人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

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初冬

「もっと強くならないと」

 銀から優しく問いかけられ、銀籠は俯いた。

「――父上。我は、優輝の事が好きかもしれない」

 思い出しただけで頬を赤く染め、名前を出しただけで胸が高鳴る。
 これを恋と言わずに、なんと言うのか。
 だが、銀籠はまだ”かもしれない”としか言えない。

 理由は、自分が優輝と共に過ごすのは難しい。そう思っているから。

 今まで、何度も考えた。
 生きる時間、生活、感覚。すべてが違う。

 父親である銀は、それでも共に過ごしたいと思える相手に出会えたため結婚した。

 銀の場合は、自身があやかしでも特に問題は無い。
 人の生活にしっかりと溶け込み、違和感なく過ごすことが出来る。

 だが、銀籠はそうもいかない。

 銀籠は人が怖く、恐怖の対象となっている。
 共に生活することはおろか、近づく事すら出来ない。

 しかも、優輝は陰陽師。
 陰陽師があやかしである銀籠を相方にするのは、周りからの印象が悪くなる。
 同性同士というのもあり、簡単に事が進むとは考えられない。

 好きだからという理由だけで、優輝の気持ちに答えてしまえば、後悔するのは銀籠ではなく優輝の方。
 それをわかっているのに、自身の気持ちを優先して優輝の人生を崩すことなど、銀籠には到底出来る訳がない。

「好きか、そうか。それなら良かった」
「…………? なぜだ? なぜ、そんなに嬉しそうなのだ?」
「当たり前じゃろう? 銀籠が素直に言ってくれたのだ。それだけではなく、人の温もりを信じる事が出来たという事でもあるからのぉ、嬉しくないわけがないじゃろう」

 ぺろっと銀籠の頬を舐めて、安心させる。

「人は温かい生き物じゃ。人は、優しいのじゃ。人は、短い人生の中で懸命に生きている、綺麗な生き物なんじゃよ」
「…………綺麗な、生き物」


 優輝が自分に話しかけてくれる。
 優輝が自分の事を理解してくれる。
 優輝が自分のことを一番に考えてくれる。


 今まで優輝が自分のためにしてくれたことが頭に浮かび、体が温かくなり、同時に照れくさくなってしまい顔を横に振った。

「も、もうこの話は終わりだ!!」
「これ以上は銀籠が優輝の愛に耐えられぬか?」
「うるさい!」

 真っ赤になった顔を銀から逸らし、銀籠は怒った様に立ち上がると、小屋の外へと向かってしまった。

「薪を取ってくる!!!」

 バタン!! と、大きな音と共に小屋のドアは閉められた。
 残された銀は、壁の方にある薪を見て苦笑。肩を落とし、体を丸くした。

「さっき取ってきていたのじゃがなぁ~」

 楽し気にぼそりと呟くと、銀は目を閉じ、また夢の中に入っていった。

 ※

 桜羽家に戻ってきていた夕凪は、神通力を使い相談しに来た人達の話を聞いていた。

 悩みをしっかりと聞き、解決し、見届けてあげる。

 今日は、もう何人の方と話をしたのだろうか。
 そう考えながら、眉間を抑えた。

 今では、昔ほど神通力による負荷はない。
 だが、それでも全く影響がないわけではないため、疲労感は残る。

 夕凪は、誰もいないことを確認し相談室から出た。

 桜羽家の陰陽寮には、まだ夕凪の部屋が残されており、中もしっかりと整理整頓されている。
 当たり前のように部屋へと戻り中を見回すと、夕凪は眉を下げ息を吐いた。

「まさか、まだ私の部屋が残されているなんて思わなかったわね。もう、あれから五年は経っているのに」

 腕を上に伸びをしたあと、着換えようと端に置かれているキャリーバックを開ける。
 スキニーズボンに花柄のブラウス。普段着に着換えた夕凪は、体を休めようと中央にある座布団に座った。

 丸テーブルの上には湯呑とポット。
 用意周到だなぁと感心しつつ、先程まで喋りっぱなしで乾いてしまった喉を麗そうと湯呑に手を伸ばす。
 その時、廊下から名前を呼ばれてしまい手を引っ込めた。

「夕凪様、来客です」
「今日はもう依頼は受けられないわよ」
「いえ、九重家の者です」

 名前を聞いて、疑問に感じつつも中に入れるように言う。
 スッと静かに開かれた襖の奥には、満面な笑みを浮かべている神楽と一礼をしている優輝だった。

「夕凪お姉ちゃん!」
「あら、神楽ちゃんに優輝、こんにちわ」
「こんにちわ!」

 私服姿の二人が部屋の中へと入ってくる。

 神楽は赤いワンピースに白いコート。黒いタイツを履いている。
 優輝は黒いタートルネックにスキニースボン、黒いコートを着ていた。

「二人ともどうしたの?」
「会う機会がなかなかなかったから、今の時間なら夕凪お姉ちゃん休憩中かなぁって思って!」

 二人は夕凪と同じ陰陽寮で過ごしている為、スケジュールは大体同じ。
 空いているであろう時間を考え、遊びに来た。

「優輝は今の時間、森に行っているんじゃないの?」
「なんかよくわからないんだけど、今日は三十分で帰されたんだよね」
「え、喧嘩……ではない?」
「喧嘩はしていないと思う。俺の怪我を治してくれたし」
「え、怪我をしたの!? 大丈夫!?」

 コートを脱ぎながら夕凪の隣に座り、優輝はマイペースに湯呑みへと手を伸ばしたため、神楽がペチッとはたき質問に答えるように視線で訴えた。

「……怪我は大丈夫だよ。完璧に治してくれたんだ、驚きだよね」
「へぇ、人狼ってそんな事も出来るのね」
「銀さんはあやかしの中ではトップレベルの強さを誇るんだって。その血を受け継いでいる銀籠さんも強い力を扱えるって事なんじゃないかな。俺も負けないように、もっと強くならないと」

 拳を握り何故か鼻を鳴らし宣言している優輝を見て、夕凪はくすくすと笑う。
 隣に座る神楽は呆れ、頭を抱えた。

「ところで、今回は何か用事があったわけではないのかしら」
「用事というか、優輝は夕凪お姉ちゃんと会っているのに、私だけ会っていないのは嫌だったから来たの。だ、駄目、だった、かな…………」

 シュンと落ち込んでしまった神楽の頭を撫でてあげ、夕凪は笑みを向けた。

「駄目なわけないじゃない。来てくれて嬉しいわよ、ありがとう」

 夕凪の笑みを見て、神楽は頬を赤く染める。
 同じように笑顔になり、「良かった」と笑い合った。
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