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つかさの家4
「ニュースで言ってたあなたのお父様が主犯って言うのは嘘ね?」
「……はい。私のお父さんは私が生まれる前に死んじゃってます……」
「あなたのお母様は?」
「…………」
星は少しの沈黙の後、表情を曇らせながら小さな声で答えた。
「……あの事件の時に飛行機事故に遭って行方不明です……」
「……そう」
つかさの母親は表情を曇らせながら頷くと、椅子に座ったまま俯く星の体をゆっくりと抱きしめる。
「――こんなに小さな子に事件の責任を全部押し付けるなんて社会は酷いわね……」
星は抱きしめられながら色々なことがフラッシュバックしていた。事件後に見たニュース、前の学校での出来事、コンビニの帰り道での出来事、そして今も昏睡状態の人々。
全てが頭の中をぐるぐると回り、胸を締め付ける贖罪の気持ち――。
「……いえ、悪いのは全部私なんです……私がもっと頑張ってれば……私が間違わなければ……こんな事にならなくてよかったんです……だから、私が全部悪くて当然なんです……」
ゲーム内で託されたエクスカリバーを使いこなせなかった自分に、星は負い目を感じていた。
もしもエミルがエクスカリバーを持っていたら、一人の犠牲者も出さずに終わっていたと星は本気で思っていた。
だからこそ、星は自分が非難されることが当然であり、聖剣を手にしていた自分が頑張ってさえいれば犠牲者は出なかったと、そう思っていたのだ。
「――星ちゃんは自分が嫌いなのね……でも、人も大事だけど自分も大事にしなくちゃ駄目よ? いつか自分を好きになれる日が来る。その時まで生きてないと勿体ないわ……今の家で、もしも居心地が悪いなら家に来なさい。つかさもいるし、娘が増えるのは大歓迎よ」
「いえ、私は……」
抱きしめられていた星が顔を上げて彼女の顔を見上げると、星の頭を手で優しく自分の胸に引き寄せる。
「大丈夫。自分で選べばいいのよ? 私は逃げ道を用意してあげる事しかできないわ。でも、自分ではどうしようもない時は私の所に来なさい。あまり我慢しては駄目――身体の傷は時間が経てば治るけど、心の傷は時間が癒やしてくれないから……嫌な事があったらまたいらっしゃい。またこうして抱きしめてあげるわ」
「……はい。なら、またお願いします……」
星は抱きしめられながら安心したように瞼を閉じていると、つかさの母親が優しく星の頭を撫でた。
自分の理想の母親とつかさの母親を重ね、星は瞼を閉じながら彼女が本当の母親なら……そう考えてしまう。だが、それが現実にはあり得ないことだということも理解していた。
何故なら、いくら相手が星を養子にしたいと言ってくれても、つかさや兄達からしたら余所者が勝手に家に入ってきただけでいずれ毛嫌いされるに決まっていることを星は知っている。
自分の母親とも同じ家に住んでいながらも会話がなかった。学校でもひとりぼっちで本ばかり読んでいた星が人と良好な関係を築けるはずがない。しかも、つかさの家は男性が多い……エミルとはゲーム内で二ヶ月にわたって生活を共にしてきた事実がある。そしてその事実があっても、今はその延長でしかなく、共働きで両親が家に帰って来ないからまだ家を追い出されてないだけでしかない。
きっと毎日顔を合わせるうちに、周りは自分に嫌気がさされるに違いない。そう思ってしまうほど、星は自分という存在に自信がないのだ――。
幸せな時間はとても儚く、ガラス細工のように一瞬で砕けてしまうものだから…………。
「ありがとうございました」
抱きしめられていた星は、つかさの母親の体をそっと押して離れると、周囲を見渡して笑顔で言った。
「すごく可愛い服がたくさんありますね。私もなにか着てみたい――も、もちろん。良ければですが……」
これは普段なら絶対に言わない言葉だ。しかし、さっきの話を聞いて自分がここに連れて来られた理由を悟った。
