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◇第六章 ルイス編◇ 先輩に似てない彼は私にとって何ですか?
第五十四話 「んなわけあるか、クソ野郎共」
しおりを挟むアルと目が合うと、彼は私に向かって優しく微笑んだ。
「……ありもしない証拠など、提示する必要性などないかと」
「そうかい? なら、その目で確かめてみたらどうかな?」
ハーヴェイ公爵から侮蔑の目を向けられても、アルの表情は飄々としたままで変化がないよ。……むしろ、笑みが深くなってる?
アルはそう言うと、ハーヴェイ公爵へと歩み寄り手に持った書類を渡した。
「……ふん、下らないですな」
「っ!」
!? 破るなんて……!?
サッと何枚かの紙に目を通すと、ハーヴェイ公爵は自然な動作で手に持った紙を細かく破り捨てた。
「このような物、陛下のお目汚しになるだけでございます」
彼が軽く手を払うと、細切れになった紙片が雪みたいに床に落ちていく。
もしかしたら、決定的な証拠だったのかもしれない。だから、王様の手へ届く前に、もみ消そうとして……?
だとしたら、これで形に残る証拠が壊されてしまったってことになるの?
「……」
不安になって、ルイスさんを見つめる。
彼はアルが話し始めてから一言も発してない。
アルの登場にも反応してなかったけど、今の状況にも反応してないのは、どうして?
もしかして、まだ手があるの?
もう一度アルを見ると、ニッコリととても良い笑顔を浮かべてた。
…………笑顔なのにどことなく暗黒の雰囲気が漂ってきてるのは、私の気のせいかな?
「残念だったね、それは複製だよ」
「複製、だと?」
「ああ、そうだ! いっそのこと、この場にいる他の者達にも見て判断してもらおうか」
複製? それより、『この場にいる他の者達にも見て判断してもらう』って何?
アルがそう言うと同時に、会場を上から照らしていた光が陰った。
なに?
「え……?」
思わず上を確認したけど、これって、もしかして。
「なっ!?」
同じように上を見上げた公爵は、言葉を失った。
一枚、二枚と白い紙が次々に上から舞い降りてくる。一カ所になんてまとまらずに、会場全体にそれは散っていく。
ヒラリヒラリと紙が何枚も落ちてきた。それらは他の参加者の人達の手へと渡っていく。
「なんと……!?」
「これは、盗賊ギルドとの契約書ではないのか!?」
「あなたのお持ちになっている物、私のと異なりますわね。……幾度も契約を成したということかしら」
「これは!? いくつか見たがほとんどがご子息であられる『ルイス・ハーヴェイ』様を狙った物ではあるが、中にはご息女であられる『エミリア・ハーヴェイ』様が対象の物もあるぞ!?」
「まぁ……! 血を分けた方々を殺めようとなさったのかしら」
口々に人々が噂をしていく。紙が降りやむ気配はない。
もしかしたら、同じ紙でも全員に行き届くように何枚も用意していたのかもしれない。
そもそも、この降らせるのは一体どうやってるのかな? あらかじめ、魔法で仕組んでおいたの?
だとしたら、用意周到すぎるよ。
「知人が本物と見紛うような物を複製するという、新たな魔法を開発してね。良い機会だからこれで試させたら、紙がたまってしまったのさ。なので遠慮しないでいい、控えはいくらでもあるよ」
アル、誰も遠慮はしてないと思うよ。
そして清々しいくらい、綺麗な笑顔を浮かべてるね。後光が差しそうなくらい整ってるのに、恐ろしいなんて感じるのは私だけかな。
「あ、ああ……あああ…………っ!」
「っ! 違う! 違うわ! こ、これは偽装された物だわ!」
呻くハーヴェイ公爵は、呆然と成す術もなく会場に舞う紙をただ目で追ってる。
まだ紙の内容を見てなかった公爵夫人は、床に落ちた紙を一つ拾い上げて見るや否や、周りの紙を回収しようと必死になり始めた。
二人からわかる激しい動揺から、たぶん今宙を飛んでいる紙はよっぽどマズい内容が書かれているみたい。
「こちらがその契約書となります。どうぞ、ご確認を」
「……うむ」
王様は困惑はしてるものの、いたって普通にアルから書類の束を受け取った。
さすが一国の王、ってところ……なのかな? こんなところで改めて感じるようなものでもないとは思うけど。
「君も見るかい?」
「冗談だろ。んな胸糞悪いモン、二度も見ないっつうの」
「そう。ところで、先程までの気味の悪い物言いは終いかな?」
「あ」
『あ』じゃないよ、ルイスさん! 「しまった」って呟いてるってことは、今のはうっかりってこと?
下手をしたら、王様の目の前だし不敬罪とかに問われるんじゃないのかな?
「……よい、余が許すぞ。こうなってしまっては、そのような事は仔細無かろう。体勢も崩して構わぬ」
「はっ! 寛大なご配慮を賜り感謝を申し上げます」
「…………うむ」
ため息交じりに許可を出したけど、王様は疲れ果てて匙を投げただけなんじゃないかな……?
