オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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初めてのVRMMO5

 エミルが剣を抜いたのを見て、このゲームに初めて来た時のことを思い出した星は少し身構えた。

「大丈夫。別にこの剣で星ちゃんを攻撃しようなんて思っていないわ。ただ、ちょっと見ててもらいたいの」
「……は、はい」

 星が返事をして頷いたのを確認すると、優しかった彼女の目付きが鋭いものに変わり、近くを歩いていたラットの前に出て剣を構える。

 近くにきた星にラットが気付いて姿勢を低くすると、警戒態勢に入った。

「スイフト!」

 エミルが叫ぶと一瞬だけ体が青く光る。

 すると、彼女が風のように星の前を横切ったかと思うと、次の瞬間には彼女はもうラットの前にいた。

「はああああああっ!!」

 即座に目の前のラットに向かって剣を振り下ろす。その直後、攻撃を受けたラットのHPは一瞬で『0』になった。

 しかし、彼女の攻撃の手が止むことはなく。一瞬の刹那に、素早く数太刀をラットの体に叩き込む。次から次へと攻撃を繰り出すその姿は、まるで舞でも踊っているかのようだ――。

 エミルの激しい攻撃が終わり、ラットの体には無数の切り傷を受けた状態で横たわった上に【OVER KILL】と表示され。直後、ラットの体はキラキラとした光りを残してその姿を消した。
 残された光りは吸い込まれるように上空へ舞い上がっていく。

「ふぅー。8連撃か……私も鈍ったなぁー」

 エミルはそう小さく呟くと、持っていた剣を鞘に収めた。

 無言の星はラットのいた場所にゆっくりと近付いていくと、俯いたまま小さな声で「あんなに攻撃する事ないのに……」と呟き、眉間にしわを寄せながら怒った表情でエミルの方を向いた。

「エミルさんひどいです! あんなに攻撃しなくてもいいじゃないですか!!」

 星はそう叫ぶと、瞳を潤ませながらエミルの顔をじっと見つめた。だが、その言葉を聞いたエミルは驚いて目を丸くしている。

 それもそのはずだ。長年ゲームをしてきたが、今まで一度もモンスターがかわいそうなどと言われたことなどない。
 敵を攻撃するということは、ゲームをやる上に当たり前のことであり、それがRPGの醍醐味でもあるのだから無理もないだろう。

 しかし、目の前の少女はラットがかわいそうだとと瞳に涙を溜めて怒っている。星が至って真剣にそう感じているのはエミルにも感じ取れる。だが、エミルはどうして自分が、怒られるのかがいまいち理解できないでいた。 

「――いや、ほら星ちゃん。倒したラットは、また復活するから大丈夫なのよ?」

 エミルは星のその反応に動揺しながらも、慌てた様子で辺りを見渡し何かを見つけたのか、エミルはほっとして遠くの方を指差す。
 そこにはさっき倒したはずのラットが光りとともに再び現れ、何事もなかったかのように歩いている。だが、それを見てもまだ、星の表情は暗いままだ――その理由は……。

「でも……あの子も痛かったんじゃないんですか?」
「ううん。大丈夫、その心配は要らないわ。モンスターは痛みなんて感じないから! それに、モンスターはデータの集合体。だから痛みもなければ、何度でも蘇るの。そういう仕様なのよ」

 もちろん。エミルの言ったことはなんの根拠もなく、取って付けたようなでまかせでしかない。
 痛みを感じているかという点は謎だが、モンスターでもダメージを受ければ怯んだり。攻撃パターンが変わったりする仕様になっているのは事実。それは裏を返せば痛みを受けているようにも見えるということである。

 しかし、初心者の星はそれを知る由もない。エミルの言葉を鵜呑みにした星は、ほっと胸を撫で下ろして「なるほどー」と相槌を打つ。
 まあ、エミルの説明が難しかったということも、それ以上追及できない原因の一つではあるだろう。

 だとしても。先程目の前に倒されたはずのラットが蘇ったところを見ると、この世界では敵は再び蘇るということは、子供の星にも理解できた。

「とりあえず。私は剣士が長いから、今更、他の武器はしっくりこないのだけど……剣の他にも弓、ガントレット、後ボディービルダー専用装備でダンベルやバーベルなんていう変わり種もあるわね~」
「なるほどー」

 彼女の発言に合わせて、再び星が相槌を打つ。

「どれを選ぶかは星ちゃん次第だけど……星ちゃんは背も小さいし、まだ初心者でステータスも低くて筋力がそれほど高くないから、比較的軽い弓か剣がいいかな~」
「そうなんですか? でも、物を持ってもそんなに重くないというか、重さを感じないというか……」

 星はそう小さな声で呟くと、不思議そうに首を傾げた。

 その問いに、エミルは迷うことなく即座に返答をした。

「ああ、それはゲームの筋力補正機能が働いてるからよ。でも、それを超える重さの物を持つと、一気に重量がくるから気を付けるのよ?」
「なるほどー」

 またも星がそう相槌を打つと、エミルが突然くすくすと笑い出した。

 急に笑い出すエミルに、星は不思議そうに小首を傾げる。

「ふふっ、ごめんなさい。さっきから、なるほどー。ばっかりだと思って」
「あっ……ごめんなさい」

 それを聞いた途端にしゅんとする星の姿に、エミルが慌てて手を振った。
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