36 / 48
仲冬
「…………銀籠さん?」
しおりを挟む
「はぁ、はぁ…………。くそっ、しくじったな」
森の中には優輝が額から血を流し、重たい体を引きずりながら歩いている姿があった。
小屋で背後を取られた優輝は、咄嗟に振り向き後ろへ下がった。だが、完全に避けきる事が出来ず額を深く切ってしまう。
体勢を崩し片膝を突くと、目の前に立つ男性はまたしても左手を上げ切り裂こうと勢いよく振り下ろす。
すぐさま立ち上がり隣に跳ぶ、避けたのと同時にドアへと向かい走り出した。
逃がすか。そう言うように男性が近くに転がっている鍋を優輝に向けて思いっきり投げつける。
反応が遅れ、避けることが出来ずゴンッと顔を庇った腕にモロに当たってしまった。
痛みで顔を歪めながらも何とか小屋から飛び出し、自身が使役している式神”送り狼”を発動。
出した瞬間、人が一人なら簡単に乗ることが出来る狼が姿を現す。
すぐさま背中に乗り、小屋から離れるように指示。男性からひとまず逃げる事が出来ていた。
『クゥウウ…………』
「心配してくれてありがとう、送り狼」
送り狼は、ふらついている優輝を心配そうに見上げている。
そんな送り狼の頭を撫でてあげ、優輝は大丈夫だと伝えた。
「…………はぁ、大丈夫だけど、ちょっと、休んでもいいかな」
視界が歪み、立っているのも辛くなってきた優輝は、近くにある木に寄りかかる。
荒い息を整えるため深呼吸。
額からの血は止まらず、鍋を投げられた際にぶつけてしまった右腕は腫れ痛みが増していく。
動かせない右手の代わりに左手で額の血を止血しようと抑えるが、指の隙間から流れてしまい意味はない。
「はぁ、はぁ……。銀籠さんと銀さんは大丈夫なのかな…」
このまま森を出る事はおそらく可能。でも、何も対策なしに出てもいいものなのか。
逃げている時に放った式神は、開成にちゃんと届いているか。
気配を探りながら、次の行動を考える。
まともに動けない今、戦闘は不可能。式神使いだと言っても、優輝自身が万全ではないため、式神も全力を出す事が出来ない。
それを踏まえて考えなければならないため、険しい顔を浮かべてしまう。
気持ちを落ち着かせるため、雲が立ち込める空を見上げた。
「…………大丈夫、あの二人の事だ。絶対に、大丈夫」
先程の小屋の中を思い出し、自分に大丈夫だと言い聞かせる。
それでも、何か"大丈夫"だと思えるような証拠がないか記憶の中を探った。
だが、優輝自身、実際に会うまで安心は出来ない。
いくらここで考えても意味はない。
荒い息は何とか整い始めたため、ふらつく体を再度立ち上がらせようとした。
だが、その動きは、微かに漂ってきた邪悪な気配によって止まる。
せっかく整ってきた息が荒くなり、気づかれてはいけないと手で口を塞ぐ。
何処からこの気配が流れてきているのか、木から顔を覗かせ確認しようと視線をさ迷わせる。
「っ、!」
気配を消し見回していると、木が立ち並ぶ隙間から、小屋で優輝を襲った男性を見つけることが出来た。
グルルルッと唸り、口からは涎を垂らし歩いている男性。普通の人ではないことはそれだけでわかる。
横に垂らしている手も、人間とは思えない程爪が鋭く尖っている。
まずい、ここで見つかれば終わり。
気配をできるだけ消し、狗神が去るのを待たなければ。
顔を至る所に向け何かを探しているような様子を見せているため、見つかっていないとわかる。
このまま欺くことが出来れば…………そう思ったが、気配を研ぎ澄ましたことにより、優輝は狗神とはまた違う気配を感じ取ってしまい、思わず狼狽えた。
「…………銀籠さん?」
思わず森の奥を見つめ名前を呼んでしまった。
その声は狗神にも届き、ニヤァと口角を上げ優輝が隠れている木へと顔をグリンと向ける。
「っ、しまった!」
すぐに送り狼に跨り逃げようとしたが、狗神は振りかざした手から黒い霧を放つ。
それは黒い刃となり、二人に襲いかかり送り狼を切り裂いた。
ちぎられたお札を目にし、優輝は新たな式神を出そうといつものように鞄に手を伸ばそうとした――が……。
「っ、銀籠さんに会う時は必ず荷物は最低限にしていたから、送り狼しか持ってきていないんだった……」
どうするか悩んでいると、上から影が差す。
見上げると、舌を出し愉快そうに見下ろしてくる狗神の顔。
動くことが出来なくなってしまった優輝を嘲笑うかのように、狗神は口角を上げ、カタカタと体を震わせている優輝を見下ろした。
いつもは多彩な式神を使い、すぐにあやかし達を倒してきていた優輝。だが、今は何も持ってはない。
鋭く光る手が優輝の視界に映るが何も出来ない、体が動かない。
――――――――ここで死ぬのか
優輝は自身の死を覚悟し、ソッと目を閉じた。
刹那、耳に女性の声が入り、同時に体が浮遊感に襲われた。
