14 / 41
赤い目と黒い瞳
第14話 笑顔
しおりを挟む
中に入ると、壁一面に本棚が並んでいた。
探しやすいように種類毎に並べられているみたい。
「いらっしゃ――こ、これは雅様ではありませんか。このような場所に出向くなど、お珍しい」
先程まで、勘定台で肘をつきながら本を読んでいたおじさんが、急に顔を上げ焦ったように手をくねくねして雅様にすり寄ってきた。
この態度の差……。さっきまで真面目に店番していなかったじゃない。
「妻の買い物だ」
「おやおや、最近耳にしましたよ。こちらの方が雅様の妻となる方ですね」
くるっとこちらを見る。
私と目があったかと思えば、急に怯えだしてしまった。
「あ、あかい、め……?」
「あっ…………」
っ、しまった。
すぐに隠したけれど、今更遅い。
見られてしまった。
おじさんも、何も言わなくなってしまった。
どうしよう、怖がらせてしまった。
お屋敷の人は何も言わないから、油断してしまった。
私の目は、不吉を呼ぶ赤い瞳。
おじさんの反応が、普通だ。
どうしよう、どう誤魔化せばいいのだろう。
「どうした」
「い、いえ。赤い目をしていたので、つい……」
「赤い瞳がどうした」
「し、知らないのですか、雅様。赤い目は、血の色。不吉な色と呼ばれているのですよ?」
私に聞こえないように小声にしたのかもしれないけど、しっかり聞こえている。
いや、もしかしたら、あえて少し聞こえるくらいで話しているのかもしれない。
「……っ」
ごめんなさい、ごめんなさい。
やっぱり、私は外に出ては駄目でした。
まさか、ここまで噂が届いているなんて……。
「何を言っている。血の色? 馬鹿を言うな。こいつの瞳は、炎の色だ。しかも、人を燃やす炎ではなく、優しく包み込み、温める炎。今以上に無礼なことを言うのであれば、ただでは済まさんぞ」
雅様の漆黒の瞳が、おじさんを鋭く睨む。
顔を真っ青にし、おじさんは後ずさり「申し訳ありません」と震える声で謝罪を何度も繰り返した。
「――――もういい、行くぞ。本屋は他にもある」
「は、はい……」
どうしよう、私の瞳のせいで雅様を不快な気持ちにさせてしまった。
私の瞳が無ければ、こんなことにならなかったのに……。
「……あっ」
「っ、どうした」
「い、いえ……」
この本、続編が出てる。
私が大好きで、ずっと追いかけている作家さん。
名前は、阿津紀さん。
この人は、鬼や妖怪といった人外を扱う、少しホラーな作品を得意とする作家さんだ。
綺麗な光景を題材とした本や、人の関係を主に描いている作品が多い。
それぞれ雰囲気が違くて、題材も異なる作品を描く方ですが、私が追いかけているこの本は、すべてが入っているような気がする。
人外である事での苦しみや、葛藤。小さな幸せなどを噛みしめる場面があり、何度も何度も泣いてしまった。
小さな幸せを大事にしたり、逆に大きな試練を共にいる友人や家族と乗り越える。
本当に、色々考えさせられる本を書くことの多い作家さん。
私は、この作家さんの書く物語が胸に染みて、本当に大好き。
「この本が気に入ったのか?」
「あっ、は、はい。阿津紀さんは、私がずっと追いかけている作家さんで、大好きなんです」
「ほう」
後ろから雅様が覗き込んでくる。
気になるのだろうか。
「貴様が気になるのであれば、買おう」
「え、でも」
「安心しろ、金ならある」
いや、そうではありませんよ。
「あっ……」
本棚から私が見ていた本を取り、そのまま勘定台に行ってしまった。
さっきのおじさんが怯えながらも頑張って笑顔を作り、お金の計算をしている。
そのまま購入し、買った本を雅様は私に渡してくれた。
「他に何かあるか?」
「い、いえ。これだけで十分です」
「そうか。では、行くぞ」
私の手を握り、雅様は歩き出す。
さっきまでとは違い、歩幅を私に合わせてくれている。
この、さりげない気遣いが雅様の優しいところ。
なんでみんなは、このような優しい姿ではなく、他の所を見て勝手に怖がってしまうのだろう。
外に出ると、また先程と同じ空気を感じる。
やっぱり、怖がられている。哀れむような視線を向けてくる。
「――雅様」
「なんだ」
「私、すごく楽しいです」
本心を口にすると、雅様はなぜか驚いた顔を浮かべた。
これだけでは、さすがに分かりませんよね。
足を止め、周りを見渡しながら全てを伝えよう。
「こんな綺麗な町に連れてきて下さり、外の世界を見せて下さり。本当に私は今、とても幸せです。本当に、本当にありがとうございます」
雅様の手を両手で包み、お礼を伝える。
ずっと、屋敷の中で一人だった私を連れ出してくれた、不吉だと言われた私を庇ってくれた。
本当に、雅様には感謝しても、しきれません。
「――――そうか」
あっ、雅様が笑った。
笑った!!
