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王は城に表れる
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「入ってもよろしいですか?」
サウザンドの声だ。
ここはバレンドットの王城の一室で、倉野たちは待機室を借りている状態なのだが、バレンドット側の人間といえども声かけは当然の礼儀だ。
倉野が慌てて「はい」と返事をするとサウザンドが扉を開けて入ってくる。
「謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします。どうぞ、こちらへ」
そう話すサウザンドの背後には兵士が二人立っていた。彼らは王城の前で見た兵士と同じく、黒の軍服に身を包んでいる。
知っていたことだが、サウザンドは若いながら人を従える立場にあるのだと再認識させられる。
倉野たちの話はまだ終わっていなかったが、全てバレンドット前に何度も確認していたことだ。あくまで再確認である。
すぐに全員サウザンドの近くに集まり、その案内に従った。
部屋を出た倉野は改めて王城の内装に目を向ける。
決して貧相というわけではないが、圧倒的に豪華というわけでもない。エスエ帝国にあるグランダー伯爵邸の方が豪華に見える程度の内装だ。
サウザンドは全員の先頭を歩きながらも背後に気を配っていたのか、倉野の視線に気づき声を掛ける。
「王の住まう城にしては・・・・・・とお思いですか?」
「あ、いえ、そんなことは」
自分の気持ちを読まれたのか、と倉野が否定するとサウザンドは喉の奥で小さく笑う。
「いいんですよ。王城とは王を表すものです。ときに権力、ときに武力。そしてこのバレンドット王城では、国王様の意志を表しています」
「国王様の意志、ですか?」
「はい。王城などハリボテでいい。豪奢に飾る余裕があるのならば、国民の生活を豊かにするべきだ、というのが築城当時、国王様から受けた指示だったと聞いています。とはいえ、他国の要人や使者を招くこともありますから、文字通りのハリボテとはいかなかったようですが」
国を想う自慢の国王だ、と言わんばかりに語るサウザンド。そこだけを見れば、国王エクレールに忠誠を誓う騎士にしか見えない。
本当にゼット商会と繋がっているのか。スキル『説明』が情報を表示しないから、と余計な猜疑心を抱いているだけではないのか。
疑惑による想像と目の前にいる男の表情が心を惑わせる。
倉野はわからないことがこれほど不安なものなのだと久しぶりに感じていた。スキル『説明』を得てからは忘れていた感情である。
「ああ、こんな話をしているうちに到着しましたね。どうぞ、ここが謁見の間です」
長い廊下の突き当たり。一際装飾された扉の前で足を止め、サウザンドが説明した。やはり謁見の間は特別なのだとわかる。
すると、先程までサウザンドの背後で黙っていた二人の兵士が、素早く前に立って同時に左右の扉を開いた。
この扉の向こうにいるのはバレンドット国王であり、ノエルの父であり、雷帝と呼ばれる男、エクレール・マスタングだ。
倉野は一度深呼吸してから前へと進む。
サウザンドの声だ。
ここはバレンドットの王城の一室で、倉野たちは待機室を借りている状態なのだが、バレンドット側の人間といえども声かけは当然の礼儀だ。
倉野が慌てて「はい」と返事をするとサウザンドが扉を開けて入ってくる。
「謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします。どうぞ、こちらへ」
そう話すサウザンドの背後には兵士が二人立っていた。彼らは王城の前で見た兵士と同じく、黒の軍服に身を包んでいる。
知っていたことだが、サウザンドは若いながら人を従える立場にあるのだと再認識させられる。
倉野たちの話はまだ終わっていなかったが、全てバレンドット前に何度も確認していたことだ。あくまで再確認である。
すぐに全員サウザンドの近くに集まり、その案内に従った。
部屋を出た倉野は改めて王城の内装に目を向ける。
決して貧相というわけではないが、圧倒的に豪華というわけでもない。エスエ帝国にあるグランダー伯爵邸の方が豪華に見える程度の内装だ。
サウザンドは全員の先頭を歩きながらも背後に気を配っていたのか、倉野の視線に気づき声を掛ける。
「王の住まう城にしては・・・・・・とお思いですか?」
「あ、いえ、そんなことは」
自分の気持ちを読まれたのか、と倉野が否定するとサウザンドは喉の奥で小さく笑う。
「いいんですよ。王城とは王を表すものです。ときに権力、ときに武力。そしてこのバレンドット王城では、国王様の意志を表しています」
「国王様の意志、ですか?」
「はい。王城などハリボテでいい。豪奢に飾る余裕があるのならば、国民の生活を豊かにするべきだ、というのが築城当時、国王様から受けた指示だったと聞いています。とはいえ、他国の要人や使者を招くこともありますから、文字通りのハリボテとはいかなかったようですが」
国を想う自慢の国王だ、と言わんばかりに語るサウザンド。そこだけを見れば、国王エクレールに忠誠を誓う騎士にしか見えない。
本当にゼット商会と繋がっているのか。スキル『説明』が情報を表示しないから、と余計な猜疑心を抱いているだけではないのか。
疑惑による想像と目の前にいる男の表情が心を惑わせる。
倉野はわからないことがこれほど不安なものなのだと久しぶりに感じていた。スキル『説明』を得てからは忘れていた感情である。
「ああ、こんな話をしているうちに到着しましたね。どうぞ、ここが謁見の間です」
長い廊下の突き当たり。一際装飾された扉の前で足を止め、サウザンドが説明した。やはり謁見の間は特別なのだとわかる。
すると、先程までサウザンドの背後で黙っていた二人の兵士が、素早く前に立って同時に左右の扉を開いた。
この扉の向こうにいるのはバレンドット国王であり、ノエルの父であり、雷帝と呼ばれる男、エクレール・マスタングだ。
倉野は一度深呼吸してから前へと進む。
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