人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

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秋晴れ

「いきなり来てごめん。どうしても銀籠さんに会いたかったから…………」

「父上!! なぜまた会う約束をしたのだ!! 我は絶対に嫌だからな!!」

 住処としている森に戻ると、人の姿を保つのが限界になった銀は、狼の姿になり歩いていた。

 そんな時、今まで大人しかった銀籠が銀に向かって怒鳴り始める。

「まぁまぁ、待て待て銀籠よ。落ち着くのじゃ」

「これが落ち着いていられるか!」

 銀が落ち着くように言うが、銀籠の熱は冷めない。
 肩を上下に大きく動かし、鼻息荒く喚き散らす。

「また人間と会わなければならんという事だろう!? どうするのだ! また人間が我らに牙を向けてきたら。しかも、今度はただの人間ではなく陰陽師! 父上は過去の後遺症で体はうまく動かぬ、どうする気だ!!」

 まさか、ここまで取り乱すとは思っていなかった銀は、困った様に眉を下げ言葉を詰まらせた。

 何も言えず俯いてしまった銀を見て、銀籠も言いすぎてしまったと後悔。
 気持ちを落ち着かせるため深呼吸をし、悲しげに目を細めた。

「…………父上、我は嫌だ。いつも言っているだろう。我は、父上がいればいいのだ。他の者など必要ない。父上に、生きていてほしいのだ」

「銀籠、その気持ちは嬉しい。じゃが、我もいつまで生きていけるかわからぬ。少なからず、銀籠より先にいなくなってしまうじゃろう。そうなった時、銀籠は今のままだと一人になってしまう。そうなれば…………」

「そうなったとしたら、我は父上について行く。そうすれば、母上にも出会えるだろう?」

「銀籠…………」

 銀の気持ちを理解できず、銀籠は銀の温もりに縋るように抱き着いた。

 大事な息子に植え付けてしまったトラウマ、人間への恐怖心。どうすれば拭う事が出来るのか。

 銀は頭を悩ませながら、抱きしめてくれている銀籠の肩に顎を置いた。

 ※

「何をぼぉっとしているの、優輝。学校行かないと遅刻するわよ?」

「…………昨日の人狼の息子さんに会いたいなぁって思って」

「あぁ、銀籠さんだっけ? 結局、私達とは一言も話さなかったわよね。それに、ものすごく怖がっていた。私達だけで会うのは難しんじゃない?」

 優輝は昨日から上の空。
 頭の中には銀籠の涙を浮かべた顔や、恐怖で青ざめている顔が浮かび、時々一人でニヤリと笑っている。

 そんな彼に神楽は顔を引きつらせる、気持ち悪いと言うように顔を歪ませていた。

「…………あんた、本当に気持ち悪いわよ」

「酷いなぁ。ほら、学校行かないと遅刻するんだったよね、早く行こう」

「うん……」

 二人で学校に向かっていると、また優輝が不気味に笑ったため、神楽はため息と共に彼の背中を強く叩いた。

「キモイ」

「痛い……」

 ※

 森の中で火を付けるため薪を集めていた銀籠は、昨日銀に思いっきり怒ってしまったことを一人、後悔していた。

「はぁ…………」

 恐怖で頭が冷静ではなかったと悔やみ、ため息が漏れる。

 それでも作業の手は止めず、背中に背負っている薪を見て、このくらいでいいだろうと判断。家に戻り始めた。

 少し歩くと、銀籠は目を細めすぐに一度足を止める。
 顔を上げ、辺りを見回し始めた。

「…………人間の、匂い」

 冷たい風が、人の匂いを銀籠に伝えた。
 顔が青くなり、恐怖で体を強ばらせる。

 ────どこに、隠れておる。どこから襲ってくる。

 もし、危険な人が侵入してきていたら、銀に危険が及ぶ。それだけは避けなければならない。

 目線だけをさ迷わせ侵入者を必死に探していると、意外にもあっさり見つける事が出来た。

「あ、見つけた」

「っ!?」

「あ、待って!! 何もしないから逃げないで!!」

 水色の瞳と目が合った瞬間、銀籠は涙を浮かべ逆側へと走り出す。

 だが、侵入者である陰陽師、優輝の狙いは逃げ出そうとしている銀籠。逃げられたくない一心で止めた。

 反射的にぴたっと足を止め、銀籠は恐る恐る振り向く。

「いきなり来てごめん。どうしても銀籠さんに会いたかったから…………」

 なぜ自分に会いたかったのだと聞きたくても、口が震え声を出す事が出来ない。

 警戒しながら見つめていると、優輝はどうにか話が出来ないか考え始めた。

「えぇっと……。俺は、普通にお話しできたらそれでいいんだけど……。あ、懐に何か隠しているとか思っているのかな。確かに隠しているから、それに対しては何も言えないや」

 言いながら優輝は懐に隠していたお札を数枚取り出し、肩にかけていた鞄からは羅針盤を抜き取る。

 他にも筆箱や教科書、ノートなども取り出し地面に置いた。

 鞄の中には何も入っていないよと言うように、逆さまにし振る。
 なにも落ちてこないため、本当に中は空っぽになっていることは銀籠にもわかった。

 他にもポケットの中には何も入っていない事や、ジャケットも脱ぎバサバサと振り、なにも怪しいものは持っていないことをアピール。

「ほら、これなら俺は何も出来ないし。仮に君が俺を殺そうとしても、何も抵抗できないよ」

 最後に何もしないという意思表示に両手を広げ、頭まで上げ降参ポーズを作った。
 今までの動きを全て見ていた銀籠は、優輝が不正などをしていないことは分かっている。

「他に何か気になるところはあるかな。あ、陰陽師だからといって、ゲームみたいに手から何か特別な力を出す事は出来ないよ。誰にでもできる結界も、お札がないと俺は出せないんだ。姉さんならお札が無くても出せるけどね」

 優輝が話していても、銀籠は口を開かない。
 地面に置かれた優輝の所有物と、彼自身を交互に見ては、眉を顰め首を傾げる。

「ん-、後は何をすれば話してくれるかな」

 両手を上げたまま空を見上げる優輝に、銀籠はまだ震えてはいるものの、声を出すくらいには落ち着くことが出来たため、震える唇を動かした。

「な、何故ぬしは、そこまでして、我と、話したがるのだ」
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