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26-2 逆恨み
「姉さま」
「?」
こっそりとリンディがメロディナに耳打ちをする。
その内容に目を丸くしながらも、聡い弟の話に耳を傾けた。
と、床を踏み抜いてしまいそうな荒々しい音を立て、先ほど出て行った男が戻ってきた。でっぷりと肥えた男を連れ、勢いよく扉が開かれた。
「ご依頼の姉弟はコイツらでよかったですかねぇダンナ?」
「あぁあぁよくやった! あの忌々しいコーラル家の跡継ぎと引きこもりの娘に間違いない!」
「あ、あなたは……」
メロディナはその男を見たことがあった。
滅多に屋敷から出ることのないメロディナが知る人物。それは──
「スタンリー伯爵ではないですか。いや、今はもう爵位を剥奪されたのでしたっけ? ならただの耄碌ジジイですね。どうやって脱獄したのかは知りませんが、僕たちにまで手を出して……逃げ切れるわけがないでしょうに、これからどうするおつもりですか?」
「このガキ……!」
揶揄うようにリンディが口を開く。ともすれば挑発とも思えるその発言に、メロディナは気が遠くなりかけた。
当然スタンリー元伯爵は声を荒げ、ドタドタと距離を詰めたかと思うと、リンディの頬を力いっぱい平手打ちをする。その拍子にリンディは床に転がって、咳きこんでしまった。
「きゃぁっ! リンディ! っ、子供に手をあげるなんて……!」
メロディナはスタンリー元伯爵を、軽蔑を込めて睨みつけた。
この男は先の夜会の晩餐に少しだけ顔を出しており、そこで一度顔を合わせたことがある。メロディナを嵌めようとした、あのマリエットの父親だ。
「うるさいうるさいうるさい! お前たちのせいで何もかもがめちゃくちゃだ! 築き上げた財も爵位も、全てパァだ!」
「私たちのせいですって……? 本気で言っているのですか。逆恨みですよね。あなた方が違法なことを行っていて、それが検挙されただけのことでしょう。私たちが非難される覚えも、殴られる覚えもありませんわ」
興奮し、怒りに目をギラつかせる元伯爵。
なにをしでかすかわからない恐怖に、縛られた手がぶるぶると震えてしまう。だがそれをぎゅっと握りしめ、メロディナは毅然と相手を見返した。
「ふんっ! そうやって言っていられるのも今のうちだ。おい、おまえら。こいつらの反抗的な態度を改めさせろ。弟の目の前で犯してやれ。そっちの坊主も、好にしろ」
「なっ……!」
「へへ、いいんですかぁダンナぁ。売るときに生娘の方が良い値が付くんじゃ? いや、おいらたちは願ってもねぇですけどね?」
「そう思っていたがな。よく考えればこいつが生娘とも限らん。公爵家の倅と良い仲だという話もあるしな。ハッ、とんだあばずれよ」
「へぇ? まぁ処女なんて痛がるし面倒でしかねぇですからね。こぉんな美人とヤれるなんてついてんなぁ」
「確かに顔だけは整っておるからな。くそっ、あの日お前が騒ぎ立てたせいでわしの可愛いマリエットが捕まったのだ! お前が辱められたと知ったら、あの非情なコーラル家の当主は一体どう思うだろうな? 力なく項垂れる様をぜひ見届けたいものだ! まぁその時にはもう、わしはこの国にはおらんだろうがな。じっくり見られんのが残念だ」
悪意ある呪いのような言葉を浴びせられ、メロディナの血の気が引いていく。
──この人は、今なんと言ったの? リンディの前で、私を……?
