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澤檸檬

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出会い。

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「私、あなたに会えて良かったわ」
 彼女が笑顔で俺に気持ちを伝える。
 俺も同じく笑顔で彼女の手を握った。
「俺もだよ」
「そう? あなたのお陰で、こんな男と付き合っていてはダメになると気付けたわ」
「え?」
「自分の機嫌のいい時は笑って甘えてきて、機嫌が悪いとすぐ態度に表す。次第に私はあなたの機嫌を伺うようになる。随分と居心地が良かったでしょうね。あなたが好きなのは私じゃないわ。反論もせずに従い機嫌をとってくれる相手よ」
 俺の手からするりと抜けていった温度はもう戻らない。
 彼女に会えて良かったと思える日は来ないだろう。その言葉のありがたさに気づくことなどできないのだから。
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