異世界に(として)転生しました。お前たちがいるのは俺の上なんだけど、わかってんの?

大沢 雅紀

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シラミ族とダニ族

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二億年後。
あるいは混ざり合い、あるいは捕食しあって、彼らは急激に進化しはじめる。
やがてワルドの体表は、細菌や植物の胞子、ダニなどから進化した多種多様な生物が満ち溢れる楽園と化すのだった。
この頃から、ワルドに一つの目的が生まれる。
「誰かとコミニュケーションを取りたい」
一億年にも及ぶ生物の創造・進化の作業は、ワルドの退屈を紛らわせてくれた。
しかし、神に進化したとはいえ、ワルドの心は人間である。自分以外の「他者」を求める生物だった。
「やっぱり、虫とか細菌とかじゃだめなのかな。知能を与えようとしても失敗ばかりだ」
最初はかなり頑張って体内生物が進化できる環境を整えていた。
しかし、彼らは所詮は虫けらであり、本能のまま生きるのみである。安楽な環境を与えられたら満足して動かなくなり、厳しい環境を与えられたらすぐに死ぬ。
どう頑張っても、環境に抗って自分から何かを作り出そうとする知的生物にはなかなか進化しなかった。
「うーん。どうすべきか」
ワルドが考え込んでいると、ふいに彼の本体に刺激が走った。
「かゆっ!いたっ!」
かすかな衝撃だったが、ワルドの体表に痛痒さを感じていた。
「なんかかゆいな。ポリポリ」
二億年も動かしていなかった「右手」を動かして、痒みが走った元頭皮であった部分を掻く。
「うわぁぁぁぁぁ。巨大な隕石の落下だ!神の怒りだ!!お助けください。神様」
なぜか頭皮から、ワルドに助けを求める思念波が発せられた。
しかし、あまりにもかすかな思念波だったので、ワルドは気が付かない。
「なんか最近、頬の肌荒れがひどいんだよなぁ。ガリガリ」
ワルドは次に、「左手」で痛みが走った頬の皮膚を掻く。皮膚が破れて、すこし血が噴き出してきた。

「うわぁぁぁあ。大洪水だぁ。神のお怒りじゃぁぁぁぁぁぁぁ。お救いください。神様」
なぜか叫び声が聞こえてきたが、やっぱりワルドは気が付かない。
考え込んでいると、眠気が襲ってきた。
「まあいいや。知的生物を作り出す方法は、また起きてから考えよう」
そう思うと、ワルドは本体である惑星に戻っていった。


私の名前はロース。栄光あるシラミ族のメス族長である。
我ら一族は、神から使命を授かってこの世に生まれた。その使命とは、神の大事な一部である「毛」を守ることである。
「毛」は我らが住まいとしているウイッグ地方に多く生えているが、放置していればすぐに抜け落ちてしまう。我らは毛がすべて抜け落ちてしまわないように、せっせとお世話をしているのだ。
その報酬として、慈悲深い神は体内から湧き出る「聖なる赤水」をお与えくださる。
我らはそうやって、気が遠くなるほど長いときを過ごしてきた。
しかし、近年になって未曽有の大災害が起きたのである。
「族長!この間の神の怒りにより、多くのシラミ族が滅んでいきました」
或る日、いきなり巨大な塊が降ってきて、ウイッグ地方を蹂躙した。何本もの『毛』がなぎ倒されて、住まいとしていた多くのシラミ族が潰されてしまった。
「なぜ神はお怒りになられたのだ……」
残念だが、我ら卑しきムシケラの頭では、神の意志をくみ取ることは難しい。それでも仲間たちと話し合った結果、一つの結論に到達した。
「これというのも、ダニ族が悪いのだ!」
我らとは別の地方、「チーク地方」に住む、別種族が原因だと仲間たちは騒ぐ。確かに彼らは我々とは違い、恐れ多くも神のお体である大地を掘り返し、神の「頬」の周りにある『毛』を抜いて傷つけていた。
「ダニ族を倒せ!神の怒りを鎮めるにはそれしかないぞ!」
私は仲間のシラミ族を率いて、ダニ族へ戦いを挑むのだった。


