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21 豪商の家2
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木箱に浅く腰を下ろして足を組んだ豪商は、気取ったように前髪を手で弄りながら話し始めた。
「神殿が聖女っていう渡り人を探してるんだ。見つけて差し出せば褒美は思いのままだとさ」
だから、明日、渡り人の俺を神殿に連れて行くという。
でも、どうして、こいつは俺が渡り人だと知ってるんだろう。
「そいつを神殿に連れて行ったんだがな、聖女判定は下りなかったんだ。手間かけさせやがって、役立たずが」
「はぁ? ふざけんなよ」
豪商はクックッと含み笑いを漏らす。
「教えてやろうか。お前が庇ってるそいつが、お前を騙してここまで連れてきたんだぞ」
豪商が口を歪めた。
「俺がお前に近づくように命じたんだ。お前の店に潜り込んで連れ出せってな」
それから、いかに自分が計画を立てて成功したか、聞いてもないことをペラペラと喋りだした。
いや、でもさ。
俺は脱力して、埃っぽい板張りの床に顔を当てた。
なんとなく、それ、気づいてたんだ。
ここに来てからだけど。
だって、こんな大きなお屋敷で、いくら通用口とはいえ鍵がかかってなくて、監視カメラが働いてないって不自然すぎるだろ?
陰間茶屋は大事なお店の子がいるからって、セキュリティはしっかりしてる。
前に防犯カメラの魔道具も見せてもらったこともある。
それに、今の話を聞いて納得した。
俺は一応「外国人」ってことになっている。
薄々気づいてる人もいるかも知れないけど、店の連中もお客様もそう思ってるはずだ。
だから、俺を渡り人だとはっきり断言できるのは、俺以外はオーナーと灯さんしかいないんだ。
だから、バラしたのは灯さんということになる。
オーナーならこいつに売るより直接神殿に連れてきそうだもんね。
でも。
俺だって、オーナーのためなら裏切ることくらいする、と思う。
灯さんが豪商を好きっていうのも仕組まれたことかも知れないけど。
今、こんな目に合ってる姿見たら、ざまあみろなんて思えないよね。
突っ伏したまま動かない俺にショックを受けたと勘違いして、豪商が高笑いしながら出ていった。
ホンットに小物感が強いな。
「そんなことより、手当するもの寄越せよ!」
重い扉が閉まる音と消えてしまった後ろ姿に怒鳴ってから、自分の声に頭を抱えた。
下には木箱が沢山あるのに、俺達の置かれたロフト部分には何もない。
飲み水すらない。
え、俺、一応、聖女候補なんだよね。生かして連れてく気あるの?
とりあえず、俺の襦袢の袂を裂いて、灯さんの汚れた体を拭った。
中出しされてたので、申し訳ないけど指を入れて掻き出す。お腹壊したら大変だもんね。
あいつの精液だと思うと吐き気がするから、指は厳重に布で拭いた。
「う、ぽめ太く……」
「良かった、灯さん、気がついた?」
切れてたから、本当は軟膏か何かあればいいのに。
着たままだった俺の防寒ポンチョを素っ裸の灯さんに着せる。
「ごめん、ぽめ太くん。騙して、ごめん」
その間も、灯さんはずっと俺に謝り続けていた。
「起きなくていいよ」
「うん、でも……」
灯さんは、いつものことだから慣れていると言った。
そのことに、俺は息を飲んだ。
「分かってたんだ、僕は単なる性欲の捌け口で人としてすら見られてない。でも、僕は旦那さんが好きだから」
側にいたかった、役に立ちたかった。
そう言った灯さんの気持ちが、俺には痛いほど分かった。
必要とされたい、要らないと言われたくない。
俺だって、いつもそう思ってる。
「でも、僕、つらかった。ぽめ太くんもみんなも優しくて。一緒に働いてる子達と仲良くなるほど騙してるのがつらくって。本当に、本当にごめん」
「泣かないでよ、灯さん」
気にしてないという思いを込めて、背を擦った。
もともと、灯さんは人を騙せるような人じゃないんだろう。
下働きの小さな子達といるとき、灯さんは本当に楽しそうだった。楽しそうに面倒を見てて、優しい顔をしていた。
「旦那さんが、ぽめ太くんを傷つけると思わなかった」
俺の頭を殴ったのは、やっぱりあの豪商だった。
あの浅黒い外国人風の使用人に何から何までやらせてたのに、俺を殴るのは自分でってS気質なのか? そうだろうな。
叩かれたんだろう灯さんの腫れた頬と切れた口の端を見ながら、俺は自分の眉がギュッと寄るのが分かった。
Sの風上にも置けないな!