周りの人も驚いている。
今まで、笑ったところなんて見た事がないのでしょう。
どや!! 雅様はかっこいいでしょう! 笑う事も出来るんだよ!!
「? 何を笑っている?」
「雅様も笑っておりましたよ」
「っ、俺様が、か?」
「はい!!」
素敵な笑顔で、笑っておりましたよ。
今は驚いている表情ですが。
「笑うと、気持ちも晴れます。笑いたい時は、目一杯笑いましょ!」
自分の口の端を横に伸ばして、笑う。
笑うと、落ち込んでいても気持ちが上がりますよ。
「――そうだな」
ふふ、一人で笑うより、二人で。
一緒に笑いましょう!
探しやすいように種類毎に並べられているみたい。
「いらっしゃ――こ、これは雅様ではありませんか。このような場所に出向くなど、お珍しい」
先程まで、勘定台で肘をつきながら本を読んでいたおじさんが、急に顔を上げ焦ったように手をくねくねして雅様にすり寄ってきた。
この態度の差……。さっきまで真面目に店番していなかったじゃない。
「妻の買い物だ」
「おやおや、最近耳にしましたよ。こちらの方が雅様の妻となる方ですね」
くるっとこちらを見る。
私と目があったかと思えば、急に怯えだしてしまった。
「あ、あかい、め……?」
「あっ…………」
っ、しまった。
すぐに隠したけれど、今更遅い。
見られてしまった。
おじさんも、何も言わなくなってしまった。
どうしよう、怖がらせてしまった。
お屋敷の人は何も言わないから、油断してしまった。
私の目は、不吉を呼ぶ赤い瞳。
おじさんの反応が、普通だ。
どうしよう、どう誤魔化せばいいのだろう。
「どうした」
「い、いえ。赤い目をしていたので、つい……」
「赤い瞳がどうした」
「し、知らないのですか、雅様。赤い目は、血の色。不吉な色と呼ばれているのですよ?」
私に聞こえないように小声にしたのかもしれないけど、しっかり聞こえている。
いや、もしかしたら、あえて少し聞こえるくらいで話しているのかもしれない。
「……っ」
ごめんなさい、ごめんなさい。
やっぱり、私は外に出ては駄目でした。
まさか、ここまで噂が届いているなんて……。
「何を言っている。血の色? 馬鹿を言うな。こいつの瞳は、炎の色だ。しかも、人を燃やす炎ではなく、優しく包み込み、温める炎。今以上に無礼なことを言うのであれば、ただでは済まさんぞ」
雅様の漆黒の瞳が、おじさんを鋭く睨む。
顔を真っ青にし、おじさんは後ずさり「申し訳ありません」と震える声で謝罪を何度も繰り返した。
「――――もういい、行くぞ。本屋は他にもある」
「は、はい……」
どうしよう、私の瞳のせいで雅様を不快な気持ちにさせてしまった。
私の瞳が無ければ、こんなことにならなかったのに……。
「……あっ」
「っ、どうした」
「い、いえ……」
この本、続編が出てる。
私が大好きで、ずっと追いかけている作家さん。
名前は、阿津紀さん。
この人は、鬼や妖怪といった人外を扱う、少しホラーな作品を得意とする作家さんだ。
綺麗な光景を題材とした本や、人の関係を主に描いている作品が多い。
それぞれ雰囲気が違くて、題材も異なる作品を描く方ですが、私が追いかけているこの本は、すべてが入っているような気がする。
人外である事での苦しみや、葛藤。小さな幸せなどを噛みしめる場面があり、何度も何度も泣いてしまった。
小さな幸せを大事にしたり、逆に大きな試練を共にいる友人や家族と乗り越える。
本当に、色々考えさせられる本を書くことの多い作家さん。
私は、この作家さんの書く物語が胸に染みて、本当に大好き。
「この本が気に入ったのか?」
「あっ、は、はい。阿津紀さんは、私がずっと追いかけている作家さんで、大好きなんです」
「ほう」
後ろから雅様が覗き込んでくる。
気になるのだろうか。
「貴様が気になるのであれば、買おう」
「え、でも」
「安心しろ、金ならある」
いや、そうではありませんよ。
「あっ……」
本棚から私が見ていた本を取り、そのまま勘定台に行ってしまった。
さっきのおじさんが怯えながらも頑張って笑顔を作り、お金の計算をしている。
そのまま購入し、買った本を雅様は私に渡してくれた。
「他に何かあるか?」
「い、いえ。これだけで十分です」
「そうか。では、行くぞ」
私の手を握り、雅様は歩き出す。
さっきまでとは違い、歩幅を私に合わせてくれている。
この、さりげない気遣いが雅様の優しいところ。
なんでみんなは、このような優しい姿ではなく、他の所を見て勝手に怖がってしまうのだろう。
外に出ると、また先程と同じ空気を感じる。
やっぱり、怖がられている。哀れむような視線を向けてくる。
「――雅様」
「なんだ」
「私、すごく楽しいです」
本心を口にすると、雅様はなぜか驚いた顔を浮かべた。
これだけでは、さすがに分かりませんよね。
足を止め、周りを見渡しながら全てを伝えよう。
