上 下
7 / 62
本編

第2話_胸に残る澱-2

しおりを挟む
話が一旦区切られたところで、おやつの準備を済ませた苡月イツキが戻ってくる。

「うぉーっ、うまそっ」

山盛りの果物の器を差し出された途端、アキラは目を輝かせながらフォークを手に取る。

「…蒼矢ソウヤ君もどうぞ」
「ありがとう。…しばらく見ない間に、しっかりしてきたね」
「! …いえっ…」
「その袴姿も、君に良く似合ってる」
「…! っ……」

微笑む蒼矢に優しく声を掛けられ、苡月は頬を染めながら手元の盆へうつむく。

「なんだよ苡月。お前のしっかりやってるエピソードを、あお兄にもちゃんと話してやれよ」
「昔からこの子は蒼矢に対してはこう・・だよね。ちょっと妬けちゃうなぁ」
「えぇっ…?」

盆をキッチンへ下げに、そそくさと離れていく苡月の後ろ姿を追っていた蒼矢が、葉月ハヅキの言に眉を寄せながら振り向いた。

影斗エイトにも、同じようなリアクションするんだ。…どうやら面食いらしい」

ただただ困惑の表情を浮かべる蒼矢へ、葉月はなんてことのない素振りでウィンクしてみせた。

「えーっ、それって俺は格好良くねぇってこと!?」
「あぁ、陽は苡月の友達だからだよ。それはまた違うカテゴリだし、特別な存在じゃない?」
「…そっか、特別かぁ…!」

葉月は、不満の声をあげかけた陽をすぐさまカウンターで宥めすかし、再び蒼矢へ振り向いた。

「――まぁ、そんなに深く考えることはないよ。憧れみたいなものだろう、好きに思わせてやって」
「…はぁ」
「君も一人っ子なんだし、よく懐く可愛い弟が出来たみたいで嬉しいだろ?」
「それは、そうですね…」

陽についで、そう蒼矢を説き伏せた葉月は、戻るタイミングを失ったのかキッチンでまごつく苡月を手招きする。

「苡月、後片付けはいいから、お前も座って食べなさい」
「…はい」
しおりを挟む

処理中です...