魔王自ら勇者を育成してやろう!

フオツグ

文字の大きさ
29 / 56
第二部 冒険者になってやろう!

第二十八話 冒険者の登録をしてやろう!

しおりを挟む
 国を出て初めて、大きな町に到着した。
 我が輩達は早速、冒険者ギルドとやらに入った。
 冒険者の登録に必要な書類を書き、ギルドの受付係に提出を終え、審査が終わるまで暫く待たされた。
 その間、コレールはちらちらと受付のカウンターを見たり、周囲をうろうろしたり、落ち着かない様子だった。
 暫くして、我が輩達は受付係に呼び出された。

「ウィナ様、コレール・ムート様、ボースハイト様、グロル様。審査が終わりました。冒険者ライセンスを発行致します」

 受付係の言葉に、コレールは目をぱちくりさせた。

「本当に、本名で登録、出来た……」
「だから言っただろう。何とかしてやる、と」

 我が輩は信じてなかったのか、と少し呆れた。

「ま、魔法って、便利なんだな」
「知らなかったのか? 便利だからもっと使うが良い」

 冒険者の登録をする際、我が輩は受付係や審査員に魔法をかけた。
 認識を少しずらす魔法《認識阻害》だ。
 それだけで人間は簡単に騙される。
 現に、冒険者ギルドの受付係や審査員は、我が輩達の討伐依頼が出されていることを認識出来なかった。
 彼女らは我が輩達を「討伐依頼が出されてる人達に似てるような……?」ぐらいにしか認識出来ていないはずだ。

「こ、この魔法があれば、国を出なくて済んだんじゃ……?」
「会う人間、会う人間に《認識阻害》をかけていったらキリがないぞ? お前達は魔力も少ないしな。直ぐに魔力が切れて、バレるのが目に見えている」

 それに、これ以上、勇者学院ブレイヴの中で鍛えるのには、限界があると我が輩は思っていた。
 頼れるものも何もない過酷な旅など、修行にうってつけだ。
 三人は国を出る覚悟を自分で決めた。
 彼らはもっと成長出来ると、我が輩は確信している。

「こちらが冒険者ライセンスです」

 受付係が少し固い、小さめのカードを一人一人に提示した。
『ウィナ』と名前が彫られているカードが、我が輩の冒険者ライセンスらしい。
 名前の横に、少し崩した字で『F』と彫られている。

「冒険者ランクはFランクからスタートになります」
「冒険者ランク?」
「冒険者ランクは、冒険者としての熟練度を現しています。依頼をこなしていけば、冒険者ランクが上がりますよ」
「勇者学院を卒業していると、Dランクからスタート出来ます。ですが、皆様は卒業する前に学院を出たので、Fランクからですな」

 バレットがそう付け加える。

「そういえば、バレットは冒険者の登録をしなかったな」
「教員免許を取るのに、冒険者ランクが必要でしてな。登録は既にしてあるのです」

 バレットは自身の冒険者ライセンスを我が輩達に見せた。
 バレットの名前の横には、『C』と彫られている。
 いつの間に冒険者ランクをCランクにしていたのだ……。
 我が輩の世話で、冒険者なぞしてる暇はなかったはずだが。
 報告、連絡、相談くらいはちゃんとしてくれ。

「Cランクということは上から三番目の冒険者ランクなんだな」
「いえ、Aランクの上にSランク、SSランク、SSSランクがありますな」
「なんでAの次がSなのだ?」
「それは……何故でしょうな? 冒険者ギルドのお偉いさんに聞いて欲しいですな」

 偉い人間か……。
 人間の王をしているラウネンなら知ってるだろうか。 
 そう思いつつ、我が輩は自分の冒険者ライセンスを懐に入れた。
 他の三人も冒険者ライセンスを受け取り、服の中や、鞄の中に入れる。

「さ、早速、依頼を、受けに行こうか」

 コレールは大きな掲示板を指差した。
 横に『依頼書掲示板』という看板がかけられている。
 冒険者は依頼を受けて、依頼をこなしたら、報酬を受け取れる仕組みだ。
 掲示板に張り出されている依頼書を見て、自分に合った依頼を受けるらしい。
 我が輩は掲示板に近づいて、依頼書を吟味する。
 魔物の討伐依頼だけでなく、薬草採取や町の外での探し物、配達の依頼もある。
 無論、我が輩が受けるのは魔物の討伐依頼だ。

「お。トレントの討伐依頼があるぞ。今の貴様らなら楽に倒せる。肩慣らしには丁度良い。これを受けよう」
「あっ。すみません。説明を忘れていました」

 受付係が我が輩達に慌てて近づいてきた。

「規定として、冒険者ランク以下のランクの依頼しか受けられないことになっています。トレントの討伐依頼はDランクですので、受けられません」
「バレットはCランクだぞ」
「パーティの半数がDランク以上なら受けられるのですが……」

 Cランク一人に対して、Fランクが四人。
 面倒を見きれないということだろう。

「Fランクは依頼を五十件クリアすればランクが上がりますから、頑張って下さい」
「五十件!?」

 面倒だ。
 いや、魔物の討伐なら五十件など余裕だ。
 だが、トレント以下の魔物が相手だとやり応えがない。

「Fランクの依頼からコツコツやるしかありませんね」

 グロルがため息をついて、一枚の依頼書を手に取る。
 その依頼は薬草採取の依頼だった。

「まずは、薬草採取の依頼から始めましょう」
「我が輩は魔物討伐依頼を受けたい」
「Fランクの依頼に魔物討伐はないみたいですよ」
「………………」

 冒険者になんて、ならなければ良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...