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◇第三章 ルイス編◇ 先輩に似た彼はチャラいです
第五話 「なにか言いたいことでも?」
しおりを挟む騎士舎に来てから仕事の内容を把握するのに忙しくて、あっという間に1週間経った。
家政婦って言っても、やることは前の使用人の見習いのときと同じ。
ただ、洗濯と食事の量は違うけどね。
ここ、騎士舎には約70人の騎士の人達が住みこんでる。
初めて聞いたとき、人数が少ないって感じた。気になって、家政婦長のヒルダさんに理由を聞いたんだけど、他にも独身の人はいるみたい。
例えば貴族出身の人は王都内に敷地を持ってるから、そっちから職場に通うんだって。
でも、洗濯も食事も出してくれるし、敷地内に訓練所もあるし、職場から近くて費用も安いから、大体の未婚の人はここに住むみたい。
洗濯しなきゃいけない物の量と、食事の量がたくさんなのは大変だけど。なんとか仕事にはついていけてるって思う。
あ、でも。一番助かったのは、洗濯しなきゃいけないのはタオルとか下着だけってことかな。
服のほうは、王城に洗濯専門の使用人がいるから、王城のシーツとかと混ぜて一緒に洗濯しちゃうんだって。大型の洗濯魔道具を使って一度にするみたい。
経費とか人件費削減のためかな?
と言っても、70人分のタオルと下着の洗濯も十分大変なんだけどね。
手作業で洗濯板を使っての作業も、力労働で疲れちゃう。洗濯板に桶のセットなんて、家庭科の授業以外で初めてみたよ。
洗濯が不慣れなこともあって、私はそっちの担当にはあんまり回されない。
むしろ食堂の厨房のほうに主についてくれって言われてる。
「食堂に私がいる方が士気が上がるから」って言われたけど……どういう意味なのかな?
なにはともあれ、頑張っていかなくちゃ。
◇◇◇
「リオンちゃーん! カウンターに日替わり定食一つ! 頼んだよ!」
「! っは、はい!」
料理長のベティさんの差し出されたお盆を受け取って、カウンターに運んでいく。
今日の日替わりは、朝告げ鳥のソテーがメインの料理。皮がパリッと焼きあがってて、香ばしい匂いが食欲をそそる。付け合わせのスープもパンも。
おいしそう……! 口からよだれが出ちゃいそう。
違うメニューだろうけど、今日のまかないもすっごくおいしいんだろうな。
「お待たせしました。日替わり定食です」
注文受け取り用のカウンターに載せると、料理を待ってた騎士の人が切羽詰まった様子で話しかけてきた。
「あ、あああの! クガさん!」
「……? はい」
どうかしたのかな?
……まさか、私、注文間違えちゃった?
でも、それにしても、様子が変だよね。彼、勢いよく唾を飲み込んで、焦りの感情しかないから。
「その! もしよかったらなんですけど、俺と――」
「『俺と』?」
「!!!? っひぃ!?」
発言を遮ったのは、低いけど透き通った声。声の主の彼の、タレ目がちの中の空色の瞳がスッと細くなってる。
私と目が合って、彼、ハーヴェイさんはニコッと笑った。
ハーヴェイさんが肩に手を置いたのは、さっきまで慌ててた男の人だった。
満面の笑みを浮かべたまま、ハーヴェイさんが優しくささやいた。
「それで? 第二部隊のジム・フーカー? あんたのさっきの言葉の続きは?」
「!!? っい、いや……その…………」
? この男の人、急に顔色が悪くなったけど、どうかしたの?
真っ青になっちゃってるなんて、今からご飯なのに大丈夫かな?
「ん? 遠慮すんなよ。言いたいことがあったんだろ?」
「すみませんでしたぁあああああ!! なんでもないですぅううううっっ!!」
「……あ」
行っちゃった。ご飯が載ったお盆はしっかり持って行ってくれたけど、あんなに走ったらスープがこぼれちゃうんじゃないのかな?
