異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

感情と効率

　オネットはそう問いかけてから、その場にしゃがみ地面に右手を押しつける。
　その行動の意味を察したアルダリンは粗雑に笑みを浮かべた。

「ほっほっほ、泥でも汚名でも被りましょうぞ」

　言いながらアルダリンは懐から幾つかの石を取り出す。うっすらと発光しているところを見ると魔石のようだ。
　アルダリンは魔石をオネットに手渡す。

「これも使ってくださいオネット。コアを作る過程で生まれた失敗作ですが、ある程度の行動ならば指示する事ができます」
「感謝しますよ、アルダリン！　クリエイト・マジック・・・・・・ゴーレム！」

　オネットがそう唱えながら魔石を周辺にばら撒くと、まるで種が芽吹くように地面から大きな土の人形、ゴーレムが湧き出てきた。
　その数は十体。アルダリンの持っていた魔石の数と同じである。
　ゴーレムの大きさは人間の二倍ほどで巨大というほどではなかったが普通の人間に恐怖を与えるには充分だった。
　オネットの魔法で生まれたゴーレムを目の当たりにしたレインは瞬時に思い出す。
　先の戦いでネメシスが使用していた巨大兵器ブレッド。目の前にいるゴーレムとは大きさは違えど構造が酷似していた。
　
「これは・・・・・・ネメシスが使っていた・・・・・・」

　レインが呟くとオネットは不敵な笑みを浮かべる。

「そうです。ネメシスという反国家組織が使用していた兵器と構造自体は全く同じもの。いいですか、帝都での事件はもちろんアンゼロスにも轟いています。国家転覆のために無差別破壊を行うゴーレムの存在を誰もが知っている。もう後戻りはできませんよ、さぁ、ゴーレムたちよ！　全ての人間を都市の外へと追い立てなさい！」

　オネットの言葉通り動き始めるゴーレム。
　周囲の人間たちはゴーレムの姿を見て恐怖を感じ始めていた。

「お、おい。あれってまさか帝都で暴れたっていう・・・・・・」
「嘘だろ、もっと巨大だって話だったぞ」
「でも帝都は一体だろ、こっちは十体もいるんだぞ！　早く逃げろ！」

　手のひらを返すように逃げ始める住民たち。
　オネットの機転によって住民たちの避難を促すことには成功した。
　だが、レインやリオネには懸念が残る。

「これじゃあ、泥を被るのはオネットさんだけじゃないですか」

　リオネがそう語りかけるとオネットは優しく微笑んでこう言葉を返した。

「何か問題でもあるんですか？　物事を決めるのは感情ではなく効率。リオネさんやレインさんが叫んで回るよりも圧倒的に早いでしょう？」
「そうですが・・・・・・」
「しかし、時に感情は効率を上回る。それが人間の強さです。私にできるのはここまで・・・・・・あとはレインさんやリオネさんに駆け回ってもらいますよ」

　ゴーレムの生成に魔力を使いすぎたのだろう、オネットはそう言ってからその場に倒れ込む。

「オネット！」

　彼の体が地面に激突する直前でアルダリンがオネットを支えた。
　そんな姿に心を打たれたレインはリオネに話しかける。

「行こう・・・・・・ゴーレムから住民たちを守る様に見せながら全員を逃すのさ。俺たちは俺たちのできることをしよう・・・・・・感情を身体中に巡らせるんだ」
「はい！」