人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

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初冬

「……重たい?」

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 結局、銀籠はここで何を考えても意味は無いと思い、
 いつものように隣に移動し、いつもの時間を過ごす。

 だが、銀籠は優輝との話に集中出来ず、上の空。
 何度か生返事しており、優輝は目を丸くする。

「銀籠さん、もしかして体調悪い? それなら、今日はもう帰ろうか?」

「っ、え。い、いや。体調は悪くないぞ?」

 優輝からの言葉に、銀籠は一瞬面食らう。

「でも、いつもと違う。体調が悪いわけではないということは、何か悩んでるの?」

 ――――まさか、ここまで気づかれるなど思わなかった。

 何と答えようか悩んでいると、優輝が言葉を繋いでしまい何も言えなくなってしまった。

「もし、俺に話せる内容なら話してほしいとは思うけど、話せないことなら無理はさせない。でも、銀さんには話した方がいいよ。誰かに話すだけでも気持ちは軽くなるからね。俺の経験談」

「優輝も悩んでいたことがあるのか?」

「生きていると、どうしても悩みとかはあるよ。どうやってじじぃの修行から逃げることができるのか。どうやったら跡取り候補から外れることができるのか。なんで姉さんにげんこつをされるのか。日々、色んなことに悩まされているよ」

 わざとらしく肩を落とし、大きくため息を吐く。

 優輝の悩みは本当に悩みなのかと疑いたくなる内容で、銀籠は思わずくすくすと笑ってしまった。

「優輝の悩みは面白いな」

「えぇ、俺は本気で悩んでいるんだけどなぁ」

 むぅと唇を尖らせるが、銀籠が楽し気に笑っていると、優輝もつい楽しくなるため同じく笑う。

「あ、でも。今、人生をかけて悩んでいることがあるなぁ」

「む、それはなんだ? 我ができることなら手を貸すぞ?」

「あ、それなら嬉しいなぁ。解決してくれる?」

「で、出来ることなら…………」

 優輝から改めて聞かれてしまい狼狽えるが、できることならやりたい。
 その気持ちは強く、緊張しながらも頷いた。

「あはは、ありがとう。でも、そこまで緊張しなくてもいいよ。俺の悩みは、銀籠さんに何をすれば喜んでもらえるか。何を話したら笑ってくれるのか。そればかりだから」

 ――――――――何を考えておるのだこの人間は!!

