無情の電脳傭兵 異世界で再起動する

graypersona

文字の大きさ
30 / 164

昏迷

しおりを挟む
水を湛えて湖本来の姿が見られるようになった王都では、
人々もとげとげしさがなくなり、本来の温厚な心を取り戻しつつあった。

そんな臣民を見渡しながら、深い重い気分でどこを見ることもなく
立ち尽くす王がいた。

 余はこれまで何を血迷うておったのか。
 魔族の国、獣人族の国とは長きに渡っていた戦乱を
 先代王が苦労の末治め、平穏な世になっておったというのに、
 余は何故水を求めて侵攻することを留め立て出来なかったのか。
 
 すべて無に帰してしまった。水は戻れども真の平和とは呼べぬ。
 侵略の末に築かれた仮初の平穏でしかない。
 かの国の平穏を奪った責を負わねばならぬ。
 この命をもってしてでも取り戻さねばならぬ。

 余はもはや王ではない、余自身が認めることが出来ぬ。
 
 第一王子は体が弱く、今も伏せておるようでは、任せるのは忍びない。
 第二王子は第二騎士団の愚行の先陣をきっておったと聞く、
 廃嫡以外になかろう。

 厳しいが第一王女の女王制を貴族院で認めさせるほかないか。
 魔族の国も獣人族の国も女王制であったな、うむ、
 フレイヤは芯のしっかりとした娘だ、任せるに足るな。

ルードス王はバルコニーから玉座に戻ると、
衛兵にフレイヤを呼ぶよう伝えるのであった。

********************************************************

同じ時、広間の北にあるテラスにて。
煌めく湖面のまぶしさを映すことなく、
苦渋の色に染まったような目で眺めている男がいた。
この人族の国の宰相、ルーフェンスである。

 何処で判断を間違えたのか、何故こうもすべてを悪い方へ
 履き違えてしまっているのか。何かがおかしい。
 まるで、今まで操られていたかのようだ。

 今思えば、見た目が珍しいだけで魔法行使力のずば抜けていたアランが
 現れてからというもの、先代の魔法団長バルドーと共に
 すべてを歪めてとらえてしまうようになっていたのかもしれぬな。
 未熟な事よ。

 アランの行動が逐一気に障り、あの異界召喚の魔法陣にも
 バルドーの入れ知恵で手を加えたのが始まりであったやも知れぬ。
 まさか、あのような悪漢が3人も召喚されてしまうとはな。
 バルドーは責を感じ、魔法陣を改竄したことを後悔しながら
 苦悶の顔のまま逝ってしまうほどであったな。

 いいや、違う、断じて違う。我こそが犯した過ちなのだ。
 アランを信じておれば、あのような悪漢共を召喚せず、
 魔族の国も、獣人族の国にも攻め入るような愚行は犯さなかったのではないか。
 陛下が心を痛めるようなことになった責もすべて我にある。

 なんとしても、かの国に詫びを入れ少しでも関係修復を図らねば
 死んでも死に切れん。いや、それまで死ぬことすら許されぬな。
 なんと罵倒されようとも何をされようともすべて甘んじて受けよう。
 これは我の大罪の結果であるな。

 水の確保に心中穏やかになれず、正しい判断が出来なくなっていた未熟さ、
 我の無能さを恥じるばかりだ。何が宰相なものか。無能極まれり。

 あの大魔法を行使してくれたセブン殿に礼の一つも言えぬ無礼者でもあるな。
 彼の遣いが来る時こそ、我の身命をかけた働きを行うべき時か。
 今更ではあるがセブン殿、何卒我に助力願い奉る。

湖面に向かって長い間頭を垂れるルーフェンスであった。


********************************************************

フライングユニットのカーラと共に電脳兵のセブンは
拠点二階のカタパルトから飛び立っていった。
その姿を見送るセブンのサポートアンドロイド、サラの心中も
穏やかではなかった。

 どうして、いえ、何処で名前を知ったのかしら。
 セブンの元の脳の海馬は、今のスペースチタン製ボディに
 換装する時に損傷してしまったはずなのに。

 そこは私の脳と融合されて何とか精神暴走を抑えているだけで、
 バイパスの流動メモリーに、私の記憶の一部をセブンの記憶として
 改竄してあるはずなのに。

 幼い自分の姿を見たという事は私の海馬の中の記憶にリンクできたのかしら?
 あれからもう100年以上経つというのに今になってどうして・・
 この世界に召喚される時に変化があったとしか考えられないわね。

 変な感じだわ。セブンの脳の中にあるはずの私の意識は、
 セブンに知られることなく存在出来て、中継するこのアンドロイドボディで
 リンクしたままだなんて。
 まるでこのアンドロイドボディに私の電脳があるかのようだわ。

その時、サラの眼内モニターに圧縮メッセージが届いたことを示す、
アラートがついた。

 何これ?ありえないわ!この機体にこの機能はないはずだわ!
 ま、まさか、セブンの時と同じく
 女神様からのメッセージだとでもいうのかしら。

意を決して、メッセージの解凍を実行するサラであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

送信者:*&%$#‘@+
コメント:やっほー!サラお初~。

さっきもう少しでセブンにすべての記憶を戻せたんだけど、
次の調整の時にでも開放しちゃうね。

サラから話すより、見て感じたように戻せるから
サラの思いも身にしみて分かると思うよ。

で、こっからが本題なんだけど、
いい女神の私から今まで頑張ってきたサラに
スペシャルプレゼントー!!

何と、そのボディ、
拠点管理用アンドロイドなんかじゃありませーん。
何だと思う~?へっへーん、絶対当たらないと思うな~。

正解は、何と! セブンと同じ電脳ボディなんです!

どう?驚いた?嬉しい?嬉しいよね?
ほめてくれてもいいんだよ、もっとほめてくれていいんだよ~。

同じといっても戦闘機能は趣味じゃなかったからつけてないからね。
代わりに、元通りの脳の再生をしてあるのと、
セブンには流体メモリーを介してリンクしてるだけなんだよ。

そう、気づいた? そうなんだよ、セブンの脳も再生してあるんだよ。
だから、過去の記憶を呼び起こして、今ある記憶とリンクしたかったんだけど
超全力で拒否られたんでちょっと凹んでるんだけど。

うーん、サラの性格だと、この再生も微妙って感じかな~。
でもね、これが私が干渉出来るぎりぎりのサービスだったんだよね。
嫌だったかもしれないけど、無理矢理この世界に引き込んだお詫びと
私の神徒のクロを助けてくれたお礼でもあるんだよね~。


私はこの荒み切った世界の運命をあなたたちに託したいの。
セブンの魔法が固定だったのはわざとなの。


最後にサラも生活魔法レベルは使えるはずだから
頑張って習得してみてね。

じゃあ、セブン・・違うか武人と一緒に力を合わせて頑張ってね紗良。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 えっ?電脳ボディ?脳が再生されてるですって?
 流体メモリーとリンクしているだけ?
 じゃあ、この拠点管理用アンドロイドだと思っていたボディが私の実体で、
 セブンの中はミラーリングしてるだけなのね、なら納得いくのだわ。

 って、最初から教えといて欲しかったのだわ。
 しかも、生活魔法って・・・ちょっと興味あるわね。
 うん、ちょっと感謝してあげてもいいかな。

 でも、セブンのことを今になって武人とは呼びにくいわね。
 でもまた、無事に帰ってきてくれることを祈る日々が続きそうなのだわ。
 向こうの世界で300年以上も戦い続けてきたのだから、
 もう平穏な日々を過ごさせてあげたいのだけれど。

 精神暴走だけが心配なのだわ。
 暴走状態になる事で使えるあの機能。
 電脳のオーバークロックから反応炉のオーバーパワーが引き起こす
 全身の機能のオーバーヒート。
 最後は電脳が焼けただれて、最悪の場合、廃人になってしまうのだわ。
 あの 超加速 の機能だけは封印を解かないように調整が必要だわ。
 
セブンが飛び去って行った天空を見上げながら、不安感を覚えるサラであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...