1ページ小説

澤檸檬

文字の大きさ
30 / 122

結末。

しおりを挟む
 ようやくナイフを突きつけることができた。
 何度この光景を思い描きながら夜を過ごしただろう。自分の妻と幼い娘を殺したこの男を追い詰めるために、どれほどのものを犠牲にしただろうか。
 時間、仕事、立場、友人。考えうる全てのものを捨て復讐のために生きてきた。
 忘れもしない二ヶ月前。いや、正確には二ヶ月と五日前、目の前にいるこの男が俺の家に侵入し、妻と娘を刺殺したのである。
 警察は空き巣の犯行であると判断し捜査を進めている。空き巣に入った犯人が家にいる妻と娘に驚き犯行に及んだと考えていた。
 だが、理由など知ったことか。そんなものは知ったことではない。突きつけられた事実は最愛の家族が殺されたということだけだ。
 頭の中にあったのは悲しさと怒り。次第に悲しさよりも怒りが大きくなり俺は様々な方法で犯人を探した。仕事を辞め、全てのプライドを捨て合法とは言えない方法も使い、この男を見つけたのである。
 見つけたのは住所も仕事も持たないこの男だった。
「ようやく見つけた。お前を殺せば全てが終わるんだ」
 ナイフを握る手に力と怒りを込めながら俺が言うと男は怯えながら命乞いをする。
「ちょっと待ってくれ、お前は誰なんだ。どうして俺を殺そうとするんだ」
「どうして・・・・・・だと。忘れたとは言わせない。二ヶ月前、俺の家族を・・・・・・俺の全てを奪ったのはお前だろうが!」
 睨みつけながら、憎悪のままに吐き捨てると男は更に怯え始めた。
「あ、あの、女の旦那か。くそっ、どうして俺に」
「はっ、全てを失ったんだ、何でもするさ。金で動く者は全て利用した・・・・・・探偵からヤクザまでな。もういいだろう、お前を殺して終わりなんだからな!」
 そう言いながら俺は勢いよくナイフを突き出す。ナイフは男の腹部に突き立てられ、肉を切り裂き血を溢れさせた。
「うぐ・・・・・・」
 男は苦しそうな表情で刺された腹部を押さえる。
 だが、この程度の苦しみで許せるわけもない。俺はナイフを引き抜き、次は喉に突き刺した。
「がはっ、ま、待て。殺したのは・・・・・・」
「苦しんで死ね。痛みを感じろ。何のために殺したのかなんてどうでもいいんだ!」
 俺がそう言い放つと男は傷口を押さえながら言葉を続ける。
「ち、ちが・・・・・・」
「そうだ。血だ! 血に塗れて死ね!」
「ちが・・・・・・う。俺・・・・・・は・・・・・・殺し・・・・・・てない。こ・・・・・・ろし・・・・・・たのは・・・・・・」
 死の間際に男はそんな言葉を口にした。誰が見ても致命傷。その状態で吐く言葉に嘘はないだろう。
 言葉を聞いた俺は思わずナイフから手を離した。
 この男が犯人ではないとしたら俺は何のために全てを捨ててナイフを突き立てたのだろう。
「おい、誰なんだ! 殺したのは誰なんだ!」
 呼びかけるが男はもう動かない。死んでいるのか気を失っているのか。どちらにせよもう目を覚ますことはないだろう。
 だが、俺は男に呼びかけ続けた。そんな俺を襲ったのは後頭部の強烈な衝撃である。
 いきなり後頭部に痛みが走り、俺は殺した男に覆いかぶさるように倒れ込んだ。
 薄れゆく意識の中で俺はこんな言葉を耳にする。
「これでようやく終わったな。しっかし驚いたぜ、うちの組で始末した女の旦那が情報を買いに来たときはよ。まぁ、身代わりの男の名前と居場所を教えたら飛び付きやがったから、始末は簡単だったぜ」
 最後の最後で俺は真実を知り、唯一残っていた命さえ失った。
 復讐の結末を呪いながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...