そして友達の母親ということもあるが、優しくされたお礼がしたいという思いもあった。だが、自分には返せる物がない。だから自分の体くらいしか星には思いつかなかった。
それを聞いたつかさの母親は嬉しそうに頷くと。
「もちろんよ! なんでも着ていいわ。いえ、むしろ着て頂戴!」
食い気味でくるつかさの母親に、つかさの性格は母親譲りであると感じた。
それからは、様々な服を取っ替え引っ替え着せられては写真を撮られるという苦行を強いられたが、つかさの母親が嬉しそうだったので星はそれでいいと思った。
結局、星が家に帰ったのはすっかり日が落ちてからだった。
犬神家の執事、犬使の運転する車に乗り込んだ星に見送りにきたつかさがつまらなそうに口を尖らせ。
「結局星と遊べなかったなぁー。また、遊びに来た時は泊まりに来てね! 絶対だよ!」
車の窓に手を掛けながらそう言ったつかさ。
「うん。次は泊まりにこれるようにお姉様にお願いしてみます」
「あのお姉ちゃんだといつになるか分からないなぁ……あの人、星にべったりだもん。僕が泊まりに行った方が早そう」
「あはは……」
しょんぼりと項垂れるつかさに苦笑いしながら星が言った。
「なら、つかさちゃんがまた泊まりに来てください。待ってますから」
「行く! 今日から毎日泊まりに行く!」
「私の家から毎日学校に通うつもりですか?」
「うーん。それもいいかも?」
「困ります。つかさちゃんが家に住んだら、毎日徹夜でゲームして寝不足になってしまうので、学校がお休みの日にして下さい」
「はーい。分かりました星先生……」
そう言ってお互いにくすくすと笑う2人。
そして互いに顔を見合わせるて軽く手を振ると。
「また明日学校でね」
「はい。また明日学校で」
笑顔でそう言って2人は別れた。
帰りの車の中で星は嬉しそうにカバンを握りしめて思い出し笑いをする。
(明日また学校で……か。私がそんな事を言える日が来るなんて思わなかった。いつも他の子達が言ってたのを遠くから見てるだけだったのに……学校って楽しいなぁ。早く明日にならないかな)
カバンを握りしめながら星は心の中でそう願っていた。
「……はい。私のお父さんは私が生まれる前に死んじゃってます……」
「あなたのお母様は?」
「…………」
星は少しの沈黙の後、表情を曇らせながら小さな声で答えた。
「……あの事件の時に飛行機事故に遭って行方不明です……」
「……そう」
つかさの母親は表情を曇らせながら頷くと、椅子に座ったまま俯く星の体をゆっくりと抱きしめる。
「――こんなに小さな子に事件の責任を全部押し付けるなんて社会は酷いわね……」
星は抱きしめられながら色々なことがフラッシュバックしていた。事件後に見たニュース、前の学校での出来事、コンビニの帰り道での出来事、そして今も昏睡状態の人々。
全てが頭の中をぐるぐると回り、胸を締め付ける贖罪の気持ち――。
「……いえ、悪いのは全部私なんです……私がもっと頑張ってれば……私が間違わなければ……こんな事にならなくてよかったんです……だから、私が全部悪くて当然なんです……」
ゲーム内で託されたエクスカリバーを使いこなせなかった自分に、星は負い目を感じていた。
もしもエミルがエクスカリバーを持っていたら、一人の犠牲者も出さずに終わっていたと星は本気で思っていた。
だからこそ、星は自分が非難されることが当然であり、聖剣を手にしていた自分が頑張ってさえいれば犠牲者は出なかったと、そう思っていたのだ。
「――星ちゃんは自分が嫌いなのね……でも、人も大事だけど自分も大事にしなくちゃ駄目よ? いつか自分を好きになれる日が来る。その時まで生きてないと勿体ないわ……今の家で、もしも居心地が悪いなら家に来なさい。つかさもいるし、娘が増えるのは大歓迎よ」
「いえ、私は……」
抱きしめられていた星が顔を上げて彼女の顔を見上げると、星の頭を手で優しく自分の胸に引き寄せる。
「大丈夫。自分で選べばいいのよ? 私は逃げ道を用意してあげる事しかできないわ。でも、自分ではどうしようもない時は私の所に来なさい。あまり我慢しては駄目――身体の傷は時間が経てば治るけど、心の傷は時間が癒やしてくれないから……嫌な事があったらまたいらっしゃい。またこうして抱きしめてあげるわ」
