人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

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秋晴れ

「わかった。明日も来るよ」

 初めて聞いた銀籠の低く、銀のような妖艶な声に、優輝は微かに目を開き嬉しそうに頬を染めた。

「それが君の声なんだね、凄い素敵だ」

「っ!!」

 そんなことを言われるとは思っておらず、銀籠は思わず驚き、言葉を詰まらせる。

「俺の地声は、他の男性と比べると高いんだよね。アルトボイスっていうのかな。だから、銀籠さんのような低く、男性らしい声が羨ましいよ」

 自分の喉を触りながら、優輝が銀籠の声をほめる。

 何故そんなことを言われてしまっているのか、何故そんな話題を出すのか。

 何が何やら分からない銀籠は、ただただ困惑するしかない。

「そういえば、銀籠さんのお父さんの声も素敵だったね。銀籠さんより低くて、威厳があるような。それでいて、少しおちゃめなところがある。凄い素敵なお父さんだと思うよ。自慢のお父さんでしょ?」

 今度は父親の事を褒められ、なんと返せばいいのか分からない。

 目線を落とし言葉を選んでいると、優輝が先に言葉を繋げてしまい、何も言えなくなってしまった。

「銀籠さん、また来てもいい? 何もしない。ただ、お話をするだけ」

「っ! い、いや……」

「銀籠さんとお話がしたいだけだから。ただ、それだけ。大丈夫、俺以外は誘わないし、姉さんには一応事情は話すけど、付いてこないでと言えば、絶対に来ないから」

 ここまで言われてしまえば、銀籠には断る理由がない。
 悩みに悩んだ末に、銀籠は条件を出して許可した。

「父上に、近づかないと約束をするなら、また来ても良い。ぬしだけが来るという、約束なのなら……」

 おずおずと、目線をさ迷わせながら言った銀籠の言葉に、優輝は目を輝かせ、力いっぱいに頷いた。

「わかった!! ありがとう!!」

 今まで無表情だった彼が、お花を飛ばしたような満面な笑みを浮かべ、喜ぶ。

 銀籠は、思わず目を丸くし唖然。

「そ、それじゃ、我は行く」

「わかった。明日も来るよ」

「わかっ――明日!?」

「え? うん。毎日来るよ」

「く、来るな!」

「えぇ、さっきは来てもいいって言った」

「前言撤回! もう来るな!」

「それは約束できないよぉ~。それじゃ、また明日ね?」

 地面に置いた教科書などを拾い上げ、鞄の中に戻し、手を振りその場を去って行く。

 今だ困惑している銀籠は、去って行く彼の背中を見続け、唖然と立ち尽くすのみだった。

 ※

「はぁぁぁぁ…………」

「疲れておるな、銀籠よ。薪を取りに行く時に何かあったのか?」

 小屋の中で銀と銀籠は囲炉裏を囲い、ご飯を食べていた。

 中心には鍋が火にかけられており、鮭の味噌汁が温められている。
 銀が問いかけながらお椀に味噌汁を入れ、銀籠は素直に受け取りため息と共に頷いた。

「薪を取り、帰ろうとした際。何故か、昨日出会った陰陽師がこの森に一人で来ていたのだ」

「ほう。それは、現当主である開成か?」

「あの老人……?」

「そうじゃよ、九重開成ここのえかいせい。九重家の現当主じゃ」

 開成の事を頭の中に思い浮かばせ、銀籠は首を振る。

「優輝と呼ばれていた跡取り息子だ。何故かこの森に来ていて、少しだけ話したのだ」

「っ! 話した? 一人でか?」

「父上いなかったから…………」

「あ、あぁ…………」

 まさか、人間を見ただけで体が震え、言葉すら発する事が出来ない銀籠が、一人で人間である優輝と話すことが出来たなんてと。

 銀は嬉しいような、でもどうやって話す事が出来たのか。
 手に持っていたお玉を鍋の中に入れ、腕を組んだ。

「ふむ……。脅されたとか、何かされたか? 開成の孫だからそれはないと思うが、もし何か言われているのなら、正直に話せ」

「何かされたとかはない。ただ、話がしたいだけと、言われた」

「話がしたいだけ?」

 何か目的があるのかと銀は考えるが、九重家はあやかしだろうと危害を加えない者には特に何もしない陰陽寮。

 逆に、手を差し伸べ救おうとする程お人好しの集まり。

 そんな陰陽寮の人達が、人間を怖がっている銀籠に、何か企みをするなんて考えられない。

「うーん。何が目的なんじゃ…………」

「父上がわからぬのなら、我もわからぬ。ただ……」

「ただ?」

 言葉を詰まらせた銀籠を促すように、銀はオウム返しのように同じことを発する。

「ただ、これから、毎日来ると言っていた」

「毎日!?」

 さすがに毎日会いに来るとは思っていなかった銀は、思わず大きな声を出し驚いてしまった。

「らしい。まぁ、口だけだろう。一応、父上には近づかないように言った。気にする必要はない」

 お椀に口を付け、鮭の味噌汁を飲む。


 ――――――――わかった。明日も来るよ


 この言葉は絶対に嘘。
 そう思い、ご飯を食べ終え、銀と共に眠りについた。
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