我が名はダニエル。偉大なるダニ族のオス王である。
我が一族は、神から使命を授かってこの世に生まれた。その使命とは、神の大事な一部である「皮膚」を守ることである。
「皮膚」は我らが住む大地であるが、放置していれば雑草である「毛」が生えてきてすぐに荒れ放題となってしまう。我らは皮膚が『毛』に覆いつくされないように、せっせと抜いて皮膚のお世話をしているのだ。
その報酬として、慈悲深い神は体内から「脂肪イモ」を生やしてお与えくださる。
我らはそうやって、気が遠くなるほど長いときを過ごしてきた。
しかし、近年になって未曽有の大災害が起きたのである。
「族長!この間の神の怒りにより、多くのダニ族が滅んでいきました」
或る日、いきなり皮膚が破れ、聖なる赤水が流れ出て多くのダニ族が流されてしまった。
「なぜ神はお怒りになられたのだ……」
残念だが、我ら卑しきムシケラの頭では、神の意志をくみ取ることは難しい。それでも仲間たちと話し合った結果、一つの結論に到達した。
「これというのも、シラミ族が悪いのだ!」
我らとは別の地方、「ウイッグ地方」に住む、別種族が原因だと仲間たちは騒ぐ。確かに彼らは我々とは違い、恐れ多くも神のお体に雑草である「毛」を育てて、皮膚を傷めていた。
「シラミ族を倒せ!神の怒りを鎮めるにはそれしかないぞ!」
我は仲間のダニ族を率いて、シラミ族へ戦いを挑むのだった。

「ううん……」
いい気持ちで眠っていたワルドは、自分の体表面にかすかな振動が走ったので目を覚ます。
「なんだ?数万年ぶりによく眠っていたのに……」
途中で起こされて、若干不機嫌になりながら、精神体を作り出して惑星本体から出る。
刺激が走った部分に向かうと、壮絶な光景が広がっていた。
元頭皮があった北側部分から、数十万もの白い肌の六本腕のシラミ族が南下している。
「ダニ族を倒せ!神のお体を守るのだ!」
彼らは抜け落ちた毛ー木を加工した武器を振りかざし、ダニ族を征服しようと南伐を開始していた。
それに対して元頬があった部分からは、数十万の黒い体と鋭い角を持つダニ族が迎え撃つ姿勢を露にしている。
「シラミ族を迎え撃て!奴らは神のお体に巣くう害虫だ。この世界を救うため、滅ぼしてしまえ!」
彼らは皮膚の角質ー石を加工した武器を構えると、攻め込んできたシラミ族と戦いを始めた。
たちまち辺りは数十万もの軍勢同士の激突で騒然となる。砂塵が舞い、シラミ族とダニ族の無数の屍が転がった。
両軍とも一歩も引かず、互いに壮絶な殺し合いを続けている。
あまりの迫力に、さすがのワルドも言葉を失い茫然と見守っていると、やがて戦いは両陣営の中枢同士の激突が始まった。
「ダニ王ダニエル!神の為にお前を討つ!」
「シラミ女王ロース!神のお体をむしばむ害虫を駆除する!」
お互いに神の名のもとに傷つき合い、はてしない殺し合いを続ける。
そのあまりに凄惨な戦いに、ついにワルドは我慢できなくなった。
「いいかげんにしろーーーーーー!」
超強力な思念波で呼びかける。その思念波を受け取ったシラミ族とダニ族は、雷に打たれたかのようにその場に硬直した。
「ま、まさか……」
両軍合わせて100万を超えるムシケラたちが空を見上げる。彼らが目にしたものは、本能に刷り込まれた神の姿だった。
「おお……我らが神よ……」
全員が武器を放り出し、その場に土下座する。ワルドは彼らの前に、ふわりと舞い降りた。


ワルドは虫たちの前で仁王立ちをする。
両種族の陣営からシラミ女王ロースとダニ王ダニエルがでてきて、ワルドの前で平伏した。
「神よ、お騒がせしたことを、誠に申し訳なく思っております」
「この罪は、我らの命をもって贖わせていただきます。ご自由にご成敗ください」
二人は土下座して謝罪する。
しかし、ワルドはしかめ面をして、ずっと何事か考えこんでいた。
(まさか、武器を持って戦い合うほどの虫たちが俺の体に生まれていたとはな。俺の知らないところで、すでに知的生物が現れていたのか……)
そう思うと自然に笑いがこみあげてくるが、神の威厳を保って問いただす。
「これは何の騒ぎだ?」
そう問いかけられた両種族は、それぞれ弁解を始めた。
「ダニ族があまりにも皮膚を掘り返しすぎるから悪いのです。地中の「脂肪イモ」を栽培したいからといって何本もの毛を切り倒しました。彼らを自由にさせておけば、神が本能的におそれる「ハゲ」という自然破壊をもたらすことになります」
シラミ女王ロースがそう弾劾すると、すかさずダニ王ダニエルが反論した。
「シラミ族だって、毛を植えすぎるのが悪いんじゃないか。いくら毛の根本から湧き出る「聖なる赤水」を吸って生きているからといって。あまりそんなことをしていると、皮膚が荒れて赤水が大量に吹き出でて、大洪水が起こるぞ」
どうやら、畑を作るか木を植えるかで争っているらしい。
互いに譲らず延々と言い争いが続くので、ワルドもうんざりしてしまった。
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