 微笑みながらそんなことを言う優輝に銀籠は驚き、頬を染める。
 気まずくなり、目線を他所へと逸らしてしまった。

「あ、今のような顔の浮かばせ方も日々悩んでいるよ。やっぱり、好きという気持ちを表現するのが一番効果的なのかなぁ」

「そ、そんなこと、悩まんでも良い!!」

「可愛いね、銀籠さん」

「うるさい!!!」

 恥ずかしく、思わず怒鳴ってしまう銀籠だったが、それすら優輝は可愛いと思い笑う。

 普段、表情が滅多に変わらない優輝が心の底から笑える時間。
 この時間は、これからも大事にしていきたい。

 そのように、お互い思いつつも、口にはせず胸に秘める。

「あとはねぇ……」

「もう良い! 一人で悶々と悩んでおれ!」

「えぇ、それは酷いなぁ。出来ることならしてくれるって言っていたのにぃ」

「前言撤回だ!」

 腕を組み、プンプンと頬を膨らませ怒ってしまった銀籠を目の前に、優輝はウキウキと花を飛ばしている。

 もう、すごく楽しくて仕方がない。
 そう思っている表情を浮かべていた。

「でも、これだけは言わせてほしいなぁ。聞いてよ、俺の悩み」

「また、くだらないことだろう」

「そんなことはないよ。本当に、さっき言ったように、人生をかけている悩みだから」

 優しく細められている水色の瞳には、銀籠の顔が写り込む。
 真っ直ぐと見つめられ、銀籠は息を飲んだ。

 柔和な笑みを浮かべている優輝の言葉を断ることができず、赤い顔のまま小さく頷いた。

「さ、最後だからな」

「良かった、俺の悩みはね――……」

 ザッと、一歩足を前に出し銀籠との距離を詰める。
 身長は優輝の方が少しだけ小さいため、上目遣いで見上げた。

 目を合わせ、ゆったりとした口調で悩みを打ち明けた。

「どうやったら、銀籠さんが俺に集中してくれるのか。もし良かったらアドバイス、くれないかな」

 銀籠を愛おしそうに見つめる優輝の瞳に当てられ、目をキラキラとさせてしまう。
 同時に高鳴る心臓を抑え、口をわなわなと震わせた。

 吸い込まれるような水色の瞳から目を逸らすことができず、体がじんわりと温かくなるのを感じ、ただただ見つめ返す。

「ねぇ、どうすればいいかな」

「し、知らぬ!!!」

 優輝の言葉にやっと我に返った銀籠は、水色の瞳拘束から逃れ、後ろに下がり距離をとった。

「あ、残念。銀籠さんの甘い匂いを感じることができていたのに」

「なにをいっ――――それは、世の中では変態がするものではないのか?」

 また声を荒げ言い返そうとしたが、優輝の言葉についついツッコんでしまった。

「銀籠さんが魅力的なのが悪いと抗議するよ」

「そなただけだ」

「そんなことないよ、きっと。たぶんだけど、銀籠さんが人間の世界で生きていたら引く手数多だったよ。勉強はできるだろうし、真面目。見た目はこの世界で一番綺麗、優しい。あれ、銀籠さんの悪いところってどこ? いや、ないか」

 姿勢を伸ばした優輝は、顎に手を当て真剣に考えながら言う。
 途中から何を言っているのか理解できなくなった銀籠は頭を抱え、呆れたように大きく息を吐いた。

「そんなことないだろう。それと、我が人間と共に生活など絶対に不可能だ。人に近づくことすらできんのだぞ。それを知れば、誰も我と共に居たいとは思わん」

 目を伏せた銀籠に、優輝は改めて口を開いた。

「それは俺にとって嬉しいことかな。不謹慎だけど」
「? なぜ?」
「当たり前じゃん。だって、誰かに取られる心配をしなくてもいいってことでしょ? 俺のペースで銀籠さんを落とすことができるじゃん」

 なぜか自慢げな表情を浮かべながら言う優輝に面食らい、銀籠は目を皿にする。

 ――――――――優輝は、なぜそこまで我の事を好いてくれるのだろう。わからん。

 銀籠は優輝の思考がわからないが、それでも嫌な気分は一切ない。
 それどころか心地よく、この感覚をずっと味わっていたいとまで思っていた。

 返答に困り悩むが、それでも今の時間を失いたくないという自分がおり、より一層困る。

 夕凪の件も頭を過ってしまい、目線を至る所にさ迷わせた。

 困り果てていると、優輝が変な解釈をしてしまい、拳を握り目を伏せる。

「……重たい?」
「え?」
「俺、人をここまで好きになったことがないんだ。だから、やり方もわからないし、どうすれば好きな人を喜ばせることが出来るのかもわからない」

 今度は優輝が目を伏せ、後悔するような口調で銀籠に訴えた。

「何も難しいことを考えずに、素直な気持ちを伝えていこうと思っていたんだけど。もしかしたら、銀籠さんにとって辛いものになっていたのかなって思って。人の感情って、プラスなものでも人によっては重く苦しめる。そんな本を読んだことがあったから…………」

 しゅんと落ち込んでしまった優輝に、銀籠はあわてて弁目した。

「ま、待ってくれ。そうではない、苦しくも辛いとも思ってはおらぬ。ただ、どのように返答すれば良いのかわからなかっただけだ。優輝の言葉はものすごくうれしっ――……」

 ”うれしい”と素直に口から出ると、同時に優輝の瞳と目が合い言葉が止まる。

「…………嬉しい?」

「う、うるさい!!!」

「いひゃいひゃい!! ほれはりふりんらお~これは理不尽だよぉ

 頬を摘まれ、横へと伸ばされる。

 今回はすぐに離され、頬を摩る。
 ぷんぷんと頬を膨らませ腕を組む銀籠を見て、優輝は痛む頬を摩りながら、優しく微笑んだ。
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