ガイアセイバーズ6 -妖艶の糸繰り人形-

独楽 悠

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本編

第4話_水底の罠-3

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「…通信が途絶えた」

その頃待機する地上では、やはり脳内会話が出来なくなったことに程なく気付いた葉月エピドートサルファーが、顔色を一変させていた。

「っ…なんでだよ!? 今までこんなこと一度も無かったじゃねえかっ…!!」

サルファーの言う通り、セイバー間の脳内通信機能は、今まで幾度も繰り返してきた戦闘歴の中で、いかなる場面でも途切れることは無かった。
今回も、蒼矢アズライトの姿が視認できない状況ではあるものの、いなくなってからの経過時間を加味しても、水中を介してではそれほど遠いところにいるとは思えず、距離が理由だとは考えにくい。

体調を概ね戻したエピドートが、やはり核心に辿り着く。

「[侵略者]か[異形]に妨害されてる…そうとしか考えられない」

彼の読みに、サルファーも深く頷いた。
つまり、アズライトは既にどちらかと遭遇…最悪対峙している可能性もある。

「…行く」

そうぼそりと漏らすと、サルファーはエピドートの反応を待たずに池へとずんずん歩いていく。

「…! 待てサルファー」
「止めるなつき兄!! あお兄がピンチになってるかもしれねぇってのに、こんなところで突っ立ってられるか!!」
「うん、わかってる。だからちょっと待ってくれ。…僕に考えがある」

頬を膨らませ、鼻をつまんで頭から飛び込もうとしていたサルファーは、エピドートの言に眉をひそめながら振り向いた。
水際で立ち止まる彼の周囲を突如、風の壁が覆う。

「僕の防御壁は、セイバー以外は何も通さない。水中でもきっと呼吸出来るだろうし、水に濡れることさえないだろう」
「…! すげぇっ…」
「僕は引き続き、監視で地上に残る」
「っ!!」

射し込んだ光明に気が昂りかけたサルファーだったが、ついで告げられたエピドートの言葉に、表情を固まらせた。

「どうにせよ、おそらく今の僕は水中では役に立たない。…君ひとりで行って来てくれ」

一転して不安げな面持ちになるサルファーへ、エピドートは優しく微笑んで見せた。

「風の壁は、必ず君を護る。…おそらく脳内会話は出来なくなる。でも落ち着いて、アズライトを連れ戻すことだけを考えて。君が使う光属性は、有効な相手も少ない一方で不得意も無い。属性だけを取れば、不利になることはないはずだ。自分の実力を信じて」
「……!」
「大丈夫。風を"僕"だと思って。…ずっと君に付き添っているから」

エピドートの声掛けに、サルファーの金色の瞳が大きく見開かれ、力と意志が宿っていく。

「アズライトを見つけたら、どんな状況であってもすぐに彼を防御壁へ取り込んで、即刻戻ること。無茶をしてはいけないよ。…いいね?」
「了解!」

そしてそういつも通り応答すると、サルファーはきびすを返し、エピドートへ振り向かないまま静かに水中へと身を落としていった。
エピドートはその後ろ姿を見送りながら、祈るような思いで両拳を強く握った。
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