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情報集め
第11話 垢嘗と鬼火
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今日は、泊まり客がいない。
天狗と共に九尾に会いに行った日から、客層が激変してしまったのだ。
旅館で働く従業員たちは、気持ちに余裕があるように見えるが、経営的には厳しいだろう。
だが、スイはお金に関する管理を一切していないため、詳しいことはわからない。
お金の管理は、天狗が担当しているのだ。
「本当に……大丈夫なのだろうか」
このまま客が来なければ、旅館を畳むことになってしまうのではないか。
そんな不安を抱えながら廊下を歩き、スイは温泉へと辿り着いた。
今は、浴槽の掃除の時間だ。
女風呂の中に入ると、広い脱衣所が目に入る。
棚には籠が並び、貴重品を入れるためのロッカーも完備されている。
扇風機も備え付けてあり、風呂上がりも気持ちよく過ごせるよう工夫されていた。
脱衣所を抜け、浴槽へ入る。
中では、ブラシを手にした垢嘗たちが、数人で掃除をしていた。
ガシュ、ガシュ、と音が響く。
スイが浴槽内へ足を踏み入れると、垢嘗たちが一斉にこちらを見た。
黒く長い髪の隙間から覗く黒い瞳は、つり上がっており鋭い。
その視線に、スイは思わず肩を震わせた。
すると、その反応につられたのか、垢嘗たちもビクッと身をすくめてしまった。
「あ、す、すみません。少し、見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
スイがそう尋ねると、垢嘗たちは戸惑いながらも頷く。
そして何事もなかったかのように、再びブラシで浴槽を磨き始めた。
どうやら役割分担があるらしい。
一人は浴槽内、
一人は洗い場、
一人は奥の風呂。
誰も迷うことなく、黙々と作業を続けている。
垢嘗は、基本的に口を開かない。
――いや、正確には「開かない」のではない。
口は普段から開いており、長い舌をだらんと垂らして生活している。
その見た目だけで、気味悪く感じる者も少なくないだろう。
だが、共に暮らしていれば分かることもある。
垢嘗は、風呂掃除だけは決して手を抜かない。
鋭い視線を持ちながらも、相手を驚かせないよう、髪で顔を隠すことさえある。
見た目とは裏腹に、人をよく見ている優しいあやかしなのだ。
そんな垢嘗の横を通り過ぎ、スイは温泉の奥へ向かう。
奥にあるのは、露天風呂へと続く扉。
開くと、自然豊かな景色に囲まれた温泉が二つ、目に入った。
一つは屋根付きで、雨の日でも露天風呂を楽しめる。
もう一つにはテレビが備え付けられており、ゆっくりとくつろげるようになっている。
露天風呂の景色は、天狗が一番こだわった場所だとスイは聞いていた。
その甲斐あって、緑に囲まれながらも、青空をしっかりと眺めることができる。
鳥のさえずりが響き、心が癒される空間が作られていた。
「私も……時々入りたいなぁ。いつも備え付けの小さなお風呂ばっかりだし……」
旅館で働いているからといって、自由に入浴できるわけではない。
必ず料金を支払わなければならないというルールがある。
風が、スイの頬を優しく撫でる。
その心地よさに、思わず青空を見上げた。
今日は天気がいい。
気温もちょうどよく、ずっとここにいたくなってしまう。
けれど、スイにもやるべき仕事がある。
後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。
垢嘗たちに礼を言い、温泉を出る。
次に向かったのは、温泉の温度を調整する場所だ。
そこは従業員しか入れない区域。
中に入ると、パイプが張り巡らされており、その間を縫うようにして奥へ進む。
やがて、薄暗い空間に赤い光が灯り始めた。
さらに奥へ行くと、そこには一つの窯があり、炎のあやかしが中で燃えていた。
「こんにちは、鬼火くんたち」
窯の中では、炎の玉が身を寄せ合いながら、いくつも揺らめいている。
それが、鬼火だ。九尾が使役しているあやかしらしい。
子供のように癇癪を起こしやすく、時折お風呂を熱湯にしてしまうが、普段はとても可愛らしい炎の玉である。
「「「こんにちはー!!」」」
子供特有の、高く丸い声。
