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本編

第9話_違和感への気付き-1

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次の日の夕方、高校から帰宅したアキラが自室ベッドに寝そべりながら携帯ゲーム機に興じていると、傍らのスマホが受電した。

「もしもし、つき兄?」
『あぁ、陽。…昨日はごめんね、たいしたフォローできなくて』

葉月ハヅキからの電話だった。
苡月イツキの件があり、昨日の早い段階で一度葉月から連絡を受けていたものの、苡月は泣いた理由を話さないまま自室へ閉じこもってしまったらしく、なにか進展があったら再度電話をかけるという約束で終わっているところだった。

『今日は一日学校を休ませて、さっきようやく落ち着いたんだ。で、話を聞けたんだけど…、やっぱり蒼矢ソウヤは、[侵略者彼ら]から何らかの影響を受けたかもしれない』
「…は!?」

苡月への申し訳無さから、ベッドの上で正座して聞いていた陽だったが、葉月から明かされる急展開に思わず声高になり、慌てて口を塞ぐ。

『なんとなく、引っかかりはしてたんだ…蒼矢の態度に。普段から口数少ない彼だけど…昨日は輪をかけてというか、本当に必要最低限しかものを言わないな、って』
「…そ、そうだったか…?」
『うん。…昨日、『転異空間あっち』でのことを聞き出していたでしょ? いつもなら彼なりの考察を必ず話してくれるし、まともな当事者が自分しかいないなら尚更だ。でも昨日の彼は、ただ問われたことに答えたり、君の言うことに同意してるだけだったように記憶しているよ』
「むぅ…」

受話口の向こうの葉月の言に、陽は同じように記憶を辿ろうと首をひねるが、その後の苡月とのことが記憶を上書きしてしまっていて、よく思い出せなかった。

『…とにかく、苡月のことで君が責任を感じたり、気に病むことはないからね。弟が迷惑をかけて済まなかった』
「!? 迷惑だなんて思ってねぇよ…! 俺が言ったことで泣かせちまったことは確かだし、…やっぱりちゃんと謝りたい」
『ありがとう。あの子はもう大丈夫だから、またいつも通り会ってあげてね』
「うん。…で、蒼兄のことはどうするんだ?」

苡月の件が一段落したところで、新たな問題の方へ話題が移る。
電話の向こうの葉月が、長いため息をついた。

『…困ったよ。彼とあれから一切連絡が取れなくなってしまったんだ』
「電話出ねぇのか? 蒼兄」
『うん。さっきから何度もかけてるんだけど…留守電に繋がってしまって、折り返しも無い』
「家は?」
『…やっぱり見に行った方がいいかな。一応、烈にも話を伝えておこうと思ってはいるんだけど』
「一旦家見に行ってみようぜ。俺も今から行く!」
『君は遠いから、そのまま家で待ってて。居ても居なくても、ちゃんと報告するから。それから、君からも蒼矢に電話かけてみてくれるかな』
「うぅ…、わかった」

不満気ながらも了解すると、陽は電話を切る。
そしてすぐに蒼矢の連絡先を履歴から探し、電話をかけた。

「……出ねぇな」

陽は、息を吐き出しながらベッドへ寝転がる。

――蒼矢は、[侵略者彼ら]から何らかの影響を受けたかもしれない――

「……」

葉月の言葉を受け、陽は無音の部屋の中で今一度、冷静に昨日・一昨日の出来事を思い出してみる。

…蒼兄の何かが、苡月あいつを不安にした。泣くくらいだから、ちょっとやそっとの言動じゃねぇよな…
…虫刺されって言い切っちまったけど…結構腫れてる感じがしたな。…あれで気付かなかったりするか…?
…[侵略者]の外見は、刺々しいものは無かった気がする。でも、蒼兄は下半身をがっつり[奴]に喰われちまってた。…内側に何かあったりしたのかな…

そう考えを巡らせ、ふと何かに気付いたのか、きょとんとした面持ちになった。

「――俺、案外色々考えられるじゃねぇか」
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