赤い瞳を持つ私は不吉と言われ、姉の代わりに冷酷無情な若当主へ嫁ぐことになりました

桜桃-サクランボ-

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十六夜家

第37話 戦闘開始

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 ――――ガラン

 いきなり背後から吹っ飛んできた竹刀に驚いた武士が避け、周りを見回し始めた。

 隙を逃さず、ゆうちゃんに響さんが命令を下し、武士へと冷気を吹きかけた。

 でも、威力はそこまで無いみたい。
 武士は顔を両手で覆い、冷気を防ぐ。
 すぐに体勢を整え、冷気が落ち着くと刀を構えた。

 咄嗟だったとはいえ、後先考えずに竹刀を投げてしまった。
 今の私は何も出来ない無力。竹刀をまず、回収しないと……。

 素早く動くのには、今の着物は動きにくい。
 帯を解き、着物を緩めた。
 中は、下着代わりの薄い着物を一枚着ているから、見られても問題はない。

 …………絶対に雅様には見られたくないけれど!!

 武士は、私が前に出たことに驚いているみたい。
 桔梗家の差し金であることは間違いないし、私が誰なのかも聞いているはず。

 だからこそ、驚いているのだろうな。
 けれど、そんなことはどうでもいい。

 まずは、竹刀を返してもらいます。

 武士は、戸惑いながらも再度、刀を構える。
 すぐに振り上げ、私に襲い掛かってきた。

 響さんが庇おうとするが、それより先に動く。

 武士が刀を振りあげたため、開いた脇下を姿勢を低くし通り、まず竹刀を回収。
 すぐに武士も振り返る。私はしゃがみながら振り返り、竹刀を横一線に薙ぎ払った。

 遠慮なく弁慶の泣き所を竹刀でぶん殴る。
 痛みでその場に倒れ込んだ武士に、竹刀を突きつけ主導権をもぎ取った。

「はぁ、はぁ……。なぜ、鬼神家を襲うのですか? 桔梗家の指示なのでしょうか?」

 聞くけれど、武士は悔しそうに顔を歪ませるだけで、答えない。

 どうしよう…。

 困っていると、急に武士の足が凍り始めた。
 近くには、赤い瞳を浮かべているゆうちゃんと、無表情の響さん。

「彼女からの質問に、迅速に答えなさい。さもなくば、貴方は永久に氷の中で暮すことになるわよ」

 響さんの言葉に同調するように、足元から氷が広がり始める。
 恐怖心に負けた武士は、涙を流し私を見上げ答えてくれた。

「桔梗家からの、依頼です。若当主以外の者をすべて斬り伏せろと」

 やっぱり……。
 美晴姉様と母様は、本気なんだ。
 本気で、鬼神家を我が傘下に入れるつもりなんだ。

「わかったわ、ありがとう」

 響さんがお礼を伝えるけれど、武士の身体を凍らせる氷は解けない。

「貴方は今回の事態が収まるまで、ここにいて頂戴。美月ちゃん、行くわよ」

 響さんが歩き出す。
 女中さんも共に涙を流しながら歩き、私も一番後ろをついて行く。

 みんな、恐怖で身体を震わせている。
 当然だよね。私も、怖いし手が震えている。

 ――――許せない。
 こんな酷いことをして。しかも、私利私欲のためにこんなに人を動かすなんて。

 桔梗家の今の立場は、何も、力があるからだけではない。
 仙台が培ってきた信頼があってこその、今の地位だと言うのに……。

 自然と、竹刀を握る力が強くなる。
 それと同時に、美月の赤い瞳は、雅が言うように炎が燃え上がった。

「――――響さん。ここからは、私に任せていただけませんか?」

 言うと、響さんは少し悩んでしまったが、私を信じて頷いてくれた。

「危険なことだけは絶対に、しないでくださいね」
「はい」

 私は、すぐに袴に着換える。
 流石にさっきの格好で武士の皆様の前に出るのは駄目だと、響さんに言われてしまったのだ。

 髪も後ろで一つにまとめ、邪魔にならないようにする。
 竹刀を持ち廊下を走り、外へ向かった。

 出ると、そこは夢で見たような地獄絵図。
 敵味方わからないけれど、何人もの武士が血を流し倒れていた。

 そんな中でも、まだ動ける武士が刀をぶつけ合い、戦っている。
 苦しげに、辛そうに、戦っている。

 酷い。本当に、酷い……。
 こうならないように、雅様が今まで頑張ってきたのに……。

 いや、雅様だけではない。
 今まで鬼神家が頑張って培ってきたものを考えずに、私利私欲でこんな大きな事態を起こした。

「――――必ず、後悔させてやる」

 夢の通りに進むのであれば、主犯は森の中。
 美晴姉様は、そこで雅様を待っているはず。

 雅様は、殺されない。未来は、変わった。

 それでも、美晴姉様は森にいると確信が持てる。
 どんなに未来が変わっても、森の中の光景だけは、変わらなかったから。

「これ以上、争いは増やさせないから!!」

 ※

 上空を飛んでいた雅は、気が焦り「早くしてくれ」と呟いていた。

 馬車よりは遥かに速い移動が出来る氷の鳥。それでも、雅の気持ちは焦りばかり。
 早く、早くと急かされる。

「早く戻らなければ、美月が危ない」

 あともう少しでたどり着くことができるが、胸騒ぎが収まらない。
 汗をにじませ、前方を睨む。

「どうか、無事でいてくれ――……」

 雅の視界に入ったのは、屋敷裏にある森だった。
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