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◇第三章 レイモンド編◇ 毒舌家で皮肉屋の彼は私のことが嫌いみたいです
第十話 「あなたは一体、何者ですか?」
しおりを挟む「……」
困ったな、どうしよう。
初めてきたレイモンドさんの部屋の前の扉で立ちすくんでから、どれくらい時間が経っちゃったのかな?
レイモンドさんに部屋まで来いって言われてから、あの後に時間指定までされた。極《きわ》めつけに冷気の漂う雰囲気で「わかりましたね?」なんて確認つき。
『逃げるんじゃねぇぞ、ゴラァ』って暗黙で語ってた。すっぽかしたら間違いなく、ただでさえない私への彼の信頼度がマイナス値に振り切るよね。
わかってる、わかってはいるんだけど……どうも、気が進まないよ。
正直今すぐでも周り右をして仕事に戻りたい。だけど、そもそも同じ屋敷にいるんだから絶対に避けて通れない。
……本当に、レイモンドさんの呼び出した用件ってなんなのかな?
「……よし」
一つ頷《うなず》いて、気合を入れてこぶしを構える。あとはこれを扉にぶつけてノックを――
しようとした瞬間に、扉が勢いよく開いた!? 近くに立ってたせいで、私の手と額に扉が衝突《しょうとつ》。ゴッと鈍い音がして、すっごく痛い。
「~~っ!」
「は……? 何の音で…………何をしているのですか、あなたは」
開きかけの扉の後ろから、レイモンドさんが痛みに悶絶《もんぜつ》してる私を不審そうに見てる。
「何をしてる」も、レイモンドさんのせいでこうなってるのに!
「……なるほど、あなたにぶつかったのですか。まぁ、それはいいです。さっさと中に入りなさい」
謝罪なしですか!? 「怪我《けが》はないですか?」とか「すみません」とか、一言くらい声かけてくれたっていいのに!
さすがに物申《ものもう》したくなって、ジトッとレイモンドさんを上目で睨《にら》みつけた。視線が合った彼は、少しだけ眉を上に動かしてモノクルを直しただけ。
「何ですか」
「…………いいえ。なんでも、ありません。失礼します」
不満だったけどレイモンドさんは私のことが嫌いみたいだし、謝る言葉をくれそうもないよね。文句を飲み込んで、部屋に入った。ついでに私に怪我を負わせた扉も、しっかり閉じておく。
部屋に入って一番最初に目に入ったのは、書類とか本が山積みになった大きな机。執務机って言うのかな? その奥に、一人用のフカフカそうな赤い椅子がある。
ここにベットはないけど、部屋の中に入ってきたのとは違う扉が二つあるからきっと別室にあるんだと思う。
レイモンドさんは私が室内に入ったことを確認してから、部屋に唯一ある椅子に腰かけた。……私は立ちですよね。うん、わかりました。何も言わずに、レイモンドさんの正面に移動しておく。そんなこと、いちいち文句を言うほうが大変だよ。
「……あの、私を呼んだ理由って何ですか?」
さっさと用件を済ませて終わらせちゃおっと。そのほうがレイモンドさんにとってもいいよね。
「……」
「…………? あ、あの?」
なんで無言でジッと私を見てるの? 質問にも答えてくれないなんて。
「あなたに割く時間がもったいないので、端的に問いましょう。あなたは一体、何者ですか?」
「え?」
何者って……?
レイモンドさんが私の顔を探るように見てる。少しの感情の揺らぎだってバレちゃいそうなくらい、観察されてる。
彼の冷たい眼差しが怖いから合わさった視線を外したいのに、何故か外せなくて。
「何が狙いでこのマクファーソン家に入り込みましたか」
「……何も、目的なんてないです。私はただ、この国で働く手段を得るために――」
「ヴァイス語」
「え?」
私の言葉を遮《さえぎ》って、レイモンドさんの唇が滑《なめ》らかに動いていく。
「ルージュ語、ブル語、ゲンレ語、リロウ語」
何を言ってるの?
レイモンドさんの口から次々に出てるのは、パンプ王国の他の国の名前。最近になって知ったけど、それが一体なに……?
「存在さえ知らなかったラビアム語さえ習得してるとは、どういうことでしょうか?」
「っ!」
もしかして、前に本を落としたときに……? その時に、本のタイトルを見られて不審に思われたの?
思わず一歩だけ、後ずさってしまった。
何か話さなきゃ、何か……。
「それは…………」
「さらに追及するならば、あなたが作り出した料理です」
「りょう、り?」
プリンとタルトのこと? それとも、味噌汁と肉じゃが? どれを指してるのかな?
「あなたが作った物は違和感がありすぎます。庶民には高価であるはずの砂糖を、惜《お》しげもなく用《もち》いた菓子《かし》。見聞きしたこともない郷土料理。日常的に行っていたのか、相反する物をためらいもなく作っています」
「…………っ」
レイモンドさんの目が細くなった。思わず身をすくめたけど、そんなことで恐怖なんてのみ込めなくて。
私を追い詰める言葉を淡々と吐き続ける、レイモンドさんの感情が見えない。
「――あなたは一体、何者ですか?」
レイモンドさんがもう一度、さっきと同じ言葉を繰り返した。
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