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本編

第2話_遠方からの訪問者-3

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引き戸を開けたアキラは、玄関の先にいた見知った人物の顔に目を点にして固まった。
「…!? 栞奈カンナぁ!?」
「! 陽!?」
その陽と歳が近い風貌の、"栞奈"と呼ばれた女の子は、陽の顔を見るなりきょとんとした可愛らしい面差しから一転して表情を歪め、眉を寄せながら彼を睨んだ。
「なんであんたがうちにいんのよぉ?」
「! いちゃ悪ぃのかよ!? お前こそ、他所よそしくインターホン鳴らしやがって、紛らわしいんだよ!」
「あんたみたいな、どことも知れない奴が来てるかもしれないからでしょ。…あんたまさか、普段から鳴らさずにうちにあがり込んでるんじゃないでしょうね?」
「うっ! そ、そんなことするわけねぇだろぉっ…」
そんな風になにやら賑やかしい玄関へ、遅ればせながら蒼矢ソウヤも顔を出す。
「! 栞奈ちゃん」
「蒼矢くん!」
彼の呼びかけに、栞奈は陽を押しのけて寄り、頬を染め目を輝かせながら見上げた。
「久し振り。お邪魔してます」
「久し振り! …こっち来てる間に蒼矢くんと会えるなんて思ってなかったっ…すっごい嬉しい!」
「……!」
彼女からしたら自分と蒼矢の状況は同じなのに、真反対な対応を目の当たりにした陽は頬を膨らませる。
「今日はどうしたの? お兄ちゃんに何かご用?」
「あ、ううん。…葉月ハヅキさんにじゃなくて…」
栞奈に問われ、何となく空気を察する蒼矢は、やや言葉を濁しながら目を横に流す。
「俺の用だよっ」
視線の先で腕組みをした陽が、鼻を鳴らしながら栞奈に返すと、彼女の眉が再び中央に寄った。
「はぁ? 何であんたの用にうちが使われるのよ?」
「お前には関係ねぇ。俺の人生を左右する大事な用だよ!」
「…あっ。あんたまた蒼矢くんに勉強教わってるんでしょ。相変わらずお馬鹿さんねぇ」
「!! うっ…うるせぇなぁ! もうお前帰れよ!」
「何言ってんの? たった今帰って来たところよ」
「ちげーよ、あっちの家にだよ。もっかい帰れ!」
「…!? ねぇ蒼矢くん、こいつひどくない!? 私自分ちに帰って来ただけなのに!」 
「あぁ、いや、あの…」
言い合う2人に挟まれた蒼矢が困り顔で手余していると、後ろから肩を軽く掴まれ、振り返ると葉月がにこりと微笑った。
「2人とも、そこまで」
低いトーンで静止がかかると、さほど大きな声でもなかったのに陽と栞奈はぴたりと言い止み、葉月へと見上げた。
「…お帰り、栞奈」
「お兄ちゃん、ただいま!」
葉月に言葉をかけられると、さっきまでの腹立った様子は吹き飛んだように消えて無くなり、栞奈は彼の首に抱きついた。
「来る時は連絡入れてからって言ってるのに…僕がいなかったらどうするつもりだったんだ?」
「突然来て驚かそうと思ったの。あとはノープラン!」
じゃれ合う兄妹とともに、一行は居間へと戻っていく。
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