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本編

ありし日の記憶②-4

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その日のレツは、授業が終わる度に蒼矢ソウヤのいるクラスへ来て彼の隣の席を陣取って戯れ、給食を食べ終った後も即遊びに誘い、休み時間を一緒に過ごした。
いつもそれなりに一緒にいる時間が多いにしろ、今日に限って異常なほどくっついて回る烈の行動に蒼矢は始終気遅れ気味だった。
しかし、顔を合わせる度に満面の笑みを浮かべてくる彼へ理由を聞く気は起きず、されるがままに受け入れて一日が過ぎた。

帰り道も朝と同じく手を繋ぎ、もはや既定路線のように花房ハナブサ家へと導かれていく。

「ただいまー!」

息子の大声に、母の珠代タマヨが店先へ顔を出す。

「おかえり。…あらぁ、随分と仲が良いのねぇ」

珠代は仲良く手を繋ぐ少年ふたりの姿に顔をほころばせかけたが、息子の次の台詞で顔を凍らせた。

「今日は、そうやとずーっといっしょにいたぞ! おれえらい?」
「…!? あんたまさか、今日一日そんな風に手を繋いで蒼ちゃん連れ回してたのかい?」
「つれまわしてねーよ! 手ぇつないでたのだって、行きと帰りだけだぞっ。でも、休み時間になったらすぐとなりについててやったぞ」

慌てて珠代が駆け寄りふたりの手を離すと、よほど長時間固く握られていたのか、蒼矢の手の甲は赤くなってしまっていた。

「そういうことじゃあないんだよ! あんたが始終付いてたんじゃあ、蒼ちゃん息つく暇もないじゃないか!」

「なんだよぉ、おれそうやとはなれないようにしてただけだぞ。母ちゃんが言ったんじゃんか、そうやがさみしくないように、ずっといっしょにいてやれって」
「~…!」

そう頬を膨らます烈に、珠代は言い返す言葉が無くなり、代わって蒼矢へ振り向く。

「ごめんね蒼ちゃん、実は昨日…結子お母さんから連絡貰って、”仕事”のお話聞いたのよ」
「…!」
「私ら、居ても立ってもいられなくなっちゃって…あなたに何かしてあげられること無いかって。それでとにかく、烈にはそばに付いててやんなさいって言ったんだけど…そのまんま受取っちゃったみたいで…」
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