルフがすごい速さで
駆け抜けていくのが見えた。

少し速度と高さが落ちてきた感じがした時だった。
向かう先に大きな赤い炎が立っているのが見えて、
ものすごく嫌な感じがした。


着地すると、ロアンヌさんは少しぐったりとして
両手を地面について苦しそうに大きな息を繰り返していた。
 
 「すごい 速さで 随分と 長い
  距離を 飛んだわね。
 
  はぁー、流石に MPが多いと 
  効果が 違うわね。
  息が まともに できなくて 
  とても 苦しかったわ。」


 (ピロン
  ハイパージャンプのスキルを獲得しました。
  新たなジョブを獲得しました。
  時空間魔術士のジョブを選択しますか?)

何それ?
魔術士だって?
胸が熱くなってきた。
ならないはずがない、いや、なるべきなんだ。
俺は魔術士になるっ!

 (ピロン
  ジョブに時空間魔術士が追加されました。
  時の牢獄のスキルが付与されました。
  MPが50向上しました。)

ええっ!?
変更じゃなくて追加なんだ?
慌ててステータスを確認したら、
確かにジョブが薬草士と時空間魔術士の
二つになっていたんだ。
副業扱い?いや、両方メインなら複業というのかもしれない。
時の牢獄ってなんだろうと思ってタップしてみたら、

 時の牢獄
 視界内の任意のものを時間が
 経過しない空間に閉じ込めることができる。
 生命体にも使用可能。
 牢獄の内部では思考も含めて行動の全てが停止する。 
 外部から攻撃を加えることは可能。
 任意に開放できる。    
  
これはまた便利なスキルを獲得できたみたいだ。
少し嬉しくなっていたら、耳が痛くなるような
お腹に響く咆哮が聞こえてきた。


 「まずいわ、あの姿はきっとフレイムオーガよ。
  周りのものを焼いてしまう能力がある魔物よ。

  放っておくと果樹園にも被害が出るから
  緊急で討伐要請が必要な相手よ。

  どうしてもあの先に行くのなら、
  回り道する方がいいわね。」

 「どうせ討伐する必要がある魔物なら
  ちょっと試してみたいスキルがあるんだけど。

  見つからないように茂みの中から使うから、
  このまま少し脇に逸れて進んでもいいかな。

  うん、スキルだけじゃなくてジョブも増えたし、
  時空間魔術士のジョブも追加されたから。」

 「えっ?
  追加って?
  二つのジョブに就いているの?
  あり得ない事だわ。

  でも、カケル君ならあり得るわね。
  そうね、ダメならギルドまで戻りましょう。
  横の茂みの中を進みましょう。」

何となく時の牢獄で捕まえて、剣で攻撃すれば
討伐できるんじゃないかと思った。

赤い炎を纏った3m近い巨漢の姿が見えてきたけど、
炎のゆらめきが凄くて周りの風景が滲んでいた。
あいつを閉じ込めたいと思いながら強く念じた。

 (時の牢獄)

ところどころが時折小さな光を放つ、
大きな四角い箱のようなものが、
フレイムオーガを取り込んだのと同時に、
動きも止まって大きな咆哮も聞こえなくなった。

すかさず、茂みから飛び出して駆け寄ると、
フレイムオーガの胸のあたり目掛けて
剣を真っ直ぐに下から突き上げた。
でも、思っていたより硬くて
少ししか刃先が突き立たなかった。

 「熱いっ!」

突き立てた剣ごと蕩けそうな、全身を火傷しそうな
熱さが襲ってきた。

耐えるんだ、こんな魔物が果樹園に近づいたら
焼けてしまう。倒すんだ。
そう必死に思いながら、深く突き刺さるように力を込めた。
途端に熱さを感じなくなって、剣がスルッと突き刺さっていった。

 (ピロン
  貫通のスキルを獲得しました。
  火炎耐性のスキルを獲得しました。)

新しいスキルに助けられたみたいだ。
ほっとしたのと同時にフレイムオーガを倒せた気がして、
時の牢獄を解放と念じてみた。

スッと赤い炎が消えると同時に、
フレイムオーガが後ろ向きに倒れていった。
ドシンッという大きな地響きと共に。

 (ピロン
  フレイムオーガを討伐しました。
  レベルが5上がりました。
  HPが180上がりました。
  MPが180上がりました。
  ステータスポイントを180獲得しました。
  ステータスポイントの割り振りを実行しますか?)

またレベルが上がったみたいだけど、
ステータス画面をみながら、
どれをあげるか少し悩んだ。


☆鞍馬 翔のステータス
 種族:異世界人(女神の祝福)
 レベル:8
 ジョブ:薬草士、時空間魔術士
 HP:216
 MP:265
 敏捷:10
 耐久:10
 知力:60
 運:20
 スキル:切断、探知、薬草採取、製薬、
     薬草鑑定、魔石鑑定、洗浄、浄化回復、
     ハイパージャンプ、時の牢獄、貫通、
     火炎耐性
 ステータスポイント:180
 ギフト:スキル創造

凄くバランスが悪いんじゃないかと思って、
少しは均等になるように敏捷、耐久、知力、運を
70に揃えて割り振ることにした。

 「すごいじゃない!
  フレイムオーガって何人もの冒険者で
  何とか討伐できるような魔物なのに、
  一人で倒しちゃうなんて。

  カケル君には驚かされることばかりだわ。」

ロアンヌさんに驚かれてしまったけど、
スキルのおかげで倒せただけだから、
何だかなぁって微妙な感じがした。


ふと先の方を見ると、家の門灯の明かりだろうか、
ぼんやりとした光が見え出していた。
もうすぐあの温かい壁に当たるかもしれない。
何となくロアンヌさんに触れていないと
あの壁は一緒に越えられない気がした。

 「あ、ロアンヌさん、
  この先くらいに見えない壁みたいな
  感じがするものがあって、何となくだけど、
  さっきみたいに手で触れていないと
  一緒に越えられない気がするんだ。」

 「あら、そうなのね。
  かなり暗くなってきたのによく分かるのね?
  じゃあ、さっきみたいに手を繋いで行きましょう。」

ロアンヌさんはそう言うと俺の手を握ってきた。
ちょっぴり嬉しかったのは内緒。


そこから手を繋いで、周りの気配に注意を払いながら
静かにゆっくりと進んだ。
ロアンヌさんには、この先に見えている明かりが
見えていないようだ。
じっと見つめていると、
何となく家の輪郭も見えてきた気がした。
 
 (ピロン
  暗視のスキルを獲得しました。
  共有獲得が可能です。
  共有しますか?)

何だろう?
暗視のスキルはありがたいけど、共有って?
もしかして、手を繋いでいるから
ロアンヌさんもスキルを獲得できるのかな?
はい  と念じたら、

 「ええっ?
  何、今の声は?
  カケル君の声じゃないわね?
  まるで耳の中で聞こえたような声がしたわ。

  あ、すごいわ!
  暗くなっているのに周りの景色がよく見えるわ!」

 「あ、暗視のスキルを今獲得できたみたいで、
  共有して獲得できたみたいなんだけど。」

 「そんなことがあるのかしら?
  カケル君にはもう驚かされることばかりね。

  でも、嬉しいわ。
  スキルって初めて獲得できたから。」


ご機嫌になったロアンヌさんと再び歩き出した途端、
フワッとした温かい壁を越えた気がした。

 「あらっ?
  あんなところに建物が見えるわ?
  変わった形をしているわね。
  あれがカケル君の家なのかしら?」

無事にロアンヌさんと一緒に
家が見える草原に帰って来れた。
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