この声が癇癪を起こすと奇声に変わることを、スイは思い出し――今でも想像したくないと、心の中で思った。
天狗と共に九尾に会いに行った日から、客層が激変してしまったのだ。
旅館で働く従業員たちは、気持ちに余裕があるように見えるが、経営的には厳しいだろう。
だが、スイはお金に関する管理を一切していないため、詳しいことはわからない。
お金の管理は、天狗が担当しているのだ。
「本当に……大丈夫なのだろうか」
このまま客が来なければ、旅館を畳むことになってしまうのではないか。
そんな不安を抱えながら廊下を歩き、スイは温泉へと辿り着いた。
今は、浴槽の掃除の時間だ。
女風呂の中に入ると、広い脱衣所が目に入る。
棚には籠が並び、貴重品を入れるためのロッカーも完備されている。
扇風機も備え付けてあり、風呂上がりも気持ちよく過ごせるよう工夫されていた。
脱衣所を抜け、浴槽へ入る。
中では、ブラシを手にした垢嘗たちが、数人で掃除をしていた。
ガシュ、ガシュ、と音が響く。
スイが浴槽内へ足を踏み入れると、垢嘗たちが一斉にこちらを見た。
黒く長い髪の隙間から覗く黒い瞳は、つり上がっており鋭い。
その視線に、スイは思わず肩を震わせた。
すると、その反応につられたのか、垢嘗たちもビクッと身をすくめてしまった。
「あ、す、すみません。少し、見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
スイがそう尋ねると、垢嘗たちは戸惑いながらも頷く。
そして何事もなかったかのように、再びブラシで浴槽を磨き始めた。
どうやら役割分担があるらしい。
一人は浴槽内、
一人は洗い場、
一人は奥の風呂。
誰も迷うことなく、黙々と作業を続けている。
垢嘗は、基本的に口を開かない。
――いや、正確には「開かない」のではない。
口は普段から開いており、長い舌をだらんと垂らして生活している。
その見た目だけで、気味悪く感じる者も少なくないだろう。
だが、共に暮らしていれば分かることもある。
垢嘗は、風呂掃除だけは決して手を抜かない。
鋭い視線を持ちながらも、相手を驚かせないよう、髪で顔を隠すことさえある。
見た目とは裏腹に、人をよく見ている優しいあやかしなのだ。
そんな垢嘗の横を通り過ぎ、スイは温泉の奥へ向かう。
奥にあるのは、露天風呂へと続く扉。
開くと、自然豊かな景色に囲まれた温泉が二つ、目に入った。
一つは屋根付きで、雨の日でも露天風呂を楽しめる。
もう一つにはテレビが備え付けられており、ゆっくりとくつろげるようになっている。
露天風呂の景色は、天狗が一番こだわった場所だとスイは聞いていた。
その甲斐あって、緑に囲まれながらも、青空をしっかりと眺めることができる。
鳥のさえずりが響き、心が癒される空間が作られていた。
「私も……時々入りたいなぁ。いつも備え付けの小さなお風呂ばっかりだし……」
旅館で働いているからといって、自由に入浴できるわけではない。
必ず料金を支払わなければならないというルールがある。
風が、スイの頬を優しく撫でる。
その心地よさに、思わず青空を見上げた。
今日は天気がいい。
気温もちょうどよく、ずっとここにいたくなってしまう。
けれど、スイにもやるべき仕事がある。
後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。
垢嘗たちに礼を言い、温泉を出る。
次に向かったのは、温泉の温度を調整する場所だ。
そこは従業員しか入れない区域。
中に入ると、パイプが張り巡らされており、その間を縫うようにして奥へ進む。
やがて、薄暗い空間に赤い光が灯り始めた。
さらに奥へ行くと、そこには一つの窯があり、炎のあやかしが中で燃えていた。
「こんにちは、鬼火くんたち」
窯の中では、炎の玉が身を寄せ合いながら、いくつも揺らめいている。
それが、鬼火だ。九尾が使役しているあやかしらしい。
子供のように癇癪を起こしやすく、時折お風呂を熱湯にしてしまうが、普段はとても可愛らしい炎の玉である。
「「「こんにちはー!!」」」
子供特有の、高く丸い声。
この声が癇癪を起こすと奇声に変わることを、スイは思い出し――今でも想像したくないと、心の中で思った。
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