ミスキャスト!

梅津 咲火

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◇第六章 ルイス編◇   先輩に似てない彼は私にとって何ですか?

第五十一話   「そのドヤ顔なんですか!」

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「レイモンド! 一体どういうことなんだよ、これは!」
「……え!?」

 な、なにっ? 部屋の扉がいきなり勢いよく開いたと思ったら、怒鳴り声がしたんだけど。
 あれ、そういえばこの声って……。

「ルイスさ、ん?」

 のはず、だよね。
 だけど、ちょっと自信がなくなるよ。服装も髪型も全然変わってるから。

 普段の騎士の制服じゃなくて、黒の燕尾えんび服に白のちょうネクタイを着てる。
 いつもは下ろしてる前髪がワックスで固められて、額が見える。タレ目だから柔和な顔立ちなのに、キッチリ髪がセットされてる影響で誠実そうな印象がするなんて……外見詐欺も程があると思う。

 雰囲気が違ってて、なんだか目を離せないよ。

 怒り心頭のルイスさんはわめきたてるのに対して、レイモンドさんはというと迷惑そうに顔をしかめてる。
 ……すっごく嫌そうな顔。

「なんで俺もここまでしなきゃいけねぇんだよ!」
「何かと思えば……当然でしょう。むしろだらしない様相ようそうのまま陛下に拝謁はいえつするつもりですか」
「べつにいいだろ。関係ないって」

 いえ、関係ありますよね?
 そもそも、国王を軽く見る発言は騎士のルイスさんがしちゃダメじゃないかな。

「そのようなこと、許されるわけがないでしょう。あなた、自分の同僚につまみ出されますよ」
「いるわけないだろ、俺にそんなことできる奴。今回はうちの隊長も参加者なんだから」

 胸を張って言うことじゃないと思うよ?
 レイモンドさんも私と同意見みたいだけど、そこを今は言及してる場合じゃないって思ったみたい。眉間にあるしわの本数を増やして、指摘する点を変えた。

「……それにあなたには関係なくとも、同伴者の彼女にはあるでしょう。あなたのそぐわない恰好で割りを食うのは彼女ということを認識していますか」
「! それは……」
「まさかわかってなかったんですか。バカでしょう、あなた。いえ、バカでしたね。当たり前の事実を再確認してしまいましたか」
「バカじゃねぇっ! っつかレイモンド、『俺がバカ』っていう常識を自分の中に作るなよ!?」
「仕様がないでしょう、真実はいつわれません」
「ガァァァアアアアッッ!! ムカつく! マジでムカつく奴だよ、お前って!」
地団駄じたんだまないでください。ホコリが立ちます」
「坊ちゃま、私どもはそんな手緩《てぬる》い清掃はしておりませんぞ」
「話がややこしくなるので黙りなさい、セバス」
御意ぎょい

 こんな状況でも口をはさめるセバスさんの神経は極太じゃないかな。レイモンドさんの冷たい目線を受けて、すぐに引き下がったけど。

 それにしても……二人とも息ピッタリのやり取りだよね。ルイスさんとレイモンドさんの会話って、お互いを理解してないとできないと思う。
 遠慮なしに言い合えるような、気安い間柄なんだね。

 ひとしきり絨毯じゅうたんを踏み鳴らして、気が済んだのかな。ルイスさんは上げていた足を元の位置に戻して、大きく息をついた。

「………わかった、そうだな。クガに嫌な思いはさせたくないから、仕方ないか」
「!」
「当然でしょう、何をいっているのですかあなたは」

 それって、私のために我慢してくれるってこと?
 …………どうしよう、当たり前のことを言ってるってことは、レイモンドさんの反応からそうだってわかるのに。
 なのに、とっても嬉しいよ。

「っと、そうだ! クガは!?」
「いるでしょうが、私の正面に。あなたの目は節穴ですか」
「は…………っ!? マジ、かよ……」

 こんなに近くにいたのに私の存在に気づいてなかったの!? どれだけ服装に怒ってたの!?

