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連載
貴族ミュー・バランコリックの矛盾
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倉野の言葉を聞いた男の子たちは急に出て来た大人の存在に驚き、一歩下がった。けれど、その耳も心にも倉野の思いは伝わっていない。
男の子の一人が警戒しながらも言い返す。
「だ、誰だよお前。関係ないだろ、どっか行けよ」
「行かないよ。君たちがこの子をいじめるのなら、僕はここを離れるわけにはいかない。そのぬいぐるみをこの子に返して謝ってくれるまでね」
優しい口調で倉野は男の子たちにそう話した。しかし、男の子たちは納得がいかないという表情のまま、ぬいぐるみを地面に投げ捨てる。そこでようやく兎を模したぬいぐるみだとわかった倉野。
咄嗟のことで動けなかった倉野に男の子が言葉を吐き捨てた。
「こ、こんなモンいらねぇよ!」
地面に叩きつけられたぬいぐるみを悲しそうな目で眺める女の子。憤りを感じた倉野は少しだけ険しい表情を浮かべて男の子たちに話しかける。
「なんてことするんだ」
倉野の視線に怯んだ男の子たちはそのまま逃げるように立ち去って行った。
「くそっ、大人が出てくんなよ」
「お父様に言いつけてやるからな」
「おい、さっさと行こうぜ」
そう言いながら去っていく、小さな三つの背中にため息を吐きながら倉野は女の子のぬいぐるみを拾い上げる。
ぬいぐるみについた汚れを優しく払ってから女の子に手渡した倉野。
「はい、どうぞ」
「あの、ありが、ありがとうございます」
「大丈夫だったかい?」
倉野が問いかけると女の子は悲しげな表情で顔を伏せた。そしてその小さな唇で悲しい言葉を漏らしたのである。
「私が・・・・・・私がお父さんの子どもだから・・・・・・」
何を言っているのか分からずに倉野が首を傾げていると背後からリオネとレイチェルが追いついて来た。
追いつくとレイチェルが女の子に柔らかな口調で話しかける。
「バランコリック家のミューさんですね?」
すると女の子は自分を知っていることに驚きながらも小さく頷いた。
レイチェルの言葉に反応し倉野が聞き返す。
「この子を知っているんですか、レイチェルさん」
「はい、この子はミュー・バランコリック。バランコリック準男爵家の長女ですわ。確か、もう少し先にバランコリック邸があるはずですよ」
「あれ、でもさっきの男の子たちは・・・・・・」
倉野はそこまで口にしてから言葉を止めた。けれどレイチェルとリオネにはその先の言葉は伝わっている。
そう、先ほどの男の子たちはミューに対して卑しい身分、卑しい血、庶民街へ帰れと言っていた。貴族ではない子をいじめているのかと思っていたが、よく考えれば庶民街から貴族街に紛れ込めるわけもない。
その矛盾を問いかけようとしていた倉野だったが、ミューを傷つけないために言葉を止めたのだった。
それを理解したレイチェルは優しくミューを撫でながら、話しかける。
「私はレイチェル・グランダーと申します。こちらのお二人にミューさんのことをお話ししてもよろしいでしょうか。私もこちらのお二人もミューさんの味方ですから、大丈夫ですよ」
するとミューは少し心配そうな表情を浮かべてから聞き返した。
「ほんとう?」
「ええ、本当です。先ほどミューさんを守ってくれたでしょう?」
「じゃあ、お友達になってくれる」
「もちろんです。もうお友達ですよ。よろしければ、その子のお名前を聞いても?」
言いながらレイチェルは女の子が大事そうに抱えているぬいぐるみを指差す。
男の子の一人が警戒しながらも言い返す。
「だ、誰だよお前。関係ないだろ、どっか行けよ」
「行かないよ。君たちがこの子をいじめるのなら、僕はここを離れるわけにはいかない。そのぬいぐるみをこの子に返して謝ってくれるまでね」
優しい口調で倉野は男の子たちにそう話した。しかし、男の子たちは納得がいかないという表情のまま、ぬいぐるみを地面に投げ捨てる。そこでようやく兎を模したぬいぐるみだとわかった倉野。
咄嗟のことで動けなかった倉野に男の子が言葉を吐き捨てた。
「こ、こんなモンいらねぇよ!」
地面に叩きつけられたぬいぐるみを悲しそうな目で眺める女の子。憤りを感じた倉野は少しだけ険しい表情を浮かべて男の子たちに話しかける。
「なんてことするんだ」
倉野の視線に怯んだ男の子たちはそのまま逃げるように立ち去って行った。
「くそっ、大人が出てくんなよ」
「お父様に言いつけてやるからな」
「おい、さっさと行こうぜ」
そう言いながら去っていく、小さな三つの背中にため息を吐きながら倉野は女の子のぬいぐるみを拾い上げる。
ぬいぐるみについた汚れを優しく払ってから女の子に手渡した倉野。
「はい、どうぞ」
「あの、ありが、ありがとうございます」
「大丈夫だったかい?」
倉野が問いかけると女の子は悲しげな表情で顔を伏せた。そしてその小さな唇で悲しい言葉を漏らしたのである。
「私が・・・・・・私がお父さんの子どもだから・・・・・・」
何を言っているのか分からずに倉野が首を傾げていると背後からリオネとレイチェルが追いついて来た。
追いつくとレイチェルが女の子に柔らかな口調で話しかける。
「バランコリック家のミューさんですね?」
すると女の子は自分を知っていることに驚きながらも小さく頷いた。
レイチェルの言葉に反応し倉野が聞き返す。
「この子を知っているんですか、レイチェルさん」
「はい、この子はミュー・バランコリック。バランコリック準男爵家の長女ですわ。確か、もう少し先にバランコリック邸があるはずですよ」
「あれ、でもさっきの男の子たちは・・・・・・」
倉野はそこまで口にしてから言葉を止めた。けれどレイチェルとリオネにはその先の言葉は伝わっている。
そう、先ほどの男の子たちはミューに対して卑しい身分、卑しい血、庶民街へ帰れと言っていた。貴族ではない子をいじめているのかと思っていたが、よく考えれば庶民街から貴族街に紛れ込めるわけもない。
その矛盾を問いかけようとしていた倉野だったが、ミューを傷つけないために言葉を止めたのだった。
それを理解したレイチェルは優しくミューを撫でながら、話しかける。
「私はレイチェル・グランダーと申します。こちらのお二人にミューさんのことをお話ししてもよろしいでしょうか。私もこちらのお二人もミューさんの味方ですから、大丈夫ですよ」
するとミューは少し心配そうな表情を浮かべてから聞き返した。
「ほんとう?」
「ええ、本当です。先ほどミューさんを守ってくれたでしょう?」
「じゃあ、お友達になってくれる」
「もちろんです。もうお友達ですよ。よろしければ、その子のお名前を聞いても?」
言いながらレイチェルは女の子が大事そうに抱えているぬいぐるみを指差す。
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