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本編

第4話_幻影の君-3

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自分の立場に置き換えたらと彼らの内情を理解しつつ、リョウは口を開く。

「えっと、経緯を話した方がいいかなと思うんだけど…プライベートな話になるから――」

と、なるべくオブラートに包みながら説明しようとしたところで、講義室の出入口あたりがにわかにざわつき始めた。
諒と啓介ケイスケを中心としていた集団が、外側にいた者から次々に振り返ってそのまま硬直するのを見、ふたりも入口へ向けて立ちあがる。

「! 髙城タカシロ…!?」
「…おはよう」

室内全員の、もはや凝視とも言えるレベルの視線を浴び、蒼矢ソウヤは少し気後れしたような表情を浮かべながら立っていた。
昨日の洗練されたスーツ姿から一転して学生らしいカジュアルな装いになっていて、地味色ながら痩身によく似合うコーディネートにも諒は目を見張ったが、それ以上に、昨日からアイテムがひとつ追加されている彼の容姿を見、後ろへひっくり返りそうになった。

蒼矢の顔には、その端麗な面差しを隠さんばかりに主張の激しい黒縁眼鏡がかけられていた。

…冗談だと言ってくれ、髙城…!
…俺、今日ほど"無きゃいいのに"って切に思ったことないぞ…!?

蒼矢の入室後間もなく二限目の開始時刻を迎え、同級生たちは満足にリアクションを取れないまま、各々席へ戻っていく。
集団が捌けていく中、蒼矢はまっすぐ諒たちの元へ歩いていき、ふたりへ遠慮がちな笑みを浮かべながら着席する。
そしてテキストを開きつつ、隣の啓介の顔をのぞき込むように窺った。

「…悪いけど、後で一限目の進捗教えて貰えるかな」
「!! ぉおっ、おう!」

啓介がそうしどろもどろに応えてからすぐに准教授が入室、座学が始まり、室内の雰囲気は元の静けさを取り戻していく。
が直後、諒のスマホにSNSが届く。

―『どアップは眼鏡あっても無理。三限目は席代わってくれ。講義に集中できん』―

…沖本…
…同じく味わったから気持ち解るけど、心折れるの早過ぎるだろ。お近付きになりたいんじゃなかったのかよ…

天然仕草で悩殺してくる友人、そして拝謁を賜って早速決意を挫きかける友人を見、諒は彼らと今後少なくとも数年付き合っていくだろう未来に一抹の不安を感じた。
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