「……」
「……」
「…………」
「…………? ルイスさん? どうかしましたか?」

 どうして、そんなに目も口も大きく開けてるの? そんなんじゃ乾いちゃうよ?
 もしかして、私の服装におかしな点とかあるのかな。見下ろして、自分の姿を振り返ってみる。

 ドレスは両肩が出てて、腰から下がふんわりと広がったタイプ。スカート丈は立った時に床につきそうなくらいまで長くて、靴で踏んでしまわないかヒヤヒヤしちゃう。
 淡い綺麗な水色に、すそに青の糸で花が刺繍してあるのがかわいい。

 普段はそのままの肩よりちょっと長めの髪は、アンナさんの手によって結い上げられてる。編み込みもしてあって、おまけにところどころに青の小花まで使ってるのがおしゃれだよ。

 布製の白の靴にも、銀色の糸で刺繍がしてある。
 ……絶対、この靴高いと思う。だって、すっごくやわらかくて履きやすくて歩き疲れないから。
 ヒールの高さも低めで、バランスが取れなくて舞踏会のダンス中にこけるってことがなさそうで安心。

 見事に化けたと思う……んだけど。主に、アンナさんを始めとしたマクファーソン家スタッフ一同の成果だよね。私自身の手だとこんなにうまくはできなかったよ、絶対。
 化粧もしてあるから、全部終わって鏡を最初に見たときには、そこにいるのが本当に自分なのかわからなかったくらいだし。

 でも、もしかしたら私の主観なだけだし、ルイスさんにとっては違うのかも。

「変、ですか?」
「は!? んなわけないって! あんたの肌にその水色のドレスは似合ってる! 普段は見えない肩が露出してて色気にクラクラするし、うなじに食いつきたくてしょうがないんだからな!」
「!!?」

 ちょ、ちょっとルイスさん!?
 口を開いたかと思ったら、突然何を言い出してるんですか!?

「な、何を言ってるんですか!?」
「本音なんだから仕方ないだろ!?」
「そこで開き直らないでください! そのドヤ顔なんですか!」

 大体、食いつきたくなるとか……どういうことなんですか!
 色気なんて出てないに決まってるし、そんなのルイスさんだけじゃないのかな!?

 お互いにさらに言い返そうとして口を開いた。 
 だけど、『パンッ!』って乾いた音が急にして、私もルイスさんも言葉が止まった。

「!?」
「おわっ!? な、なんだ!?」

 驚いて我に返れたけど、一体何の音?
 発生源を辿たどると、レイモンドさんが極寒の眼差しでこっちを見てた。

「間抜け面をさらすのはそこまでです。時間がしいので移動を。まさか、これ以上私に迷惑をかける気ではありませんよね……?」
「!? ご、ごめんなさい!」

 充分わかったので、そんな虫ケラを見るような目をしないでください。
 いつプチッとつぶされるのかヒヤヒヤするので!

「レイモンド、カリカリしすぎだって。んな調子だと、一家で一人だけハゲるぞ」
「!?」

 この状況で軽口叩けるの!? ルイスさんの心臓は固い金属でできてるんじゃないかな!?

 案の定、レイモンドさんはルイスさんの返事がカチンときたみたい。
 彼の整った眉が、余計につり上がった。

「セバス、縄の用意を。しつけのなってない野生児は馬車に乗せる価値などありません」
「ちょ!? おい、ふざけんなよ!? 馬車にくくりつけようとすんな! むしろそれなら並走するっつうの!」
「……何をバカなことを、と言えない辺りがあなたが野生児たる由縁ゆえんでしょうね。…………ハァ」

 レイモンドさんが認めるってことは、馬車と並走できちゃうんだ、ルイスさん。規格外すぎるよ……。

 これ以上話しても頭痛の種にしかならないと判断したみたい。レイモンドさんは目元を指でみながら話題を変えた。

「……もういいです。とにかく、舞踏会へ向かいなさい。馬車くらい、我が家の物を一台こちらで用意しますから」
「? なんだよ、レイモンドは一緒には来ないのか?」
「後から向かいます。ただ私は、自分の今夜の同行人とともに行く予定が何週間も前から組み込まれていますので」

 言葉の端々にトゲがあるよ……。本当に土壇場どたんばでこんなことをお願いすることになって、ごめんなさい。
 なのに、馬車も貸してもらえるなんて……。アンジェさんとジョシュアさんの息子さんなだけあって、実はレイモンドさんは面倒見がいいのかも。

「――ルイス」
「? なんだよ?」

 ……どうしたの? レイモンドさんってば急にルイスさんを真剣な目で見つめて。
 ルイスさんも不思議に感じたみたいで、怪訝けげんそうにしてる。

 レイモンドさんはそんなルイスさんの表情を見ても、様子を変えなかった。

「せいぜい気がたるんだままで、本日の件でみっともない姿をさらさないようになさい」
「!?」

 どこに驚くポイントがあったのかな?
 ……ルイスさん、目を見開いてすごく驚いてる。レイモンドさんはただ、今日の舞踏会でのことを励ましただけだよね?
 きっと、主賓客の一人に数えられてるルイスさんを、叱咤激励しったげきれいしただけだと思ったんだけど。

 しばらくせわしなく目を瞬かせたルイスさんは、やがてニヤリと唇の端を上げて笑った。

「……ッハ、誰に言ってんだよ、レイモンド? 俺は狙った獲物は狩らないとしょうに合わねぇんだって」
「……そうですか。まぁ、あなたは野蛮人ですから、仕損しそんじはしないでしょう」

 ルイスさんは獰猛どうもうな笑顔を浮かべてるけど、急にどうかしたの?
 レイモンドさんはレイモンドさんで、ルイスさんの返事に納得したみたいにうなずいてるし。

「念のため、健闘はいのっておきましょう」
「余計な世話だっつうの!」
「……ガキですか、あなたは」

 イーッと歯茎はぐきを見せて威嚇いかくしてるルイスさんを、あきれをにじませた目で一瞥いちべつしてからレイモンドさんは去って行った。

「では、私も馬車のご用意をさせていただきます。お二人は後程玄関ホールまでおしください」
「ありがとうございます」
「いえいえ。職務ゆえですから」

 そう言って、セバスチャンさんも一礼をしてから、部屋を退室してしまった。
 すぐにでも移動した方がいいのかもしれないけど……。でも、さっきのルイスさんとレイモンドさんの会話が気になるよ。

「さっきの会話……一体、なんだったんですか?」
「ん? ああ、べつに何でもないって」
「……そう、でしょうか」

 なんだか、に落ちないような。あんな訳有りみたいな言い方されたら、さすがに引っかかるよ。
 もっと違うニュアンスをふくんでたみたいに感じるのは、私が深読みしてるだけ?

「あの――」
「それよりもほら。早く玄関先に移動しとかないと、レイモンドがまた小言言ってくるぞ」
「……はい」

 わざわざ私の言葉をさえぎられたら、それ以上は聞けなくて。仕方なく黙るしかなかった。
 ……今夜、舞踏会とはべつに何かあるの?

 不安でルイスさんを見つめても、彼は薄く笑うだけで教えてくれなかった。

 もしかしたら何かを――

「クガ?」
「! はい」 

 何かをたくらんでるんじゃないか、なんて。私の気のせい……だよね?

「大丈夫だって、な?」
「…………はい」

 ルイスさんにそう言われたら、私はうなずくしかないよ。
 彼なりの思惑を持って、舞踏会のいどむのかもしれない。

 ルイスさんが話さないってことは、私が知らない方がいいことなのかもしれない。
 ……だけど。

「あの」
「ん? なんだよ」
「私に、何かできることはないですか」

 それでも、力になりたいよ。
 ルイスさんからしたら、私なんて何の役にも立たないかもしれない。

 足を引っ張らないのはもちろんだけど、少しだけでもいい。彼の支えになれたら。

 目上にある彼の顔をジッと見つめると、ルイスさんは目元をゆるめた。

「じゃあ、舞踏会の間は離れずに俺のそばにいてくれ」
「え?」

 ……それだけでいいの? 本当に?
 私のいぶかし気な表情に気づいて、ルイスさんは笑みを深めた。

「あんたが隣にいるだけで、俺は勇気をもらえんだよ。だから、頼む」
「……はい!」

 それだけじゃないって伝えようとしてくれる、ルイスさんの気持ちが嬉しい。
 ルイスさんにとったら、なんてことない言葉なのかもしれないけど。その言葉が私を舞い上がらせる。

 ……うん。やっぱりルイスさんって、女ったらしだよ!

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