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澤檸檬

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炭酸。

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 爽やかに弾けて、元気いっぱいに踊る。そんな真美のことを私は『炭酸のようだ』と思った。
 じっとりして不快感の象徴であるはずの汗さえ、真美の周囲では輝いて見える。きっと彼女は、夏に愛された女神なのだろう。
「奈々、右手が下がってるよ。もう少し上でピタッと止めるの」
 真美にそう言われ、私はすぐに自分の体に指示を出す。
「こうかな?」
 高校最後の体育祭だとはいえ、応援演技にそこまでのめり込めるのは、彼女の良さの一つだろう。肌を焼く太陽すら、彼女の前では遠慮気味だ。
 真美主導で行われた放課後の自主練習を終え、私は自動販売機の前で悩む。乾いた私の体は何を求めているだろう。ミネラル、糖分、塩分。
「こんなに暑い日は炭酸でしょ」
 背後から声をかけてきた真美は、私の肩を通り越し、炭酸飲料のボタンを押した。
「ちょっと、真美」
「次、私ね。私の飲み物は奈々が決めていいよ」
 勝手に飲み物を決められた私は、委ねられた決定権を仕方なく行使する。
「じゃあ、これ。ミルクティー」
「えー、甘いのかぁ。でもたまにはいいよね。じゃあ、それにする」
 真美は薄茶色のペットボトルを手に取ると、勢いよくそれを飲み始めた。喉が渇いていた私は、彼女と同じように水分を摂取する。
 口の中で弾けた炭酸が、口内の渇きを一気に流す。心地よい音が、体を伝って鼓膜を揺らした。炭酸飲料を飲むのは、本当に久しぶり。
 舌の表面をチクチクと刺されるようで、不愉快だった。押し付けられた爽やかさは、夏の暑さよりも眩暈がする。
「うん、美味しい」
 喉の痛みと腹部の圧迫感に耐えながら私が言うと、真美はミルクティーを半分ほど飲み干して微笑む。
「あっま」
 私に向けられたその言葉が、褒め言葉じゃないことだけはわかった。
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