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十六夜家
第39話 心残りな勝利
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「さっきから黙って聞いていれば、何をぬかすか、たわけが…………」
「み、雅、さま?」
竹刀を下げ雅様は、刀を折られ怯えている美晴姉様を見る。
私は後ろに下げられてしまったため、表情を見ることが出来ない。
けれど、美晴姉様は今までにないほど怯えているから、閻魔様のような表情を浮かべているのでしょう。
いや、それ以上かもしれない。
気になるけれど、見れない。
「幸せになってはいけない? 嫌われ者? 愛されてはいけない? それは、自分を示しているのか、貴様」
「は、はぁ?!」
「俺様の嫁をコケにし、ここまで大きな事態を引き起こした愚かな者よ。覚悟は、出来ているのだろうな?」
雅様、本気で怒っている。
声が今まで聞いたどんな声より冷たく、抑揚がない。
後ろにいる私でも、体が震えてしまう程に怖い。
「な、なによ。なによ!! そんなブスしか貰い手のなかった男がいきがってんじゃないわよ! あんたも町の人から怖がられ、嫌われている分際で!!」
――――カチン
「俺様のことは――美月?」
雅様が私を呼びますが、それどころではありません。
私が急に美晴姉様に近付き始めたので驚いているみたいですが、関係ありません。
「な、なによ! 何か文句でもあるの!?」
今までは、これだけで委縮してしまい、何も言えなかった。
頷いていれば、捨てられない。
虐げられていても、住処があれば。
食べる物があれば生きていける、そう思っていた。
でも、今は違う、
こんな、人を馬鹿にすることしか出来ない人に捨てられても、問題ない。
だから――……
――――パシン!
「えっ?」
「美月……?」
まさか、私が美晴姉様に平手打ちをする時が来るとは思わなかった。
「ふぅ……」
でも、許せなかった。
さっきの暴言だけは、どうしても。
私が力いっぱいに平手打ちをしてしまったからか、美晴姉様は綺麗な着物を汚し、地面に倒れ込む。
そんな姉様の前にしゃがみ、赤い瞳を見せつけるように目を合わせた。
「美晴姉様」
「な、なによ。私の美人な顔に…………」
「確かに、美晴姉様は綺麗だと思います。でも、見た目だけを気にしていても、美晴姉様は誰からも、心から愛されることはありません」
「なっ!!」
「人を愛することが出来ない人が、人に愛されるはずもない。だから、一人になるのは、私ではなく美晴姉様です」
言い切ると、美晴姉様は顔を林檎のように真っ赤にし怒り出す。
私の襟を掴み、顔を近づかせた。
「美月の分際で、私に意見しないで。不吉で、誰からも愛されない落ちこぼれが。家族から愛された私に、偉そうな態度を取るな!!」
右手を振り上げた。
平手打ちするつもりだ。でも、怖くない。だって――……
「それでも、今の私は幸せです!!」
宣言すると、振り上げた美晴姉様の右手が止まった。
「家族に愛されていなかったと思っていました。でも、そうではなかった。私の幸せを願って行動してくれた人がいる。そして、今では家族に愛された人生を送っています」
一呼吸置き、美晴姉様の目を見て言い放つ。
「雅様という夫、響さんという義母。友人のように接してくださる女中さん。みんなみんな、私の大切な家族です。私の命より大事な方々なんです。私の家族を侮辱するなど、絶対に許しません!!」
「~~~~こんのっ!!」
今度こそ平手打ちさせられる。
そう思い目を閉じるが、痛みが一向にこない。
不思議に思い目を開けると、雅様が美晴姉様の手を掴み、止めていた。
「――――美晴よ。今ここで引くのであれば、鬼神家は何もしない。桔梗家とは疎遠となるが、願っていることだろ」
「そ、そんなこと…………」
「もし、ここで引かぬのであれば――……」
――――グッ!!
「いっ!!」
「失うのは、貴様の腕だけではない。よぉく、肝に銘じておけ」
これ以上、美晴姉様は何も言わない。
雅様が手を離すと、後ろから響さんの声が聞こえた。
「こっちも終わったみたいね。間に合ったみたいで良かったわ、雅」
「もう少し早く戻る予定だったんだがな。そっちは大丈夫だったか?」
「問題ないわ。こっちには、美月ちゃんのお母様、美郷さんが来たけれど、母親の心得を淡々と語ると逃げ帰って行ったわ~」
……黒い、黒いです、響さん。
この笑顔を雅様は引き継いだのですね。
「そうか。――――おい、今の話は聞いただろう。もう、桔梗家に勝利はない。賢明な判断をしてもらえると嬉しいのだが?」
雅の言葉に、美晴姉様は悔しそうに歯を食いしばるけれど、もう勝ち目はないと理解してくれたみたいで涙を浮かべつつ振り返る。
「絶対に、許さない」
「美晴姉様…………」
最後も、姉妹の会話は出来なかった。
美晴姉様は背中を向け、そのまま走り去る。
ここで、今回の戦闘は幕を閉じた。
色々心に残るけれど、私が夢に見た事態にならなくてほっとしている。
でも、なんでだろう。
完全なる勝利とは、言えない……。
――――ポンッ
頭に、大きな手が乗っかる。
顔を上げると、雅様が笑みを浮かべていた。
「帰るぞ、美月」
「――――はい」
心に残っていたわだかまりは、雅様の柔和な笑みで消え去った。
このまま屋敷に戻り、今回怪我をした武士の手当てをしてと。
数日は慌ただしかった鬼神家は、すぐにいつもの平穏を取り戻した。
「み、雅、さま?」
竹刀を下げ雅様は、刀を折られ怯えている美晴姉様を見る。
私は後ろに下げられてしまったため、表情を見ることが出来ない。
けれど、美晴姉様は今までにないほど怯えているから、閻魔様のような表情を浮かべているのでしょう。
いや、それ以上かもしれない。
気になるけれど、見れない。
「幸せになってはいけない? 嫌われ者? 愛されてはいけない? それは、自分を示しているのか、貴様」
「は、はぁ?!」
「俺様の嫁をコケにし、ここまで大きな事態を引き起こした愚かな者よ。覚悟は、出来ているのだろうな?」
雅様、本気で怒っている。
声が今まで聞いたどんな声より冷たく、抑揚がない。
後ろにいる私でも、体が震えてしまう程に怖い。
「な、なによ。なによ!! そんなブスしか貰い手のなかった男がいきがってんじゃないわよ! あんたも町の人から怖がられ、嫌われている分際で!!」
――――カチン
「俺様のことは――美月?」
雅様が私を呼びますが、それどころではありません。
私が急に美晴姉様に近付き始めたので驚いているみたいですが、関係ありません。
「な、なによ! 何か文句でもあるの!?」
今までは、これだけで委縮してしまい、何も言えなかった。
頷いていれば、捨てられない。
虐げられていても、住処があれば。
食べる物があれば生きていける、そう思っていた。
でも、今は違う、
こんな、人を馬鹿にすることしか出来ない人に捨てられても、問題ない。
だから――……
――――パシン!
「えっ?」
「美月……?」
まさか、私が美晴姉様に平手打ちをする時が来るとは思わなかった。
「ふぅ……」
でも、許せなかった。
さっきの暴言だけは、どうしても。
私が力いっぱいに平手打ちをしてしまったからか、美晴姉様は綺麗な着物を汚し、地面に倒れ込む。
そんな姉様の前にしゃがみ、赤い瞳を見せつけるように目を合わせた。
「美晴姉様」
「な、なによ。私の美人な顔に…………」
「確かに、美晴姉様は綺麗だと思います。でも、見た目だけを気にしていても、美晴姉様は誰からも、心から愛されることはありません」
「なっ!!」
「人を愛することが出来ない人が、人に愛されるはずもない。だから、一人になるのは、私ではなく美晴姉様です」
言い切ると、美晴姉様は顔を林檎のように真っ赤にし怒り出す。
私の襟を掴み、顔を近づかせた。
「美月の分際で、私に意見しないで。不吉で、誰からも愛されない落ちこぼれが。家族から愛された私に、偉そうな態度を取るな!!」
右手を振り上げた。
平手打ちするつもりだ。でも、怖くない。だって――……
「それでも、今の私は幸せです!!」
宣言すると、振り上げた美晴姉様の右手が止まった。
「家族に愛されていなかったと思っていました。でも、そうではなかった。私の幸せを願って行動してくれた人がいる。そして、今では家族に愛された人生を送っています」
一呼吸置き、美晴姉様の目を見て言い放つ。
「雅様という夫、響さんという義母。友人のように接してくださる女中さん。みんなみんな、私の大切な家族です。私の命より大事な方々なんです。私の家族を侮辱するなど、絶対に許しません!!」
「~~~~こんのっ!!」
今度こそ平手打ちさせられる。
そう思い目を閉じるが、痛みが一向にこない。
不思議に思い目を開けると、雅様が美晴姉様の手を掴み、止めていた。
「――――美晴よ。今ここで引くのであれば、鬼神家は何もしない。桔梗家とは疎遠となるが、願っていることだろ」
「そ、そんなこと…………」
「もし、ここで引かぬのであれば――……」
――――グッ!!
「いっ!!」
「失うのは、貴様の腕だけではない。よぉく、肝に銘じておけ」
これ以上、美晴姉様は何も言わない。
雅様が手を離すと、後ろから響さんの声が聞こえた。
「こっちも終わったみたいね。間に合ったみたいで良かったわ、雅」
「もう少し早く戻る予定だったんだがな。そっちは大丈夫だったか?」
「問題ないわ。こっちには、美月ちゃんのお母様、美郷さんが来たけれど、母親の心得を淡々と語ると逃げ帰って行ったわ~」
……黒い、黒いです、響さん。
この笑顔を雅様は引き継いだのですね。
「そうか。――――おい、今の話は聞いただろう。もう、桔梗家に勝利はない。賢明な判断をしてもらえると嬉しいのだが?」
雅の言葉に、美晴姉様は悔しそうに歯を食いしばるけれど、もう勝ち目はないと理解してくれたみたいで涙を浮かべつつ振り返る。
「絶対に、許さない」
「美晴姉様…………」
最後も、姉妹の会話は出来なかった。
美晴姉様は背中を向け、そのまま走り去る。
ここで、今回の戦闘は幕を閉じた。
色々心に残るけれど、私が夢に見た事態にならなくてほっとしている。
でも、なんでだろう。
完全なる勝利とは、言えない……。
――――ポンッ
頭に、大きな手が乗っかる。
顔を上げると、雅様が笑みを浮かべていた。
「帰るぞ、美月」
「――――はい」
心に残っていたわだかまりは、雅様の柔和な笑みで消え去った。
このまま屋敷に戻り、今回怪我をした武士の手当てをしてと。
数日は慌ただしかった鬼神家は、すぐにいつもの平穏を取り戻した。
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