異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

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山越えて山

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「何と、戦闘行為なく悪魔を従えるとは」

 目の前で起きたことを信じられないというように言葉を漏らしたリヴィエール。
 その隣でエヴァンシル王も頷いていた。

「ああ、これは本当に現実なのか」

 そんな話をしている一同に振り返り倉野は声をかける。

「終わりました。後はこのアスタロトに状況を説明してメディーナと契約してもらうだけですね」
「契約?」

 倉野の言葉を聞いたアスタロトは首を傾げた。当然アスタロトは自分がこれから何をするのか知らない。当然の疑問だろう。
 アスタロトの問いに答える倉野。

「今から、ある女性と契約してもらいます」
「私が、人間と? このアスタロトが?」

 イスベルグが倉野の内側に引っ込んだのをいいことにアスタロトは不満そうな表情で聞き返した。
 すると体の中で聞いていたイスベルグが威圧感だけを放出する。
 それを感じたアスタロトは体を萎縮させた。

「ひいっ、何でもありません。ワン」

 話を受け入れる状態になったアスタロトに倉野は状況を説明する。
 メディーナという女性が魔力腐敗という病に罹っているということ。それを直すには魔力を入れ替えるしかない。そのためには人間ではない種族で高レベルの魔力、技術、知能を持った存在が体の中に入り込み魔力を交換する必要がある。
 説明を聞いたアスタロトは諦めがついたのか、なるほどと話を聞いていた。

「魔力腐敗・・・・・・聞いたことはないが、人間とは脆弱な生き物。千年前も空気を消し去っただけで死に至ったものだ」

 アスタロトの言葉を聞いたリヴィエールは納得したように頷く。
 オランディ物語にあったアスタロトに関する一文。
 アスタロトの吐く息は草木を枯らし大地を腐らせ、人を死に至らしめたという話は空気を消し去った事が原因だろうと気づいたのである。
 リヴィエールの気づきと並行してアスタロトは話を続けた。

「つまり私がそのメディーナという娘と契約し体の内側から魔力をコントロールするという話か。娘の体質に合うように魔力の質を変えればいいのならば簡単だろう。それがイスベルグ様の命令ならば私は従う。だが、人間の寿命とは儚く短いものだ。それを変えることはできないと言っておく」
「それでもいいです。人並みの人生を歩めるのなら、フォルテと同じ時間を刻めるのなら」

 倉野はアスタロトにそう答える。
 拳と剣を交えたからこそ、倉野はフォルテに対して特別な感情を抱いていた。
 仲間や敵という言葉では言い表せない感情である。お互いに自分の正義のためにぶつかり合った者同士の絆とでも言うのだろうか。
 こうして事態は収束へと向かう。
 エヴァンシル王は優しく微笑み、リヴィエールも穏やかな表情で頷く。ノエルは緊張状態から解放された安心感で表情を緩め、倉野もよかったと胸を撫で下ろしていた。
 そう、これでこの物語の山場は終わったと思っていたのだ。

「エヴァンシル王様! 緊急事態です!」

 再び一同に緊張を与える声が階段の上から響く。
 
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