人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

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初冬

「俺って、そんなに女性心わかってない?」

 優輝が陰陽寮に戻ると、なんの前触れもなく神楽が廊下を突っ走ってきた。

「優輝ぃぃぃいい!!」
「っ!? わっ!?」


 ――――――――ダンッ!!


 ちょうど靴を脱ぎ玄関に上がったところで突進されてしまい、優輝は抗う事が出来ず背中を床に強くぶつけてしまった。
 今日、これで二回目と思いながらげんなり。覆いかぶされるなら銀籠さんの方がぁと、心の中で嘆きながら咳き込む。

 頭も軽くぶつけてしまい、いらだつ口調でお腹の上に乗っている神楽に問いかけた。

「いったいなぁ。何をするのさ、姉さん。普通に重たいし、痛いんだけど」
「夕凪お姉ちゃんが帰ってきているってホント!? 一度陰陽寮にも来たみたいなんだけど、私知らない!!」

 興奮したように頬を染め、優輝の上に座り直し目を輝かせていた。
 そんな神楽の様子を見て、優輝はげんなり。大きくため息を吐き、頭をさすった。

「確かに、帰ってきているよ。さっき会った」
「え、さっき? それって、銀籠さんに会った後? 前?」
「後だよ。森の出入り口で出会った」
「あ、そうなんだ…………」

 優輝の言葉に、神楽はどことなく気まずそうに表情が暗くなる。

「えっと……。何か言ってた?」
「ん? 特に何も言ってないよ。ただ、ちょっと様子がおかしかった………? んー、いや。どうなんだろう」

 上に乗っている神楽を膝に乗せ、優輝は上半身を起こし腕を組む。
 うーんと先ほどの会話を伝えようと言葉を探す。

「……まぁ、気のせいか」
「多分それ、気のせいじゃない…………」
「ん? どういう事?」
「はぁ……。ねぇ、優輝は夕凪姉さんの事どう思っているの?」

 何故そんな事を聞いて来るのか。
 優輝は眉を顰め疑問に思いつつも、素直に答えた。

「綺麗で頑張り屋さんなお姉さん……かな。見た目は結構人惹きそうだよね。身長小さいけど」
「140台だっけ? 身長の事はどうでもいいんだけどさ。他にはないの?」
「他? んー。努力家で、一人でなんでも抱えちゃうすごい人。でも、抱えすぎていつか崩れてしまうんじゃないかなって心配にもなるよ」

 優輝の素直な言葉に、神楽は呆れたように大きく息を吐き、立ち上がった。

「優輝ってさ、本当に女子泣かすの得意だよね」
「何それ、俺、最低じゃん」
「最低な事を天然でしているって事。ほんと、なんであんたみたいな、人の気持ちを理解できない人がモテるのかわからないよ。やっぱり、見た目って重要なのねぇ」
「はぁ? なにそれ、酷くない? さすがに傷ついたんだけど」

 ムッと、頬を膨らませて怒る。
 だが、神楽は気にせず手を頭後ろに回し廊下を進む。

「それじゃ、言い換えてあげる」
「…………なに」
「貴方は、女心が理解出来なさすぎなの。もっと女性の気持ちとかを敏感に感じ取ってみて、そうすれば私の気持ちも、夕凪姉さんも理解できると思うから」

 それだけを言い残し、神楽は廊下の奥へと行ってしまった。

 彼女が何を言っているのか全く理解できない優輝は、せっかくの楽しい気分が台無し。
 よっこらせっと立ち上がり、イライラを隠すことなく自室へと向かった。

 足取りが荒々しく、周りの陰陽師達は触らぬ神に祟りなしと言うように誰も触れない。
 唯一触れたのは、優輝がじじぃと呼んでいる開成だけだった。

「どうした優輝、機嫌が悪いようだが。何かあったか?」
「…………」
「なんだ、姉弟喧嘩か? 早く仲直りするのだぞ。二人が喧嘩していると、寮の雰囲気が最悪になるのだからな」

 いつもだと、ここで何かしら否定の言葉が優輝から返ってくるのだが、今日は何も言わない。
 不思議に思い、俯いている優輝の顔を覗き込むと、開成は目を丸くした。

「…………何か悩んでいるのか? どうした」
「ねぇ、じじぃ」
「じじぃはやめろと…………まぁ、良い。どうした?」
「俺って、そんなに女性心わかってない?」

 ゆっくりと顔をあげ、開成を見上げる。
 その瞳は揺れ、迷っている様子だ。

 こんなに弱弱しい彼を見るのはいつも一緒に居た開成も珍しい事だったため、数度瞬き。
「えぇと?」と、困惑しているような声をこぼした。

 優輝は普段、マイペースであまり人と関わろうとはしない。それもあり、人の気持ちには疎い部分がある。
 何回か友達と喧嘩して、帰ってきたこともあった。

 なんでも素直に言ってしまう為、開成はぶつかることが多い優輝を心配していた。
 だが、しっかりと最後には解決しているため、信用もしていた。

「…………女性だけには限らんが、人の感情には疎いな、優輝は。だが、それはもう何年も周りから言われている事だろうし、一度も気にしなかっただろう。それに、優輝は素直に人をほめたり、良い所を見つけるのも得意。だから、ワシもそこまで気にしてはいなかったのだが……。なにか、気にする何かがあったのか?」
「姉さんに、女子泣かすの得意だよね、とか。人の気持ちを理解できない人がモテるのがわからないとか。色々ボロクソに言われた。帰ってきてすぐに言われたから本当に意味が分からなくて、さすがに頭にきた」
「あぁ、なるほど。それは、優輝の事を理解している神楽からしたら珍しい事だな。他に何か話はしなかったか?」

 開成に聞かれ、さっきの会話を思い出す。
 その時に、目を輝かせながら夕凪の話をしていた事を思い出した。

「夕凪姉さんが帰ってきていると言う話でものすごく目を輝かせていたよ。その話をした後に、何故か機嫌が悪くなった」
「…………あぁ、なるほどぉ。うむ、これはワシは何もしない方がいいな」
「えぇ、今回俺が悪いって事? でも、なんで姉さんにあそこまで言われないといけないのかわからないし、なにに対して怒っているのかもわからないし。もう、幸せな気持ちが台無し……」

 はぁ……と、深いため息を吐き、頭を掻く優輝を見下ろし、開成は頭を撫でてあげた。

「まぁ、今回は”わからない”では済まされない事態という事だ。だが、優輝なら大丈夫だろう」
「なんで、そう言い切れるのさ」
「今までどんなにトラブルを起こしても、しっかりと解決してきただろう。今回も、トラブルをそのままにせず解決のために考え、抗い、頑張ると予想出来る。だから、言い切れるのだ」

 ドヤ顔を浮かべている開成をうざいと感じた優輝は、足を踏みつけその場から居なくなった。
 廊下に残ったのは、足を支え憎しみの声を漏らしている開成の姿のみ。

「まったく、はぁ……」

 ため息を吐き、痛みを我慢し立ち上がる。
 優輝が姿を消した方向を見つめながら、開成は頬を緩め肩を落とした。

「人の気持ちを理解できなくても、理解しようとし、関わるように努力して来たお前なら、今回も解決できるだろう。問題はもう一人――……」
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