何だったのかな?
「ハーヴェイさん」
「よ。久しぶりだな、クガ」
カウンターに肘をついて笑いかけてきた。数日前に会ったばっかりなのに、変なの。
ここ、騎士舎の食堂は騎士団の駐在所から近いことから、昼食はここでとる人達が多い。もちろん、ハーヴェイさんもそのうちの一人で、毎日ここで食事をとってる。
でも、私と頻繁に会うってわけでもないよ。接客じゃなくて厨房で働いてるときは、ハーヴェイさんが来ててもわからないからね。
「久しぶりってほどでも、ないと思いますけど」
「んなこと言うなよ。クガに会いたくて会いたくて仕方なかったんだからな。ここ数日の会わない日は、本気で心が枯れるかと思ったぞ」
嘘ですね。
首をすくめて嘆いてみせてるけど、それ、単なる建前で事実はそうでもないよね?
「同じこと、一体何人に言われたんですか?」
「うっわー……さすがに正面切って、誰にでも言ってる発言はしないでくれよ」
「? 違うんですか?」
「…………いや、まぁ」
「……」
「んなシラッとした目で見んなよ」
しどろもどろと要領がない返事だから、きっとそうだよね。
わかってるから、べつに隠さなくてもいいのに。
ハーヴェイさんが女性にだらしないことくらい、わかってるよ?
むしろ今更感があります。
コホンと取り成す咳ばらいをしてみせたハーヴェイさんは、いたって気まずそうだった。私はそうでもないんだけど。
「んで。仕事にはもう慣れたか?」
「……たぶん、少しは?」
自信はないけどね。
でもさすがに、働き始めて今日でもう1週間くらい経つから。
「そうか。何かあったらいつでも言えよ?」
「……それ、前にも言われましたよ」
「あー? そうだったか?」
とぼけられたけど、絶対言われたよ。こんな念押しするみたいに言うなんて、ハーヴェイさんは心配性なのかな。
私の頭に手が置かれるのも、前と同じ流れ。
厨房では料理に髪の毛が混じったりしないように、一つにまとめてたのに。それも乱れてグシャグシャになっちゃった。
「っ! ボサボサになっちゃうので、ちょっと……」
「べつにいいじゃん? ほれほれ」
「わぷっ!? あ、あの……!」
なんだか、前と違って撫で方が荒い気がするよ。
おまけにやめてもらおうとしたら、もっとひどくなっちゃった。
「ルイス、オメエなぁ……」
「あ、隊長。今から昼ですか? 奇遇ですねぇ」
「……! 隊長さん、こんにちは」
「おう」
横から現れた隊長さんと目が合った。
けどすぐに逸らされて、隊長さんはハーヴェイさんをジロリと睨みつけた。
物言いたげな隊長さんの視線を受けて、ハーヴェイさんは撫でる手を止めた。
この間に髪を結びなおしとこうっと。今はクシを持ってないから手でスッとすいて整えとく。
「なにか言いたいことでも? 隊長」
「…………いや」
「?」
どうしたのかな、隊長さん。冷めた目でハーヴェイさんを眺めてるけど。
ハーヴェイさんはハーヴェイさんで、その視線を受けても微笑んでるし。
なんだか、私の知らないところで分かり合ってるみたい。
「あの?」
「なんでもねぇ。……気を強く持てよ、クガ」
「え?」
「ルイス、テメェはほどほどにしやがれ」
「何のことですか?」
気を強くって……どういうことなのかな?
ハーヴェイさんは含み笑いをして、隊長さんは疲れた様子でため息をついてるけど。なにか悩み事?
気になるけど、とりあえず。
「……注文、何にしますか?」
「俺、日替わり定食で頼むな」
「はい。隊長さんは?」
「同じので構わねぇ」
「わかりました」
二人から注文を取って、私はベティさんに聞えるように言った。
「日替わり定食二つで、お願いします!」
私は私のできることを、こなしていかなくちゃ。
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