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本編

第14話_糸手繰るもの-3

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不意に空中へ姿を現した蒼矢アズライトは、感情の読めない面差しをたたえて地に降り立ち、4人の誰を見るでもなく対面する。

「……!」

言葉を発せず、息を飲む彼らの正面で、アズライトは後発属性の装具『氷柱つらら』を呼び出す。
そして得物を握り、無表情の中から藍の瞳だけを鋭く見据え、自らの一番間近にいたサルファーへ突進した。

「!! わぁっ…!!」

にわかに振り被られ、サルファーは咄嗟に装具『閃光せんこう』を合わせたものの、受け止めきれずに後方へふっ飛ばされた。

転がっていく彼へ追撃を仕掛けるアズライトの前に葉月エピドートが入り、装具『雷嵐らいらん』の柄で大剣を受け止める。
が、氷柱から滲み出す氷気を受け雷嵐に霜が降り、表面がみるみる凍っていく。

「っ…!!」

得物の異変にエピドートが暴風を発生させると、アズライトは一足飛びで後退し、軽やかに着地すると再び氷柱を両手に構えた。

一瞬のその出来事に、全員が息も出来ずに固まった。
まるで仲間へ対峙するような所作を見せる彼に、どうしようもない怖気に襲われ、背筋が凍る。

「……何が起きてんだ? それに…、直接攻撃以外は影響ねぇんじゃなかったのか…?」

沈黙を破った影斗オニキスが、アズライトを凝視したまま、誰宛でもなく言葉を発する。
その呟きのような問いかけに返せる者がおらず、沈黙が続く中、足の下からくぐもった笑い声が微振動と共に伝わってきた。

「甚く驚いたようだな。想像以上の反応を見せて貰えて満足しているよ、セイバーズ。…お前たちも既に知っての通り、アズライトは私の毒針を受け私の支配下となった。身体も、意識も、全て私の物だよ」

[霆蛇]は地の底を満たす水の中から、緩慢な口調で続ける。

「…アズライトひとりで私と対峙させて、後悔してるだろう? 私にとってはそれさえも予測通り。…忌まわしいお前たちが翻弄される様を想像するだけで至上だった」

エピドートの表情が強張り、サルファーは噴き上がりそうな感情を抑えるように奥歯をきつく噛む。

「アズライトは非常に御し易い身体でね。まんまと騙されて罠に嵌り、下るまで造作も無かった。…[異形私の手駒]に囚われ苦しみもがく姿も、私に喰われ自我を失う姿も、期待以上の愉悦だった」

ロードナイトとオニキスの両眼が、地表の向こうにくらます姿なき[侵略者]を射殺すような鋭さを放つ。

アズライトを見据えたまま沈黙を保つセイバーたちへ、[霆蛇]は嘲笑うような息をついた。

「さて、アズライトだが…意識だけでなくセイバーとしての能力も、私の意のままになっている。…お前たちの頭で考えられる狭小な常識は通用しないと思った方がいいぞ」
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