「こんな綺麗な町に連れてきて下さり、外の世界を見せて下さり。本当に私は今、とても幸せです。本当に、本当にありがとうございます」
雅様の手を両手で包み、お礼を伝える。
ずっと、屋敷の中で一人だった私を連れ出してくれた、不吉だと言われた私を庇ってくれた。
本当に、雅様には感謝しても、しきれません。
「――――そうか」
あっ、雅様が笑った。
笑った!!
周りの人も驚いている。
今まで、笑ったところなんて見た事がないのでしょう。
どや!! 雅様はかっこいいでしょう! 笑う事も出来るんだよ!!
「? 何を笑っている?」
「雅様も笑っておりましたよ」
「っ、俺様が、か?」
「はい!!」
素敵な笑顔で、笑っておりましたよ。
今は驚いている表情ですが。
「笑うと、気持ちも晴れます。笑いたい時は、目一杯笑いましょ!」
自分の口の端を横に伸ばして、笑う。
笑うと、落ち込んでいても気持ちが上がりますよ。
「――そうだな」
ふふ、一人で笑うより、二人で。
一緒に笑いましょう!
1
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される
未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】
ミシェラは生贄として育てられている。
彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。
生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。
繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。
そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。
生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。
ハッピーエンドです!
※※※
他サイト様にものせてます
銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~
川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。
そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。
それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。
村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。
ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。
すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。
村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。
そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。
追放された令嬢ですが、隣国公爵と白い結婚したら溺愛が止まりませんでした ~元婚約者? 今さら返り咲きは無理ですわ~
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――そして追放。
完璧すぎると嘲られ、役立たず呼ばわりされた令嬢エテルナは、
家族にも見放され、王国を追われるように国境へと辿り着く。
そこで彼女を救ったのは、隣国の若き公爵アイオン。
「君を保護する名目が必要だ。干渉しない“白い結婚”をしよう」
契約だけの夫婦のはずだった。
お互いに心を乱さず、ただ穏やかに日々を過ごす――はずだったのに。
静かで優しさを隠した公爵。
無能と決めつけられていたエテルナに眠る、古代聖女の力。
二人の距離は、ゆっくり、けれど確実に近づき始める。
しかしその噂は王国へ戻り、
「エテルナを取り戻せ」という王太子の暴走が始まった。
「彼女はもうこちらの人間だ。二度と渡さない」
契約結婚は終わりを告げ、
守りたい想いはやがて恋に変わる──。
追放令嬢×隣国公爵×白い結婚から溺愛へ。
そして元婚約者ざまぁまで爽快に描く、
“追い出された令嬢が真の幸せを掴む物語”が、いま始まる。
---
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さくら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる