人間スイとあやかし玄が営む妖癒旅館―人とあやかしが共に生きる、もう一つの世界―

桜桃-サクランボ-

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覚悟の時

第7話 真実(2)

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「まぁ、あの二人の手腕は、普通ではありませんでしたからね」

「そうだなぁ。天狗も我も、敵に回したくないと直感的に思うくらいだからなぁ」

「そうですね。私も、あのお二人は絶対に敵に回したくありません」

 二人は強く頷いた。
 その会話が理解できず、スイは天狗の裾を引っ張る。

「あの……あの二人って、もしかして私の両親ですか」

「そうだ。お前の両親は、本当にあやかしをまとめる力が凄まじく、ちょっとやそっとでは旅館で暴れさせなかった」

 そんな話を聞くのは初めてで、スイは唖然とした。

「つ、つまり……両親がいれば、今回の猫又家族も、あそこまで暴れなかったということですか?」

「だろうな。玄関で出迎えた時点で、戦意を喪失させていただろう」

 天狗は当然のように腕を組んで言った。
 その後ろで、九尾も同じポーズで「うんうん」と頷いている。

 ――――つまり、九尾様が悪いわけじゃなくて。
 結局、私の力不足で、今まで旅館に多大な迷惑をかけていたってこと?
 それなのに、九尾様のせいにして、天狗様にあんな酷い愚痴を……。

 自分が弱いくせに、他人のせいにしていた……?

 二人の話を理解した瞬間、スイの顔は一気に青ざめた。
 その様子に、九尾が首を傾げて天狗に問いかける。

「どうしたのだ、この小娘は」

「自分の考えが甘かったと、実感したのだろう」

「????」

 天狗の簡潔な説明に、九尾はまるで理解していない様子だ。
 スイは二人の会話が耳に入らず、俯いたまま、誰とも目を合わせられなかった。

「うーん……」

 九尾は少し考え込むと、何かを思いついたようにスイの顔を上げさせる。

「え、あ、あの……」

「少し静かにしていなさいなぁ~」

 九尾はそう言って、人差し指をスイの額にそっと当てた。
 途端に、額が温かくなり、心がすっと落ち着いていく。

「――――なるほど。我のせいで、旅館が危険な目に遭ったと思い込んでいたのだな」

「ひっ!? す、すみません!! 私の力不足を棚に上げて、すべてを九尾様のせいにするなんて……ただの人間である私が、傲慢すぎました! 本当に申し訳ありません!!」

 スイは地面に額を擦りつけるように、勢いよく土下座した。
 涙目で、どうすればいいのかわからず、完全にパニックになっている。

 その姿を見た九尾は、腹を抱え、大声で笑い出した。

「ははははははははは!!」

 あまりの反応に、スイは口を開けたまま固まる。
 天狗は呆れたように肩をすくめ、ため息を吐いた。

「あ、あの……怒らないのですか?」

「なぜ怒る? 怒るようなことではないだろう!」

「で、ですが……! 私は自分の力不足を貴方のせいにして……!」

 言葉にするほど、自分の未熟さが胸に刺さり、涙が滲む。
 それでも泣いてはいけないと、スイは必死に体を震わせた。

「ふむ……人間の感情というものは、本当に面白い」

「え、な、なんでですか?」

「あやかしの世界では、自分が悪いと認める者は少ない。皆、他者を傷つけ、力を誇示する。だからこそ、お主のその懺悔が、実に興味深いのだ」

 九尾はまた楽しそうに笑う。
 スイは言葉を失い、助けを求めるように天狗を見る。

「あやかしと人間では、価値観が違う。それだけ理解しておけ」

「……はい」

 天狗はそう言って、九尾へと視線を向けた。

「ですが、こいつの言う通り、今まで招いたあやかしに酷い目に遭わされています。警戒レベルを上げていただけませんか?」

「構わぬが……経営は大丈夫か? あやかし相手が主であろう。選別しすぎれば、旅館は傾くぞ」

 九尾の言葉も、もっともだ。
 あやかしは本来、力を誇示し、恐怖で支配する存在だ。

 そして――妖癒旅館には、人間であるスイがいる。
 人の肉や魂は、あやかしにとって極上の糧。
 それを知る者たちが、この旅館に集まってくる。

「問題ありません。私が管理していますから」

「ならばよい。ところで、人間がちらほら旅館に興味を持ち始めているが、どうする?」

「問題なければ招いて構いません。記憶も消さず、拡散してもらいましょう」

 鴉の面に隠れて表情は見えないが、天狗の声色には何かを企む響きがあった。
 九尾は呆れたように肩を落とす。

「お主も、大概だな」

「旅館さえ守れればいい。それ以外は、知ったことではありません」

 ――だが。

「待ってください!!」

 スイが一歩前に出て、声を上げた。

「それは違います! 人間にも癒しを与え、恐怖を和らげる。それが、この旅館の役割です! 癒しの空間を提供することで、いい形で広めるべきです!」

 必死に訴えるスイに、天狗は体ごと振り向いた。

「言うほど簡単ではない」

「それくらい、わかっています! でも、だからって諦める理由にはなりません!」

「……ほう」

「なんでそこで感心した声を出すんですか!? 馬鹿にしてるんですか!?」

「している」

「酷い!!」

 スイは天狗を叩こうとするが、頭を押さえられ、全く届かない。

「なんでですかー!!」

 そんな二人を見て、九尾はまた大笑いした。

「「笑い事じゃない!!」」

 二人の声が綺麗に重なり、さらに九尾は腹を抱えて笑う。

「まぁまぁ。では具体的に、どうするつもりだ?」

「まず、私の両親の仕事ぶりを調べたいです。聞き込みをしてもいいですか?」

 指を一本立てて提案するスイに、天狗は腕を組む。

「好きにしろ」

 そう言って歩き出す天狗に、スイは頬を膨らませる。

「なんで私にだけ、そんなに冷たいんですか」

 その肩に、九尾がそっと手を置いた。

「これからは、周りをよく見てみることだな。特に玄は……仮面を被っている分、わかりにくいからなぁ」

 九尾はそう言って笑い、いつの間にか手にしていた酒瓶を振りながら姿を消した。

「……どういう意味?」

 首を傾げるスイに、天狗が振り返る。

「早く来い」

「はい!」

 スイは慌てて返事をし、天狗の後を追って駆け出した。
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