異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

怒りと詐欺師

　その店に並んでいるのは主に野菜や果物だった。どうやら生鮮食品を取り扱っているらしい。
　レイチェルが店主に目的を伝えると奥から干し肉を出してくれた。
　干し肉を受け取った倉野はそろそろスーツを売った金が尽きそうだと気づき焦りながらも言い値を払う。
　買い物を終えた倉野はレイチェルに礼を伝えた。

「ありがとうございます、レイチェルさん。これでしばらくはツクネの食べ物に困ることはありません」
「ふふっ、ツクネちゃんは体の大きさからは想像できないくらいたくさん食べますもんね」
「そういえばそうですね。気がつくといつも干し肉がなくなっているので」
「成長期なのかもしれませんよ？」

　そう言われ、倉野はツクネが生まれたばかりであることを思い出す。これまでの活躍ぶりから生まれたばかりの幼体であることを失念していたのだ。
　それと同時にフェレッタの説明文に違和感を覚える。

「あれ、確かフェレッタって成体になると風を自在に操るんだよな・・・・・・まだ幼体のはずだけど・・・・・・」

　倉野が疑問を小さな声で呟いているとレイチェルが首を傾げた。

「どうされたんですか？」
「あ、いえ、なんでもありません。屋敷に戻りましょうか」

　わざわざいうことでもない、と倉野が話を閉じ歩き出そうとする。
　その瞬間、レイチェルが倉野の服を掴んで歩みを止めさせた。

「ん？　どうしたんですか」
「あの、あちらで何か揉めていらっしゃるようでしたので」

　言いながらレイチェルは前方に見える人だかりを指差す。確かにその中心からは男が叫んでいる声が聞こえた。

「だから詐欺だって言ってんだよ！　元々騙すつもりだったんだろ。ぶち殺してやる！」

　穏やかではない言葉が投げかけられている。
　どうしてこうも揉め事と遭遇するのか、と自分自身に呆れながらも倉野は人だかりに近づこうとした。しかし、今はレイチェルがおり危険なことに巻き込むわけにはいかないと踏みとどまる。
　するとレイチェルは優しく微笑み倉野に語りかけた。

「ここで見過ごせないのがクラノ様でしょう？　だったら自分の本心に従うべきです。私はずっとクラノ様の隣におりますので何かあれば守ってください」

　自分が行動する上で遠慮しないようにレイチェルがそう言ってくれているのだと気づいた倉野は頷き、彼女の手を引く。

「ありがとうございます。絶対に僕が守りますから」

　倉野の言葉を聞いたレイチェルはなぜか頬を赤めながらついていった。
　人だかりをかき分け、中心までたどり着くと男が二人向かい合っている。
　四十代くらいの厳つい風貌をした男と若い長髪の男だ。
　どうやら怒りを叫んでいたのは厳つい男の方らしい。長髪の男はうっすら笑みを浮かべ余裕そうに話を聞いていた。

「何笑ってやがんだ！　金返せよ、クソ野郎！」
「何を言っているんですか？　契約では私の全財産を持って償う、とあったでしょう？　私の全財産はお渡ししたそれで全てですよ。それとも服を全て差し上げましょうか。大した金額にはならないでしょうし、公衆の面前で男を脱がせたという噂はついて回りますけどね」
「くそっ、殺してやる！　そうだ、命だって財産だろうが。それを寄越せ！」
「残念。この国は現在奴隷制度廃止に向けて動いています。その発言は皇帝陛下のお考えを否定するものですよ」

　聞く限りどうやら話は長髪の男優勢で進んでいる。