人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

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初冬

「今の主が可愛いと思ってな」

「え、しばらく会えない?」
「う、うむ。…………まさか、それだけを伝えただけで世界が終わるみたいな顔を浮かべられるとは思わなかったぞ…………」

 いつものように話そうとした優輝だったが、先に銀籠が話し出してしまったため、聞くことにした。
 だが、話を聞いたことを後悔する事となる。

「な、なんで、なんで? お、俺何かした? 何かしたなら謝るから、土下座でもなんでもするから。あ、会わないのは嫌だよぉ」

 珍しく取り乱し、涙を浮かべ、銀籠に縋る。
 袖を掴み「嫌だ嫌だ」と、子供のように縋る優輝の手を掴みたい衝動に駆られるが、ここで甘えてしまえば昨日の決意が揺らいでしまう。
 銀籠も痛む胸を無視し、優輝の肩を掴みゆっくりと引きはがした。

「優輝は何もしていない。ただ、昨日言っていただろう? これから狗神について調べ始めると。今、このように話している時間すらも惜しいと思ってな」
「そこは問題ないよ。学校の授業中にこっそり調べているから」
「授業はしっかりと受けよ」
「…………」
「返事」
「……………………ハイ」

 返事をしたものの、声は小さく疑わしい。ふてくされてもいるため、納得していないのは表情でわかった。
 銀籠は子供みたいにふてくされている彼の姿を見て、ちょっとかわいいなぁと思いくすくすと笑った。

「あ、なんで笑ってるの」
「今の主が可愛いと思ってな。普段は感情をあまり出さんのに、こういう時はわかりやすい」
「…………かわ、いい?」

 銀籠が何気なく放った言葉に、優輝は赤面。
 なぜ優輝が照れているのかわからず目を丸くするが、自分の言葉を振り返りやっと理解。銀籠も同じく顔を赤くし、慌てたようで弁明し始めた。

「な、ち、違う!! 今のはちょっと、口が滑っただけで」
「え、なら、本心じゃないって事?」
「あ、い、いや…………」

 今度は落ち込んでしまった優輝に、またしても慌ててしまい、銀籠は言葉を迷う。
 うーんと悩んでいる銀籠を見ている優輝は、彼の様子に頬を綻ばせ柔和な笑みを浮かべた。

「…………銀籠さん」
「な、なんだ?」
「銀籠さん、ちょっとは人に慣れた感じかな」
「えっ」

 優輝は自身の肩を差し笑いかけた。
 目線を移すと、今だ優輝の肩を掴んでいる自身の手が目に入る。

 完璧に無意識だったため、銀籠はばっと離し後ろへと下がった。

「あっ」
「…………はぁ、無意識だった」
「無意識に触れられるくらいには慣れてくれたって事かな。最初は、少し触れてしまっただけで目を丸くしていたのに」
「むっ。そ、それは優輝も一緒だろう。凄く慌てて離れておった!」
「だって、嫌われたくなかったんだもん。怖いと思われたくなかったから仕方がないよぉ」
「素直に言うでない!!」

 顔を真っ赤にし怒る銀籠を見た優輝は、ニマニマと楽しむ。
 可愛いなぁと思いながら銀籠を見つめていると、顔を背けされてしまい肩を落とした。

「顔、逸らさないでよぉ」
「知らん!!」
「むぅ……。ところで、最初の話に戻ってもいいかな。本当にもう会えないの?」

 先程までとは異なり声が沈み、銀籠は赤い頬はそのままに目線だけを向けた。

「もう会えないわけではない。いや、会わない方が我々のためっ――――」
「銀籠さんは俺に死ねと言っているの?」
「……………………少なからず、狗神の件が片付くまでは会わない方が良いだろう」

 本当に会わなくなれば死んでやると言いたげな優輝の表情に、銀籠は早く話を進めようと言葉を繋げる。
 今の言葉だけでは完全に納得できない優輝だったが、これ以上渋ると銀籠に迷惑になってしまうと思い、嫌々ながらも納得した。

「わかった、狗神の件が解決するまでだね」
「あ、あぁ。だからと言って、無理をするでないぞ。優輝が怪我をしたり、倒れてしまえば我は悲しいぞ」

 目を伏せ、胸を抑える銀籠の姿に、優輝は不謹慎と思いながらも喜んでしまった。
 薄く笑みを浮かべ、銀籠へ近づき頬に手を添える。

「銀籠さん、心配してくれてありがとう。怪我をしないとかは難しいかもしれないけど、無理はしないよ。狗神の件に関しては」
「あぁ、やくそっ――狗神に関して?」

 頬に添えられた手に、銀籠も自身の手を添え約束して欲しいと伝えようとしたが、最後に付けだされた不穏な言葉により止まる。

「まさか、他の事に関して無理をするとかではないだろうな! それも駄目だ! 許さぬぞ」
「仕方がないじゃないか、だって、銀籠さんが言ったのだから…………」
「…………我?」

 優輝が何を指しているのかわからず、銀籠は眉を顰め首を傾げる。

「これから、俺はこの森に来てはいけない。銀籠さんと話す事が出来ない。行きたいという気持ちを、話したいという気持ちを我慢して。感情に蓋をしてこれからを過ごさなければならない。これは、銀籠さんとの約束だから無理をしてでも守らなければならない」

 世界の終わり、そう言いたげな表情を浮かべぶつぶつと呟く優輝を見下ろし、銀籠は苦笑を浮かべながらも頭を撫でてあげた。
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