「……はい。なら、またお願いします……」
星は抱きしめられながら安心したように瞼を閉じていると、つかさの母親が優しく星の頭を撫でた。
自分の理想の母親とつかさの母親を重ね、星は瞼を閉じながら彼女が本当の母親なら……そう考えてしまう。だが、それが現実にはあり得ないことだということも理解していた。
何故なら、いくら相手が星を養子にしたいと言ってくれても、つかさや兄達からしたら余所者が勝手に家に入ってきただけでいずれ毛嫌いされるに決まっていることを星は知っている。
自分の母親とも同じ家に住んでいながらも会話がなかった。学校でもひとりぼっちで本ばかり読んでいた星が人と良好な関係を築けるはずがない。しかも、つかさの家は男性が多い……エミルとはゲーム内で二ヶ月にわたって生活を共にしてきた事実がある。そしてその事実があっても、今はその延長でしかなく、共働きで両親が家に帰って来ないからまだ家を追い出されてないだけでしかない。
きっと毎日顔を合わせるうちに、周りは自分に嫌気がさされるに違いない。そう思ってしまうほど、星は自分という存在に自信がないのだ――。
幸せな時間はとても儚く、ガラス細工のように一瞬で砕けてしまうものだから…………。
「ありがとうございました」
抱きしめられていた星は、つかさの母親の体をそっと押して離れると、周囲を見渡して笑顔で言った。
「すごく可愛い服がたくさんありますね。私もなにか着てみたい――も、もちろん。良ければですが……」
これは普段なら絶対に言わない言葉だ。しかし、さっきの話を聞いて自分がここに連れて来られた理由を悟った。
そして友達の母親ということもあるが、優しくされたお礼がしたいという思いもあった。だが、自分には返せる物がない。だから自分の体くらいしか星には思いつかなかった。
それを聞いたつかさの母親は嬉しそうに頷くと。
「もちろんよ! なんでも着ていいわ。いえ、むしろ着て頂戴!」
食い気味でくるつかさの母親に、つかさの性格は母親譲りであると感じた。
それからは、様々な服を取っ替え引っ替え着せられては写真を撮られるという苦行を強いられたが、つかさの母親が嬉しそうだったので星はそれでいいと思った。
結局、星が家に帰ったのはすっかり日が落ちてからだった。
犬神家の執事、犬使の運転する車に乗り込んだ星に見送りにきたつかさがつまらなそうに口を尖らせ。
「結局星と遊べなかったなぁー。また、遊びに来た時は泊まりに来てね! 絶対だよ!」
車の窓に手を掛けながらそう言ったつかさ。
「うん。次は泊まりにこれるようにお姉様にお願いしてみます」
「あのお姉ちゃんだといつになるか分からないなぁ……あの人、星にべったりだもん。僕が泊まりに行った方が早そう」
「あはは……」
しょんぼりと項垂れるつかさに苦笑いしながら星が言った。
「なら、つかさちゃんがまた泊まりに来てください。待ってますから」
「行く! 今日から毎日泊まりに行く!」
「私の家から毎日学校に通うつもりですか?」
「うーん。それもいいかも?」
「困ります。つかさちゃんが家に住んだら、毎日徹夜でゲームして寝不足になってしまうので、学校がお休みの日にして下さい」
「はーい。分かりました星先生……」
そう言ってお互いにくすくすと笑う2人。
そして互いに顔を見合わせるて軽く手を振ると。
「また明日学校でね」
「はい。また明日学校で」
笑顔でそう言って2人は別れた。
帰りの車の中で星は嬉しそうにカバンを握りしめて思い出し笑いをする。
(明日また学校で……か。私がそんな事を言える日が来るなんて思わなかった。いつも他の子達が言ってたのを遠くから見てるだけだったのに……学校って楽しいなぁ。早く明日にならないかな)
カバンを握りしめながら星は心の中でそう願っていた。
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