森の中には優輝が額から血を流し、重たい体を引きずりながら歩いている姿があった。
小屋で背後を取られた優輝は、咄嗟に振り向き後ろへ下がった。だが、完全に避けきる事が出来ず額を深く切ってしまう。
体勢を崩し片膝を突くと、目の前に立つ男性はまたしても左手を上げ切り裂こうと勢いよく振り下ろす。
すぐさま立ち上がり隣に跳ぶ、避けたのと同時にドアへと向かい走り出した。
逃がすか。そう言うように男性が近くに転がっている鍋を優輝に向けて思いっきり投げつける。
反応が遅れ、避けることが出来ずゴンッと顔を庇った腕にモロに当たってしまった。
痛みで顔を歪めながらも何とか小屋から飛び出し、自身が使役している式神”送り狼”を発動。
出した瞬間、人が一人なら簡単に乗ることが出来る狼が姿を現す。
すぐさま背中に乗り、小屋から離れるように指示。男性からひとまず逃げる事が出来ていた。
『クゥウウ…………』
「心配してくれてありがとう、送り狼」
送り狼は、ふらついている優輝を心配そうに見上げている。
そんな送り狼の頭を撫でてあげ、優輝は大丈夫だと伝えた。
「…………はぁ、大丈夫だけど、ちょっと、休んでもいいかな」
視界が歪み、立っているのも辛くなってきた優輝は、近くにある木に寄りかかる。
荒い息を整えるため深呼吸。
額からの血は止まらず、鍋を投げられた際にぶつけてしまった右腕は腫れ痛みが増していく。
動かせない右手の代わりに左手で額の血を止血しようと抑えるが、指の隙間から流れてしまい意味はない。
「はぁ、はぁ……。銀籠さんと銀さんは大丈夫なのかな…」
このまま森を出る事はおそらく可能。でも、何も対策なしに出てもいいものなのか。
逃げている時に放った式神は、開成にちゃんと届いているか。
気配を探りながら、次の行動を考える。
まともに動けない今、戦闘は不可能。式神使いだと言っても、優輝自身が万全ではないため、式神も全力を出す事が出来ない。
それを踏まえて考えなければならないため、険しい顔を浮かべてしまう。
気持ちを落ち着かせるため、雲が立ち込める空を見上げた。
「…………大丈夫、あの二人の事だ。絶対に、大丈夫」
先程の小屋の中を思い出し、自分に大丈夫だと言い聞かせる。
それでも、何か"大丈夫"だと思えるような証拠がないか記憶の中を探った。
だが、優輝自身、実際に会うまで安心は出来ない。
いくらここで考えても意味はない。
荒い息は何とか整い始めたため、ふらつく体を再度立ち上がらせようとした。
だが、その動きは、微かに漂ってきた邪悪な気配によって止まる。
せっかく整ってきた息が荒くなり、気づかれてはいけないと手で口を塞ぐ。
何処からこの気配が流れてきているのか、木から顔を覗かせ確認しようと視線をさ迷わせる。
「っ、!」
気配を消し見回していると、木が立ち並ぶ隙間から、小屋で優輝を襲った男性を見つけることが出来た。
グルルルッと唸り、口からは涎を垂らし歩いている男性。普通の人ではないことはそれだけでわかる。
横に垂らしている手も、人間とは思えない程爪が鋭く尖っている。
まずい、ここで見つかれば終わり。
気配をできるだけ消し、狗神が去るのを待たなければ。
顔を至る所に向け何かを探しているような様子を見せているため、見つかっていないとわかる。
このまま欺くことが出来れば…………そう思ったが、気配を研ぎ澄ましたことにより、優輝は狗神とはまた違う気配を感じ取ってしまい、思わず狼狽えた。
「…………銀籠さん?」
思わず森の奥を見つめ名前を呼んでしまった。
その声は狗神にも届き、ニヤァと口角を上げ優輝が隠れている木へと顔をグリンと向ける。
「っ、しまった!」
すぐに送り狼に跨り逃げようとしたが、狗神は振りかざした手から黒い霧を放つ。
それは黒い刃となり、二人に襲いかかり送り狼を切り裂いた。
ちぎられたお札を目にし、優輝は新たな式神を出そうといつものように鞄に手を伸ばそうとした――が……。
「っ、銀籠さんに会う時は必ず荷物は最低限にしていたから、送り狼しか持ってきていないんだった……」
どうするか悩んでいると、上から影が差す。
見上げると、舌を出し愉快そうに見下ろしてくる狗神の顔。
動くことが出来なくなってしまった優輝を嘲笑うかのように、狗神は口角を上げ、カタカタと体を震わせている優輝を見下ろした。
いつもは多彩な式神を使い、すぐにあやかし達を倒してきていた優輝。だが、今は何も持ってはない。
鋭く光る手が優輝の視界に映るが何も出来ない、体が動かない。
――――――――ここで死ぬのか
優輝は自身の死を覚悟し、ソッと目を閉じた。
刹那、耳に女性の声が入り、同時に体が浮遊感に襲われた。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる