人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
43 / 48
一陽来復

「陰陽寮で住むという事か?」

 狗神の件が片付き、銀籠が素直に気持ちを伝えてからというものの、今だ優輝は距離感に悩んでいた。

「…………優輝よ、今までの距離感はどうした?」
「いえ、お気になさらず。少々心が荒ぶっているだけなので」

 優輝はいつものように森へ来て、銀籠も出迎え今は話しているのだが、何故か距離感がおかしい。

 いつもは隣同士の木に背中を預け話しているのだが、今は違う。
 二人の間に木が三本挟まっており、初めて会った時くらいの距離が開いていた。

 銀籠はなぜここまで距離が離れているのかわからず問いかけるが、優輝の返答は曖昧なもの。
 何故心が荒ぶっているのか、なんで敬語なのか。

 じぃっと優輝を見つめ問いただそうとするも、顔を逸らされている為目すら合わせることが出来ない。
 彼の態度にぷぅと頬を膨らませ、銀籠は子供のようにいじけてしまった。

「我と話すのが嫌なのだな、優輝」
「え、そそそそそ、そんなことあるわけないじゃん!! 話したいよ声を聞きたい触れたい抱きしめたいよ!」
「なら、何故そんなに離れているのだ。優輝なら問題なく話せるのだぞ、近づくことだって出来る。我だって、優輝に触れたいぞ……」
「っ! …………ワカッタ」

 ゆっくりと近づき、木に背中を預けている銀籠の隣まで移動。
 ピタッと止まると、突如両手で顔を抑えた。

「幸せだぁぁぁぁああ」
「今までと何も変わらんがな。それどころか距離が離れているがな」

 いつもの距離に戻り、優輝は幸せを嚙みしめている。
 銀籠は口元を引き攣らせているが、幸せなのは同じ。口元に手を当てくすくすと笑った。

「まったく、そこまで嬉しいか。我は、そんな大したあやかしではないぞ」
「そう思っているのは銀籠さんだけだよ。銀籠さんは容姿端麗、真面目で優しく、儚く美しい。他にも色々素敵な所はあるけど、聞く?」
「いや、大丈夫だ」
「照れている銀籠さんも可愛くて、いじめたいなぁと思う」
「いじめっ!?」
「あっ」

 サッと後ろに下がってしまった銀籠に、しまったと思い優輝は「嘘だよ嘘!」と慌てて弁明。
 だが、銀籠は眉間に皺を寄せムムムッと、疑いの目を向ける。

「い、嫌な事はしないよ。ちょっと、照れた顔が見たいなぁ、とか。俺が銀籠さんを慌てさせているなぁ、とか。俺が何かすると、銀籠さんが反応してくれるのが嬉しくて、可愛くて。だから、えっと…………。いじめたいというのは、酷い事をしたいとかではなく、自分を見てくれている銀籠さんを堪能したいという気持ちの裏返しというか……」

 照れながらも本心を伝えてくれる優輝に、銀籠もつられて赤くなる。
 ここまで素直に言われてしまうと怒るに怒れず、でも何か言ってやらないと気が済まない気持ちもあり、赤い顔を片手で隠しつつも口を開いた。

「え、えっと……。我は、もうそなたのものだぞ? それはいつでも堪能できる。だから、そんな今意識しなくても……ん? 優輝?」

 必死に銀籠が伝えていると、優輝は体を固まらせ変な顔を浮かべた。

「………………………………銀籠さん、それ、天然?」
「ん? よくわからんが、気持ちをそのまま伝えているだけだぞ」
「…………誰か助けて、俺の恋人が俺を煽ってくる。可愛い、可愛いよ。煽らないで」

 優輝がまたしても顔を隠し何かを言っている。
 何が起きたんだろうと首を傾げている銀籠は、優輝が落ち着くのを待つしかできない。

 そんな時、燦々と上から白い何かが降ってきた。

「あっ、優輝」
「ん? 何?」
「雪だ。今回のは積もるかもしれぬぞ」
「あ、本当だね」

 上を向くと、白い空から雪が降ってきた。
 白く輝いている雪は、銀籠の手に触れるとすぐに解けなくなった。

「――――ねぇ、銀籠さん」
「ん? なんだ?」
「銀籠さん、まだ俺以外の人は怖い?」

 白い息を吐きながら、優輝は真っすぐ彼を見て問いかけた。
 息を飲み、目線を逸らしむむむっと銀籠は考える。

「…………あぁ、さすがに優輝以外の人間はまだ怖い。狗神の時は、必死だったため夕凪に触れる事が出来たが、改めて触れろと言われると、わからぬ」
「そうだよね、ごめん。いきなりそんな事を聞いて。責めている訳じゃないんだ。人が怖いって気持ちも、今後少しずつ克服できればいいと思っているだけ」
「それなら、何故今聞いて来たのだ?」
「これから、森で暮すには大変になるでしょ? 食料も手に入れにくくなるし、寒い。小屋も、今は狗神の件でぼろぼろだから、軽く修繕したとしても隙間風で体が冷えるでしょ? だから、もし銀籠さんが良かったら九重家に来ないかなって思って…………」
「…………っ、え? つまり、我達が九重家の陰陽寮で住むという事か?」
「そういう事」

 優輝がそんなことを言うなんて信じられないと、目を大きく開き唖然。

 優輝と共に過ごせるのなら願ったり叶ったり。人が沢山居る陰陽寮に行くのは怖いが、優輝がいれば問題はない。
 そんな気持ちが銀籠の中には存在する。

 だが、気持ちだけで行動してはいけない。

 今はもう付き合っているとはいえ、二人の関係はあやかしと陰陽師。
 しかも、男性同士。世間体が悪すぎる。

 周りの目が刺さるのは銀籠ではなく、陰陽寮に入っている優輝の方だ。

 優輝はこれから九重家の当主になるとも決めている。
 気持ちばかりを優先して、安易に決めてはならない。

 それを伝え、断ろうと銀籠は眉を下げ口を開いたが、それより先に優輝が口を開いてしまい何も伝える事が出来なかった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

恋をあきらめた美人上司、年下部下に“推し”認定されて逃げ場がない~「主任が笑うと、世界が綺麗になるんです」…やめて、好きになっちゃうから!

中岡 始
BL
30歳、広告代理店の主任・安藤理玖。 仕事は真面目に、私生活は質素に。美人系と言われても、恋愛はもう卒業した。 ──そう、あの過去の失恋以来、自分の心は二度と動かないと決めていた。 そんな理玖の前に現れたのは、地方支社から異動してきた新入部下、中村大樹(25)。 高身長、高スペック、爽やかイケメン……だけど妙に距離が近い。 「主任って、本当に綺麗ですね」 「僕だけが気づいてるって、ちょっと嬉しいんです」 冗談でしょ。部下だし、年下だし── なのに、毎日まっすぐに“推し活”みたいな視線で見つめられて、 いつの間にか平穏だったはずの心がざわつきはじめる。 手が触れたとき、雨の日の相合い傘、 ふと見せる優しい笑顔── 「安藤主任が笑ってくれれば、それでいいんです」 「でも…もし、少しでも僕を見てくれるなら──もっと、近づきたい」 これは恋?それともただの憧れ? 諦めたはずの心が、また熱を持ちはじめる。

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。