「わしは上にいる。なにかあれば呼べ。出発は予定通り、夜が更けてからだ」
「おや。ダンナは楽しまないんで?」
「ふんっ! こやつのせいでわしのマリエットが可哀想な目にあったのだぞ! これ以上声も聞きとうないわ!」
メロディナこそ、そのマリエットにもう少しで違法な薬物を飲まされ、男たちの慰み者にされるところだったのだが。この男の中では、マリエットこそ悲劇のヒロインらしい。
メロディナに対する恨みがましい言葉を喚き散らし、顔を真っ赤にして姉弟を睨みつけると、肥えた男は乱暴に部屋から出て行った。
「?」
こっそりとリンディがメロディナに耳打ちをする。
その内容に目を丸くしながらも、聡い弟の話に耳を傾けた。
と、床を踏み抜いてしまいそうな荒々しい音を立て、先ほど出て行った男が戻ってきた。でっぷりと肥えた男を連れ、勢いよく扉が開かれた。
「ご依頼の姉弟はコイツらでよかったですかねぇダンナ?」
「あぁあぁよくやった! あの忌々しいコーラル家の跡継ぎと引きこもりの娘に間違いない!」
「あ、あなたは……」
メロディナはその男を見たことがあった。
滅多に屋敷から出ることのないメロディナが知る人物。それは──
「スタンリー伯爵ではないですか。いや、今はもう爵位を剥奪されたのでしたっけ? ならただの耄碌ジジイですね。どうやって脱獄したのかは知りませんが、僕たちにまで手を出して……逃げ切れるわけがないでしょうに、これからどうするおつもりですか?」
「このガキ……!」
揶揄うようにリンディが口を開く。ともすれば挑発とも思えるその発言に、メロディナは気が遠くなりかけた。
当然スタンリー元伯爵は声を荒げ、ドタドタと距離を詰めたかと思うと、リンディの頬を力いっぱい平手打ちをする。その拍子にリンディは床に転がって、咳きこんでしまった。
「きゃぁっ! リンディ! っ、子供に手をあげるなんて……!」
メロディナはスタンリー元伯爵を、軽蔑を込めて睨みつけた。
この男は先の夜会の晩餐に少しだけ顔を出しており、そこで一度顔を合わせたことがある。メロディナを嵌めようとした、あのマリエットの父親だ。
「うるさいうるさいうるさい! お前たちのせいで何もかもがめちゃくちゃだ! 築き上げた財も爵位も、全てパァだ!」
「私たちのせいですって……? 本気で言っているのですか。逆恨みですよね。あなた方が違法なことを行っていて、それが検挙されただけのことでしょう。私たちが非難される覚えも、殴られる覚えもありませんわ」
興奮し、怒りに目をギラつかせる元伯爵。
なにをしでかすかわからない恐怖に、縛られた手がぶるぶると震えてしまう。だがそれをぎゅっと握りしめ、メロディナは毅然と相手を見返した。
「ふんっ! そうやって言っていられるのも今のうちだ。おい、おまえら。こいつらの反抗的な態度を改めさせろ。弟の目の前で犯してやれ。そっちの坊主も、好にしろ」
「なっ……!」
「へへ、いいんですかぁダンナぁ。売るときに生娘の方が良い値が付くんじゃ? いや、おいらたちは願ってもねぇですけどね?」
「そう思っていたがな。よく考えればこいつが生娘とも限らん。公爵家の倅と良い仲だという話もあるしな。ハッ、とんだあばずれよ」
「へぇ? まぁ処女なんて痛がるし面倒でしかねぇですからね。こぉんな美人とヤれるなんてついてんなぁ」
「確かに顔だけは整っておるからな。くそっ、あの日お前が騒ぎ立てたせいでわしの可愛いマリエットが捕まったのだ! お前が辱められたと知ったら、あの非情なコーラル家の当主は一体どう思うだろうな? 力なく項垂れる様をぜひ見届けたいものだ! まぁその時にはもう、わしはこの国にはおらんだろうがな。じっくり見られんのが残念だ」
悪意ある呪いのような言葉を浴びせられ、メロディナの血の気が引いていく。
──この人は、今なんと言ったの? リンディの前で、私を……?
「わしは上にいる。なにかあれば呼べ。出発は予定通り、夜が更けてからだ」
「おや。ダンナは楽しまないんで?」
「ふんっ! こやつのせいでわしのマリエットが可哀想な目にあったのだぞ! これ以上声も聞きとうないわ!」
メロディナこそ、そのマリエットにもう少しで違法な薬物を飲まされ、男たちの慰み者にされるところだったのだが。この男の中では、マリエットこそ悲劇のヒロインらしい。
メロディナに対する恨みがましい言葉を喚き散らし、顔を真っ赤にして姉弟を睨みつけると、肥えた男は乱暴に部屋から出て行った。
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