「もうどうにでもなれ」って言いたそうに気鬱そうに、ルイスさんの返答に軽く頷いてみせてるし。
王様の許可が出ると同時に、ルイスさんは素早く立ち上がってみせた。ずっと同じポーズなのはしんどかったのかもしれない。
「っつかアルフォード、俺はここまでしろなんて言ってないだろ」
「おや、そうだったかな? まぁ、そのようなことは些細なことだよ。それに、当然の報いだとは思わないかい? 私のお気に入りに手を出したんだからね」
「……ほんっと、この件に関してあんたが味方でよかったよ」
ルイスさんの苦言を満面の笑みで封じたアルには、悪びれた様子なんてない。
アルに借りができた、なんて前にルイスさんが言ってたのは、このことだったのかな?
「これらの調書の記載に虚偽はないのか?」
「私の手の内の者が集めた物です。そのような失態はあり得ません」
「……そうか」
アルが否定すると、ひどくあっさりと王様は納得した。拍子抜けするほどに当然のように流したけど、深く確認しなくてもいいものなの?
ううん、もしかしたらアルは、王様から信頼された人物なのかもしれない。
そういえば、王宮図書の利用許可書も私にすぐ出してくれたし……。
……一体アルが何者なのかは、深く知っちゃうと前と同じような対応はできなくなりそうだから、あまり考えるのはやめとこう。
「捕らえられた罪人も、この書類を見せると潔くハーヴェイ公爵の指示だった事実を認めました」
「……たしか、この場にはそなたの配属しておる第三部隊隊長も召集しておったな。それは真か?」
「はっ! 左様でございます」
「……ふむ。あい、わかった」
群衆から王様のいる舞台の下まで進み出た、隊長さんは跪いて返事をした。
王様から了承の言葉がかけられると、隊長さんは礼をしてから素早く引き下がった。そういえば、前に隊長さんも舞踏会への参加を渋ってたから、人前に出るのはなるべく避けたかったのかも。
王様はもたらされた情報を頭の中でしばらく整理してたみたいだけど、ほどなくして頭を軽く左右に振る。そして、従者へ軽く目を向けた。
視線を向けられた従者の方々が、人々に静かになるように強くうながし始める。
騒然となってた場も、降り注いでいた紙の量が落ち着いてきていたせいもあって、少しずつ静かになっていく。
やがて、一人残らず口を噤んだ。
浮ついていた周囲の人達が、一端は静けさを取り返す。だけど、彼らは物事の結末を一瞬でも見逃さないようにジッと王様が開口するのを待った。
「ハーヴェイ公爵、公爵夫人よ。そなたらにはルイス・ハーヴェイ、エミリア・ハーヴェイ両名の暗殺疑惑がかかっておる。沙汰は追って知らせようぞ」
王様からの厳かな通知に、ハーヴェイ公爵と公爵夫人は取り繕えないほど動揺を顕わにした。唾を口から飛ばすほどの勢いで、王様の発言をなんとか変えようと言い募り始めた。
「!? お、お待ちになってください! 陛下! 私は、私はそんなつもりでは……!」
「そ、そうですわ! こ、これは何かの取り違いではありませんか!?」
「んなわけあるか、クソ野郎共。あからさまなブツが挙がってんのに、うだうだ駄々こねてんじゃねぇよ」
ルイスさんが吐き捨てた罵倒が、辺りに響き渡った。それと同時に、シーンと静寂が訪れる。
ハーヴェイ公爵も公爵夫人も口をポカンと開けて、ルイスさんを見つめてる。
当然だよ! この正式な場で、なんて暴言を吐いてるのルイスさん!?
「ちょ、ちょっと、ルイスさんっ!?」
「あ。あー……ま、いいんじゃね?」
「よくないです!」
「リオンも思いっきり口をはさんでるけど、そこはいいのかな?」
「え? ……!?」
私まで仕出かしちゃった!? 嘘!? ど、どうしよう!?
「どうしましょうルイスさん!? 私打ち首ですか!?」
「いや、それはないんじゃね? っつか、アルフォードがそこんとこは許さないだろ、な?」
「こういうところは私頼みかい? まぁたしかに、私はそんなことに許しは出さないかな」
「だろ? ってことで、大丈夫だ」
「何がですか!? 何も大丈夫じゃないですよ!?」
なんでそうのほほんと会話を交わしているんですか!? こんなに視線を集めてて、平然としていられるなんて、私と二人の心臓は素材が違うんじゃないのかな!?
「あーそこの、もしやそなたが件の『リオン・クガ』嬢かの?」
「!? は、はいっ! そ、そうです!?」
王様に話しかけれるなんて、なんで!?
とっさに返事したけど、もしかしてやっぱり不敬罪で刑罰をあたえられるの!?
「ああ、よいよい。そう固くならずとも。余が許すぞ。打ち首もせぬからな」
「っは、はい! ありがとうございます!!」
慌ててお礼を言いつつ頭を下げた。よかった、不問としてくれるみたい。
ホッとして息をついた私に、王様は目を細めた。
「うむうむ。……して、クガ嬢よ。そなたはこの件を如何様にとらえておる?」
「……え?」
何のことでしょうか?
予想外の展開に、思わず私はビックリして固まってしまった。
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