高藤様の洗練された技とMに対する敬愛の心を見習えよ!
灯さんはMじゃないけど!
「神殿が聖女っていう渡り人を探してるんだ。見つけて差し出せば褒美は思いのままだとさ」
だから、明日、渡り人の俺を神殿に連れて行くという。
でも、どうして、こいつは俺が渡り人だと知ってるんだろう。
「そいつを神殿に連れて行ったんだがな、聖女判定は下りなかったんだ。手間かけさせやがって、役立たずが」
「はぁ? ふざけんなよ」
豪商はクックッと含み笑いを漏らす。
「教えてやろうか。お前が庇ってるそいつが、お前を騙してここまで連れてきたんだぞ」
豪商が口を歪めた。
「俺がお前に近づくように命じたんだ。お前の店に潜り込んで連れ出せってな」
それから、いかに自分が計画を立てて成功したか、聞いてもないことをペラペラと喋りだした。
いや、でもさ。
俺は脱力して、埃っぽい板張りの床に顔を当てた。
なんとなく、それ、気づいてたんだ。
ここに来てからだけど。
だって、こんな大きなお屋敷で、いくら通用口とはいえ鍵がかかってなくて、監視カメラが働いてないって不自然すぎるだろ?
陰間茶屋は大事なお店の子がいるからって、セキュリティはしっかりしてる。
前に防犯カメラの魔道具も見せてもらったこともある。
それに、今の話を聞いて納得した。
俺は一応「外国人」ってことになっている。
薄々気づいてる人もいるかも知れないけど、店の連中もお客様もそう思ってるはずだ。
だから、俺を渡り人だとはっきり断言できるのは、俺以外はオーナーと灯さんしかいないんだ。
だから、バラしたのは灯さんということになる。
オーナーならこいつに売るより直接神殿に連れてきそうだもんね。
でも。
俺だって、オーナーのためなら裏切ることくらいする、と思う。
灯さんが豪商を好きっていうのも仕組まれたことかも知れないけど。
今、こんな目に合ってる姿見たら、ざまあみろなんて思えないよね。
突っ伏したまま動かない俺にショックを受けたと勘違いして、豪商が高笑いしながら出ていった。
ホンットに小物感が強いな。
「そんなことより、手当するもの寄越せよ!」
重い扉が閉まる音と消えてしまった後ろ姿に怒鳴ってから、自分の声に頭を抱えた。
下には木箱が沢山あるのに、俺達の置かれたロフト部分には何もない。
飲み水すらない。
え、俺、一応、聖女候補なんだよね。生かして連れてく気あるの?
とりあえず、俺の襦袢の袂を裂いて、灯さんの汚れた体を拭った。
中出しされてたので、申し訳ないけど指を入れて掻き出す。お腹壊したら大変だもんね。
あいつの精液だと思うと吐き気がするから、指は厳重に布で拭いた。
「う、ぽめ太く……」
「良かった、灯さん、気がついた?」
切れてたから、本当は軟膏か何かあればいいのに。
着たままだった俺の防寒ポンチョを素っ裸の灯さんに着せる。
「ごめん、ぽめ太くん。騙して、ごめん」
その間も、灯さんはずっと俺に謝り続けていた。
「起きなくていいよ」
「うん、でも……」
灯さんは、いつものことだから慣れていると言った。
そのことに、俺は息を飲んだ。
「分かってたんだ、僕は単なる性欲の捌け口で人としてすら見られてない。でも、僕は旦那さんが好きだから」
側にいたかった、役に立ちたかった。
そう言った灯さんの気持ちが、俺には痛いほど分かった。
必要とされたい、要らないと言われたくない。
俺だって、いつもそう思ってる。
「でも、僕、つらかった。ぽめ太くんもみんなも優しくて。一緒に働いてる子達と仲良くなるほど騙してるのがつらくって。本当に、本当にごめん」
「泣かないでよ、灯さん」
気にしてないという思いを込めて、背を擦った。
もともと、灯さんは人を騙せるような人じゃないんだろう。
下働きの小さな子達といるとき、灯さんは本当に楽しそうだった。楽しそうに面倒を見てて、優しい顔をしていた。
「旦那さんが、ぽめ太くんを傷つけると思わなかった」
俺の頭を殴ったのは、やっぱりあの豪商だった。
あの浅黒い外国人風の使用人に何から何までやらせてたのに、俺を殴るのは自分でってS気質なのか? そうだろうな。
叩かれたんだろう灯さんの腫れた頬と切れた口の端を見ながら、俺は自分の眉がギュッと寄るのが分かった。
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