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本編

第7話_笑顔の圧力-2

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影斗エイトは気さくそうな面立ちを崩さないまま、続ける。

「ちなみに彼女は?」
「あ、はい。います」
「長いの?」
「いえ、それほどは…高校で、部活の大会で知り合った子なので」
「おぉ、いいじゃん。…で?」

諒の交際事情を把握すると、影斗はやはり啓介にも同じ質問を振る。

「…俺はっ…、…別れたばっかりです…」
「へぇ…、そっかそっか」

啓介の幾分かしどろもどろな返答を受け、影斗はなにやら得心したように何度か頷いてから、にやりと笑ってみせた。

傍から見れば和やかな食事風景に見えるかもしれないが、その実リョウはかろうじて笑みを返すものの、背中と手のひらにはじっとりと冷たい汗を滲ませていた。

…まるで尋問だ…!

空気感的にマイナスな返答ばかりしている気がする啓介ケイスケに至っては、額全面に青線が浮かび、視線をあからさまに泳がせ、縮こめた肩を若干震わせてしまっていた。

「――先輩、ちょっと」

そんな風に矢継ぎ早に質問を浴びせていく影斗へ、黙って聞いていた蒼矢ソウヤは食事の手を止めて口を挟む。

「彼らが食べる暇がありません。…あと、質問の前になにか言うことがあるんじゃないですか?」
「! おぉ、そうだったな」

髙城タカシロ…っ、救世主…!!

「実は今日こうしてお前らを飯に誘ったのは、俺が礼と謝罪したかったからなんだよ」

蒼矢に会話路線を修正された後、にわかに発された影斗からの告白に、この場から1秒でも早く逃げ出したい気持ちになっていたふたりは、揃って目を丸くした。

「入学式の日、蒼矢にコンタクトで行けって言ったの俺なんだ」
「…!?」

続けて明かされた真実に、ふたりの顔はますます驚愕へ変わり、蒼矢へと視線を移す。
あっけらかんと語る影斗の横で、蒼矢は憮然とした表情で目の前のプレートへとうつむいていた。
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